第十二訓 言いたくない事って実は誰かに聞いて欲しいんだよ。
「起きろ、いい加減」
揺さ振られて、沖田は目を覚ました。
「・・・頼むよ母ちゃん、後五分・・・」
「風紀委員の奴等行っちまったぜ」
突っ込みが何時もと違うのに気付いて、沖田は顔を上げた。
土方の席である筈の隣に座っているのは高杉だった。
「母ちゃんに起こしてもらってんのか」
「・・・いや、母ちゃんいねぇし。・・・つか、何でアンタココいんの?」
「真面目に一時間目から居たぜ?この席分捕るのには苦労したがな」
席を分捕った?
一気に目が覚めた沖田は、目を見開いた。
「土方さんが負けたんで?」
「銀八が止めに入ったんだよ」
「・・・だよなァ」
ほっと息を吐き出し、沖田はふと思った。
それはそうと、土方を追い出してまで何故そこにいるのか。
「もしかして高杉よォ、俺に懐いちまったのかィ?」
「馬鹿言うな」
ふ、と鼻で笑って高杉は言ったが、その表情は土方や銀八が警戒する男のそれには見えない。
まぁ、いいか。
沖田は呟いて立ち上がった。
「土方さん何処行ったか知ってるかィ?」
高杉は黙って首を振った後、沖田をじっと見つめた。
「お前は俺が怖くねぇのか?」
「こりゃまたベタな事聞くじゃねぇか。怖がって欲しいのかィ?」
「俺が聞いてんだよ」
この片目でぎろりと見据えられると、確かに怯えに似たものは感じる。
けれど、怖いとは思わない。
沖田は口を開いた。
「アンタには、なんか違うもんを感じる。今までに見たことない人間だ。俺の知らない事を知ってそうだから、面白れェ」
「なんだ、そりゃ」
「・・・俺の気のせいかもしれねぇけど」
沖田の言葉に、高杉は考えるように前を向き、ぽつりと言った。
「闇を見た事、あるか?」
「――――闇・・・・?」
沖田は金縛りに遭ったように身体が凍りつくのを感じた。
高杉の瞳を初めて見た時感じたもの。それを言葉にするなら、確かにそれかもしれない。
「それが、消えねぇんだよ」
何も言えずに、沖田は高杉の横顔を見つめた。
「・・・お前にゃ、関係ねぇ話しだ」
言って、目を閉じた彼に、これ以上は話す気はないと感じた沖田は無言のまま教室を出ようとした。
が、扉の所で足を止め、振り向く。
「高杉よォ、少なくともこのクラスにゃお前の事怖がってるヤツはいねぇと思うぜ」
返事など返ってこない事は分かっていた。
沖田はそのまま教室を出て土方を探した。
妙な胸騒ぎを感じた。
「やっと来たか、総悟」
「―――近藤さん・・・」
二年の教室の辺りをうろうろしていると、持ち物検査をしている風紀委員に会った。
「―――総悟っ!お前、馬鹿か!半日も寝てんじゃねぇっ!」
血相を変えた土方が沖田の顔を見て、教室の端から走って来た。
「何で高杉あの野郎、お前に懐いてんだよ!?何があったんだ!?」
「・・・やっぱり土方さんもそう思いやすかィ?」
「思うわ、馬鹿!あいつ教室入るなりお前見つけて、隣の俺の事蹴飛ばしやがったんだぜ!?」
「寝ててすいやせん」
「本当だ、このボケ!!」
「・・・まあ、落ち着け、トシ。今は仕事中だ」
委員長である近藤に諭すように言われると、土方は悔しそうに口を閉じた。
けれど、黙ったまま土方は手を伸ばすと沖田の手を掴んだ。
何処へも行かせないように、そうしているようだ。
心配、されているのだ。
沖田は不思議な気持ちで繋いだお互いの手を眺めた。
「お前は起きねぇし、・・・こんな仕事なけりゃ傍に居た」
「・・・そうかィ」
他に言葉が浮かばず、沖田はただ頷いた。
楽しい筈の持ち物検査を上の空でこなした沖田は、廊下で銀八に呼び止められた。
「・・・なんでィ、先生も怒るのかィ?」
「正解〜」
おどけた風に言う銀八の目は笑ってはいない。
「なんで高杉に興味持たれちゃったの?」
「しらねぇよ。アイツ、Mなんじゃねぇかィ?」
「それマジだったら面白いね。いや、全然面白くないから」
銀八は一人で突っ込んだ後、沖田の肩を掴んだ。
「・・・マジでアイツ今おかしいから。俺が何とかするからお前はもう近付くな」
―――ああ、この人も・・・。
沖田は銀八の目を見つめながら思った。
この人も、自分の事を心配しているのだ。
「先生は、理由知ってんのかィ?」
「教えない」
「・・・・・・」
じっと見上げる沖田に、銀八は急にきょろきょろと周りを見渡した。
そして、キスをした。
何故か避ける気も、殴る気にもならなかった沖田は目を閉じてそれを受けた。
心配、されている。
それはどうしようもなく嬉しくて、有り難い。
それなのに、どうして自分は二人に謝りたいと思ってしまうのだろう。
高杉が何かを伝えたいと思っていると感じたのは気のせいだろうか。
―――そうじゃない。
沖田は気付いた。
自分が、知りたいのだ。
彼の心の闇を、自分が知りたいと思っているのだ。
終
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ようやく書けた・・・。
色んなの書き掛けてどれも進まないです〜(悲)
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