第二十訓 学校の七不思議って一つは真実がある。



その日、屋上に足を踏み入れた銀八は先客がいる事に少しだけ驚いた。
けれど予感はあった。きっと、彼はこうして一人で会いに来るであろうと。
「・・・先生、何してんでィ・・・?」
「や、鍵、かけようかと・・・」
たった今背後で閉まった扉の鍵に手をかけて、銀八は笑った。
予感していたその時は思ったより早く訪れた。
思ったより胸の痛みは大きい。
「――――先生は始めっからお見通しだったよなァ・・・」
「だって分かりやすいじゃん、お前等」
こんなにハマらなければ、今、無様な顔を見せなくて済んだ。
どうしていつも、他人の物を横取りしたくなるのだろうか。
変なクセが出て、ハマって、自分から傷付いて。
けれど、何時だって最初から諦めていたわけではない。
「・・・先生・・・?駄目だよ。俺ァ、もう土方さんのモンだから」
銀八の手は鍵にかかったまま、背後の沖田を振り返ることもしない。
「決めちゃったワケ?じゃあ、土方が今日休んでるのってそのせいか?知恵熱か?」
「・・・間違いなく、それでィ」
言って、沖田は苦笑を洩らした。
本当は自分も起き上がるのも辛かった。
昨夜土方と抱き合ったのは良かったが、その先をどうすればいいのかお互い分からず、繋がるまでに時間がかかった。
そうする必要性は良く分からないが、とにかく早く、もっと強く気持ちを確かめ合いたいと思った結果だった。
「・・・俺、教師辞めようかな・・・」
ぽつりと呟いた銀八の言葉に、沖田は顔を上げた。
「駄目だよ」
「何で」
「だって・・・、先生は、先生だから・・・」
「何、ソレ」
今度は銀八が苦笑する。
「先生はずっとここで、授業サボって煙草吹かしてなきゃいけねぇんだよ」
「ずっとって・・・、苛めか・・・?」
「・・・そんで・・・、俺達が何時来ても、ここでだるそうに迎えてくれんだよ」
「・・・・・・」
銀八の手が、ぴくりと動いた。
「そういう存在が、3Zの皆には必要なんだよ」
「・・・・・・ばーか・・・」
静かに手を下ろすと、銀八はゆっくりと振り向いた。
「お前等なんか迎えてやんねーよ。二度と帰ってくんな」
銀八が見せた笑顔に、沖田はほっと息を吐き出した。
「先生・・・」
「何でガキに諭されるかねぇ・・・」
情けねぇ、と銀八は呟いて頭を掻いた。
土方に負ける所といえば、あの純粋さだろうか。あれだけは、真似したくても出来ない。
年を重ねるにつれて失った、大きな物の一つだろう。
けれど、手に入れた物も沢山ある筈だった。
それを生徒達に教えるのが、銀八の仕事なのだ。
「・・・だるいし、辛いし、給料安いし、女運良くならねーし。正直やってらんねーよ」
「そうかィ?でもアンタに合ってまさァ」
実は自分でもそう思うんだよ。
その呟きは胸の中に仕舞う。
これ以上大人の威厳を崩してたまるか、との虚勢。
「先生、最後にひとつだけ、内緒の話しようか?」
「何?」
面倒臭そうに銀八は沖田に耳を傾ける。
「キスは、先生の方が上手いよ」
「―――――」
虚勢を失った顔で銀八は沖田を見た。
そんな銀八を見た沖田の顔。
そして、思う。

――――ガキ共の、この笑顔だけは何度見ても飽きねぇんだなぁ。




翌年、3年Z組の生徒全員が奇跡的に卒業出来た事は、銀魂高校の七不思議として長い事語り継がれる事となる。











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そんなワケでお終いでっす!!長い事お付き合いありがとうございました!!!
銀八ENDは裏の方に何時の日か書く予定でッス!

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