第十一訓 一番怖いのは怖いもの知らず。
その日、屋上に銀八の姿はなかった。
代わりに煙を吐き出しているのは見たことのない男。学生服を着ている。
「―――あれ・・・?」
沖田総悟は風紀委員副会長である土方を探して屋上までやって来た。
大抵ここで不良教師坂田銀八と共に煙草を燻らせているのだが、今日は共に姿がない。
沖田は好奇心に駆られて、初めて見る男に近付いた。
「アンタ、誰でィ?」
沖田の声に振り向いた、その男の顔に一瞬息を呑んだ。
正確には顔じゃない。その目にだった。
確かに見たこともない顔だったが、一目見ただけで分かる。尋常じゃない目付き。
頭から左目にかけて包帯が巻かれていて、片目だけで沖田を見据える。
「俺に声掛けるたぁ、勇気あるじゃねぇか」
危険だとは思ったが、逃げ出す程じゃない。腕には覚えがあったし、何よりも好奇心が勝った。
「俺ァ、土方ってヤツ探してんだけど見なかったか?」
「知らねぇな」
「つかよ、何時も此処にいる銀八って先生も見なかったかィ?」
「あいつぁ、俺の事嫌ってるからな。俺がいたら来ねぇよ」
「ふ〜ん・・・」
呟いて、沖田はあっと声を上げた。
聞いたことがある。Z組の欠員。停学してる生徒がいるという話。
一学期も中程過ぎた今では沖田もすっかり忘れていた。名前も覚えていない。
「アンタだな、喧嘩で停学くらったヤツってのは」
「俺を知らねぇヤツがいるとは驚きだ」
男は目を細めて沖田を見た。
「・・・興味ねぇし、一、二年でクラス違ったらそれこそ分かんねェ。俺ァ、馬鹿だから」
沖田の言葉に、男は笑った。
「くだらねぇけどよ、今日は気が向いたから来てみた。・・・けどやっぱくだらねぇよ、学校ってとこは」
「そうかィ?俺ァ、こんな面白いトコねぇと思いまさァ」
「面白い?」
「ああ。今日はよ、風紀委員の手入れがあるんでさァ。エロ本何冊出るか賭けるのには飽きたけど、こないだ桂がエリザベスってモン持ち込んで大騒ぎで、あれは面白かった」
「・・・・・」
男は無言で沖田を見ている。
「アンタの鞄見るのも今日のイベントの一つだなァ」
にやりと口元に笑みを浮かべる沖田に、男は少し目を見開いた。
「目出度ぇし、くだらねぇが・・・、お前は面白いな」
「いやいや、俺なんか銀八せんせーの足元にも及びませんぜ。やっぱ一番はあの人だな」
言って、沖田は再び土方を探す為に屋上の出口に足を向けた。が、何かを思い出したように男を振り返る。
「逃げたら承知しやせんぜ。エロ本なんてベタなモン鞄から出したらトイレ掃除だから」
楽しい獲物を見つけたかのような沖田の言葉と目に、男は笑みを返した。
「総悟っ!」
廊下で呼び止められ、沖田は振り向いた。
「土方さん。ようやく見つけた」
「馬鹿、お前こんな日に何処うろついてやがった?」
「持ち物検査は昼だろ?何年からやるのか聞きたくて俺はアンタを探してたんでさァ」
「それもあるけど、今日は高杉が出て来たって大騒ぎなんだぞ!?」
「高杉?」
「ひーず、でんじゃらす人間。近寄るんじゃねぇぞ、沖田」
振り向くと、銀八が立っていた。
「先生、アンタ何処にいたんだ?屋上の他にさぼるトコあるんですかィ?」
「先生は職員室に居るものでしょうが。しばらくは真面目にやるのよ。・・・て、屋上行ったの?会ったの?高杉に!?」
「あれが高杉か・・・」
呟き、頷いた沖田に、銀八の顔色が変わった。
「おまっ!何してんのぉ!?何で知らないの!?学校一危険な男に近寄っちゃいけません!」
「・・・別に、危険はなかったですぜ?苛めたら楽しそうだし。つか、アンタも高杉が怖いのかィ?」
「楽しそうって・・・」
がっくりと、銀八は項垂れた。
土方も驚いて口を利けない状態だ。
「せんせーは怖くないです。生徒に危険があっちゃいけないから言ってるんです」
「・・・見境なく人傷付けるヤツには見えなかったですぜ?」
「ま、そうなんだけどね。キれると手に負えないっつーか、ギリ殺人っつーか。・・・二年の冬まではそうでもなかったんだけどね」
「・・・何か、あったんですかィ?」
「おい、銀八!」
高杉に興味を持ち始めた沖田に、土方は余計な事を言うなと銀八を睨んだ。
銀八も余計な事だと思ったのか、しまった、というように口を噤んだ。
その後、教室に現われた高杉晋助の姿に教室はざわめいたが、例によって沖田は夢の中だった。
終
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しばらく終わらせる予定はないです。
だらだらと書きたい事書いて更新していきます。
気を長くしてお付き合い下さると嬉しいです。
と、申しますか、次の拍手お礼はどのCPがいいでしょうか?長谷川沖田?そういえば私近沖って書いてないですよね。
後三種類でお礼10個完成なのに・・・。う〜ん・・・。
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