第十八訓 普通が一番って言うけどそれじゃ面白くないよね。




「あの〜・・・」
風紀委員の会議中。一人の女生徒が部屋の扉から顔を覗かせた。
途端、騒がしくなる室内。
「あれって松平理事の娘じゃねぇか?」
「すっげ、かわいい・・・」
「何の用だろう?」
口々に言う風紀委員達の顔を睨みつけて土方は口を開いた。
「会議中は私語禁止だって言っただろうが!?スクワット逝っとくか!?」
途端、静まり返る室内。
「え〜・・・、今会議中なんだが何の用かな?」
近藤が女生徒に訊ねる。
「申し訳ないでござりまする。・・・土方様に、愛の告白をしに参りましたでございまする」
その場の視線が土方に集中した。



「すっげえええ!逆玉じゃん!やったな!トシィィィ!!」
「・・・何でアンタが興奮するんだ?近藤さん」
土方は松平栗子からの贈り物であるマヨネーズを手に、じろりと近藤を睨んだ。
沖田は愛用のアイマスクを着用して、窓際で寝息を立てている。
「だって、マヨネーズくれたってことはマヨラーに引いてないってことじゃん!すげぇよ!一生ねぇよ!!」
「何だよ、マヨは関係ねぇよ。一生ってなんだ、コラ」
「いやいやいやいや、マヨは関係あるよ。一生の問題だよ」
近藤の反応に一々苛付きながら、土方はとにかく、と溜息を吐いた。
「この話はこれまでだ」
「・・・何だよ、断るのか?トシ」
近藤は大袈裟に眉を顰めて見せた。
土方は人差し指を口に当てて、静かに、と近藤に合図を送り、沖田が寝ているのをもう一度確認する。
まるでこの話題に感心のない風なその態度に軽く傷付くが、何故か聞かれるのも気まずい。
「今から断って来る。この話、あんま言いふらすんじゃねぇぞ」
「勿体ねぇ〜・・・。トシ、誰か好きなやついるのか?」
それには答えず、土方はその部屋を出た。





会議室を出て少し歩いた所で銀八に捕まった。
「聞いたよ、聞いたよ。土方く〜ん」
風紀委員の奴等に口止めなど意味がない事は知っていたが、早すぎる。土方は眉間に深く皺を寄せた。
「何がだよ。手前にゃ関係ねぇだろ」
不機嫌な土方を気にする様子もなく、銀八はにやにやと笑っている。
「なにそれ?プレゼント?すげぇじゃん。ぷぷぷ。マヨネーズってすげぇじゃん」
「んだよ!こんなもんも貰った事ねぇ手前に言われたくねぇよ!」
土方は銀八を睨んで通り過ぎようとした。
が、銀八は腕を伸ばしてそれを邪魔する。
「何よ?速攻振る気ですか?それは拙いんじゃねーの?」
「・・・何でだよ?」
「女の子の気持ちを考えてみ?傷付くよ〜。そんでもってある事ない事噂されて酷い仕返しされるんだよ。決まってんだよ。女ってなぁ、そういう生きもんなのよ」
「経験談か?よっぽど酷い女に好かれたらしいな」
「・・・女運、ないのかな、俺って・・・」
急に声を低くして銀八は呟いた。が、構っていられない。
「とにかく、退けっ!」
「いやいや、待てって。潔癖なんだよ、お前は。ちょっとでも好みだったら沖田に振られた時の為にキープしてみろや」
「・・・は?」
「うわ。その最悪な生き物を見る目。男も女みてーにずるく賢く生きてみよう!論を唱えてんだけじゃん!」
過去、余程女で苦労したらしい。
「うわ。今度はこの世で最も哀れな生き物を見る目?」
「お前が男に転んだ理由が良く分かったよ」
モテない理由もな。
土方は呟いて銀八の腕を振り払った。
「待てって。・・・そんで、アイツはヤキモチ妬いてくれた?」
「――――・・・」
土方は銀八の顔を見た。
「どいてくだせェ」
その時聞こえた沖田の声に振り返った二人は、同時に言葉を失った。
無表情にこちらを見る瞳。
それは、土方が何時か見た事のある表情だった。
「廊下の真ん中でじゃれ合ってられると邪魔なんですがねィ」
「「じゃれ合ってねぇよっ!!」」
同時に発した声に、沖田は眉を顰めた。
「一緒に一つのベッドで寝た仲だもんなァ、仲良くて当然だねィ」
合宿の朝、二人は沖田のベッドで目を覚ました。前夜の事はお互い何も覚えてはいない。
気まずい雰囲気の中で乾いた笑いを洩らしたのは二日前の事。
沖田の言葉に一瞬青褪め言葉を無くすが、銀八はそれよりも目前の事が気になる。
「―――つか、お前、変な顔してる」
「・・・そんなの、元からでィ」
「いやいや。・・・もしかして、ヤキモチ妬いてんの?」
沖田はじろりと銀八を睨んだ。
「待てって。土方君との仲を誤解されても困るから。ナイナイ」
「―――バカか、お前は!」
土方は大袈裟に振る銀八の手を叩いた。
「だって、あれ怒ってんじゃん。今の流れじゃ完全ヤキモチだよ」
「ガキかっ!手前は!」
例えそうであっても、他人に指摘されて面白い人間はいないだろう。
しかし、沖田に限ってそんな事は絶対にない。
そう思った土方はもう一度沖田を振り返った。
そして、やはり銀八の言う通りなのではないかと思い直した。
最近見る事のなかった、その表情。けれど以前、確実に見た事のある表情。
「総悟―――?」
「俺ァ、どいてくれって言ってるんですがねィ?」
その迫力に、土方は思わず道を開けた。
が、擦れ違い様沖田が言った言葉に振り向く。
「良かったなァ、これでアンタも人並みの人生送れるってもんでさァ」
目を見開き、去って行くその後ろ姿を見つめた。
「・・・何、アレ?」
銀八も沖田の背を見ながら呟く。
「・・・マジであの夜、俺達何かあった?」
「・・・・・・」
土方は口元を押さえて顔を伏せた。
思い出した。
あれは彼が、土方と近藤が出会い、近付いた時に見せた顔。
幼稚園の時、土方が同じクラスの女の子にほのかに抱いた恋心を彼が知った時に見せた顔。
おそらくそれは、彼が寂しい時に見せる表情なのだ。
自惚れてしまう。
どうしても、期待が捨てきれない。
はっきりしてもらわないとおかしくなりそうだった。
「人並みの人生って何だろうね?」
そう言った銀八を振り返ると、彼はただ微笑っていた。












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もう本当、ごめんなさい。予想通り最初書いたのと違いました。
何で消すかな?自分!!まあ、どっちにしても納得は出来てないのですが・・・。


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