第四訓   美味しいものは一人占めしよう。







めずらしいことにその日は朝から屋上に煙が漂っていた。生徒はまだ誰も登校している様子がない。
「さて、沖田君はどうするのかな・・・」
銀八は楽しそうに呟いた。
「・・・やっぱり、目当ては俺かィ」
突然声が聞こえ、銀八は飛び上がる程驚いた。
「け、気配消すなよ!お前は忍者か!」
「苛めんのは好きだが、まさか自分が苛められる日が来るとは思わなかったぜィ・・・」
沖田は心から悔しそうに呟き、徐に自分の制服に手を掛けた。
ボタンを一つずつ外し始める。銀八は呆然とそれを見つめた。煙草の灰が落ちるのにも気付かない。
沖田は潔く学ランを脱ぎ捨てると、袋から取り出したセーラー服を身に付け始めた。
「・・・畜生、コレどうやって着るんだ?」
「手伝おうか〜?」
もたもたと着替える沖田に、銀八は声を掛けた。それを沖田は眼で拒否する。
ようやく着替え終わった沖田は銀八の前に仁王立ちになった。
「これでどうでィ!?文句ねェだろうが!先生様!!」
「・・・カワイ〜・・・・。男らしい脱ぎっぷりもポイント高いね〜」
思った通り良く似合う。銀八はうんうんと頷いた。
「これで免除してくれよ。すぐ着替えていいかィ?」
「それじゃ、俺の立場がねーじゃん。皆どーやって納得させんの?そもそもお前が素直に最初からそうしてればだな」
「できるかっ!!!」
「・・・じゃ、コッチおいで」
嬉しそうに手を広げる銀八に、沖田は警戒を露わにして後退る。
「・・・やだ」
「お着替え手伝ってあげるし。メイド服なんかもあるし」
「嫌です」
ふるふると沖田は首を振る。
「取り合えずまだ喋ってないけど、言っちゃおうかな?土方君に」
「な・・・」
「何だ、そりゃあ!?」
沖田が口が開きかけた時、後ろで扉が開いた。
驚いて振り向いた二人の目に飛び込んだのは土方。セーラー服を着ていた。
「――――・・・」
沖田は口を開けたまま土方を見つめる。
「・・・いや、似合うじゃん。土方君。うんうん、俺の女装と張れるな」
「嬉しくねぇよ!それより今のはどういう事だ!?俺に何を隠してるってんだ!?」
「実は・・・、総悟君の今日のパンツは黒のボクサーパ・・・」
途端、顔面に肘鉄が飛んで来た。
「土方さんの話なんかしてねェよなァ?先生?」
にっこりと笑う沖田に、銀八は鼻を押さえながら頷いた。
「うん・・・してない・・・」
「何だ、前言ってたの本気だったのか!?総悟見る為だけに俺達にまでこんなカッコさせたのかよ!?」
いや、普通気付くだろ。
思ったが銀八は口には出さなかった。
「いやいや、ウチのクラスは皆バ・・・」
「バカ?今バカって言ったか?」
「・・・素直な子達ばかりで先生助かるな〜って・・・」
「そうだよ!特に近藤って男は超が付くほどの真面目人間なんだよ!ご丁寧に俺の分まで借りてきやがって、着ないわけにいかねぇじゃねぇかっ!!てか、総悟っ!さっきから何笑ってやがんだ!?」
うずくまり、お腹を抱えて沖田は先程から笑いを堪えるのに必死だ。
「・・・や、先生、俺ァ誤解してました・・・。こりゃあ、最高のイベントでィ」
「だろ?何だかんだ言って皆変身願望ってのがあってだな〜」
「・・・その結果を見てみろよ。教室、とんでもねぇ事になってるぞ」
「何?皆もう来てんの?早っ」
驚く銀八に溜息を吐き出し、土方は改めて沖田を見た。
「―――う・・・」
可愛い・・・。
性別を知っていても、女にしか見えない。もしかしたらかなり好みの顔なのかもしれなかった。
そんな土方を見返す瞳は笑いで涙まで浮かべている。急に自分の姿が恥ずかしくなった。
「クソっ!こんな格好してられっか!」
「いやいや、土方さん、今日一日着てなきゃ折角の先生の授業が台無しですぜ」
「そうやって一日中笑うつもりか、手前!?」
「そうだ!これを見逃す手はねェや!」
沖田は急に顔を上げると、楽しそうに校舎へと走っていった。
「違和感ねぇな。アイツ・・・」
沖田の後姿を見送りながら土方は呟いた。
「・・・ねぇ、そんなすごい事になってる?Z組・・・」
銀八は恐る恐る土方に訊ねた。土方は思い切り頷く。
「男共はハジけた女装してやがるし、女は仮装だかなんだか、化け物屋敷みてぇになってる」
「俺、エスケープしていい?」
「させるかよ。・・・そういや、桂も違和感なかったなぁ・・・。あいつだけ普通に見えた。てか、長谷川とか近藤さんとか見惚れてたな」
「そりゃ、あいつは趣味だから・・・って・・・、――――ヤバッ!!」
銀八は目を見開いて校舎を見た。
「土方!沖田を止めろっ!!」
「へ!?何かあったのか!?」
「俺とした事が・・・。このままじゃ一個人の萌えじゃなくなるっ」
訳が分からないながら、土方は銀八に続いて走り出した。
「何なんだよ?総悟がどうかしたのか?」
「ばか!あれ可愛いべ?可愛いと思っただろ?他のヤローに目付けられたら勿体ねーだろ!?」
「・・・もとはといえば手前が始めた事だろうが・・・」
呆れるが、確かに銀八の言う事も分かる気がする。
どうでもいい事の筈なのに、土方はいつしか必死に走っていた。

























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ぐだぐだ〜。・・・なんか自分だけ楽しんで書いてる感、山の如し。
いつも感想くれる恵ちゃんありがとう・・・。ほんと、救われてます・・・。



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