第二訓   セーラー服はロマンでしょう。





「一本くれよ」
不意に声を掛けられ、銀八は溜息を吐き出した。
校舎の屋上。そこは銀八の休憩の定位置だ。
「ま〜たお前か・・・」
振り向いた銀八は一瞬言葉をなくした。声の主だと思っていた土方ではなく、そこに立っているのは沖田だった。
「土方さんだと思ったんでしょう?残念でしたねィ」
にやりと笑って、沖田は銀八の手から吸い掛けの煙草を取り上げると口に咥えた。
「・・・おい、おい」
銀八は冗談だと思ったが、沖田は慣れたように煙を吸い込み、そして吐き出す。
「不味い」
顔を顰める沖田に銀八は少し安心した。
「お前等何ですか?元ヤンですか?センセーの和み邪魔すんじゃねーよ」
「そりゃすいやせん。でもこんないいトコ一人占めなんてずるいんじゃねェかィ?」
人目がない上に日当たり良好。見つからないのをいい事に吸殻は散らかり放題だ。
「特権よ、特権」
「・・・こんな不味いモン、アンタ等良く吸えるよなァ」
煙を燻らせながら、沖田はしみじみと呟いた。
「悪いもの程クセになんのよ。つか、お前普段やってんの?」
「土方さんの真似して前にちょっと吸ったけど止めた」
「・・・土方か・・・」
銀八は呟いた。
「ちょっと聞いた話なんだけど、ウチのクラスに苛めがあるとかいう噂、お前知ってるか?」
途端、沖田は小さく笑った。
「なんでィ、あの人アンタに相談とかしたのかィ?」
「確信犯ですか。理由はなんですか?目付きが悪いのが気に入らないか?モテそうなのが気に入らないか!?」
「そりゃ、アンタの意見だろう」
苛めじゃねェよ、と沖田は言った。
「自覚あんのに否定するか?お仕置きはナニがいい?縛りか?放置か!?ローソクか!?」
「何言ってるんですか、先生。セクハラで訴えますよ」
「アレ?標準語話せるの?」
冷たい目で沖田は銀八を見ている。銀八は視線を宙に彷徨わせ、取り出した煙草に火を点けた。
「・・・でもよぉ、制服隠すとか、川に落とすとかは悪質じゃねぇ?」
「川?制服?」
沖田はしばらく考え、思い出したように顔を上げた。
「そりゃ、あの人が犬のウンコ踏みそうになったから突き飛ばしたヤツだな。たまたま前に川があったんでィ」
「・・・ふぅ〜ん・・・」
「似たようなので車に轢かれそうになったってのもあったなァ。あの人は不運の塊みてェな人だから」
「・・・へぇ〜・・・」
「制服はあれだな。土方さんは昔から女にモテてよ、取られたのを取り返してやったら、なんか俺が疑われた」
「ハンカチの口紅もそんなんか?」
「良く知ってるねェ、先生。ありゃ、中学の女教師だったぜィ。しかも、亭主持ち。口止めの代わりにがっつり脅してやったけどね」
沖田はにやりと笑った。
つられて銀八も笑ったが、引き攣った。
「お前、何でそれ否定しねーの?てか、全部違うとも言い切れねーけどな」
「面白いから。土方さんが心底嫌そうに俺を見るからつい」
「何ソレ。Mデスカ?Sデスカ?良くわかんねー心理だよ」
「・・・俺も、良くわかんねェや」
昼下がりの暖かな風が、沖田の髪を揺らした。
「先生、今の、土方さんにはナイショな」
唇に指を当てて笑う沖田に、銀八は軽い眩暈を覚えた。
「・・・あー・・・。じゃー、交換条件」
沖田は嫌そうに眉を寄せた。
「何でィ?口止め料取るってのかィ?」
この嫌そうな顔はなかなかソソるものがある。銀八は沖田の心理がなんとなく分かった。
「セーラー服着てみて?」
「はあ?」
何考えてんだアンタ、と沖田は呆れた声を出した。
「いや、マジで。ぜってー似合うから」
「似合おうが何だろうがぜってーヤダ」
沖田は言い捨て、くるりと銀八に背を向けた。
「言うぞ。俺は言っちゃうぞ」
「勝手にしろィ」
冷たく言い、沖田はすたすたと屋上の出口へと向かう。
「ちょ、待てよ〜。ぜってー着せるからな!!」
既に返事も返って来ない。
鉄の扉がバタン、と無情に閉まる音を聞いて銀八は息を吐き出した。
「・・・やっぱ、可愛いじゃん。アレ」
土方も見る目がない。
銀八は一人呟いた。

















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バカですから・・・。いや、私がね・・・。


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