第五訓   普通の人なんていない。






土方は沖田の姿を探していた。
目を離すとすぐいなくなる。
「・・・ったく、なんで俺があいつのお守りなんざしなきゃなんねぇんだ」
呟いた時、背後から聞こえた声に土方は振り向いた。
「好きです」
長い髪の女子生徒の後ろ姿が見えた。相手の顔は見えないが、おそらく沖田だ。こういう現場に立ち会ってしまったのは何度目かになる。
銀八の予感が当たり、女装姿を全校生徒に見られた後の沖田は男女分けなく人気者になってしまった。
授業の合間の短い休み時間でさえ呼び出される程だ。
校内の告白スポットは大体決まっているとはいえ、探し回る身にもなって欲しい。
「あなたの姿を見るだけで幸せでした」
その言葉を聞き、土方は僅かな気まずさを覚えた。本当は他人が聞いていいものではないだろう。
「でも・・・、それだけじゃ満足できないの。貴方のSっぽい所がたまらなく好きです」
「・・・・・?」
土方は首を傾げた。確かに沖田はSだが・・・、こんな告白は初めて聞く。
「今度私を思い切り苛めて下さい。それから・・・、ぎっちゃんって呼んで・・・いいですか?」
「????」
土方は女の顔を見ようと思わず身を乗り出した。
「誰っ!?」
振り向いた女生徒はメガネをかけた美人だ。だが、告白の相手は沖田ではなかった。
「・・・助かった、土方君」
銀八は冷や汗を浮かべ、手を上げる。
「どうして逃げるの?土方君!俺も連れてって!!」
走り出す土方に銀八も付いてくる。
「うるせー!良かったじゃねぇか!大人しく告られてろっ!」
「だってあいつ変だもん〜。“くの一プレイは好きですか?”とか聞いてくるもん〜。なんでうちのがっこあんな女子ばっか・・・!」
「好きだろ!?手前がモテるなんて二度とねぇぞっ!今すぐ引き返せっ!」
「好きだけどノリノリはやだ!嫌がってるのに無理矢理着せる萌えが・・・ってこれは応用問題だよ!土方君!」
「知るかっ!」
全力疾走で怒鳴りながら、土方は辺りを見渡した。では、沖田はどこにいるのだろう?
「どした?」
銀八が聞いてくる。
「・・・見失った・・・」
土方は足を止めると、息を整えた。銀八も同様にする。
「沖田か!?お前〜、頼むよ、マジで」
「紛らわしい所で告られてんじゃねぇよっ!だから間違えたんじゃねぇかっ!」
「だから、相手が女の時はいいっつってんだろ!?問題はヤローなの!!」
「・・・なんでだよ?」
土方はじろりと銀八を見た。
「わっかんねーかなー?あれ絶対ソッチの気あるって!自覚なくても押せばころりよ。そういう匂いがすんの!」
「わかんねぇよ!!長い付き合いだがあいつはノーマルだっ!」
無言で睨みあう二人は、同時に人影に気付いてそちらを見た。
「ちゃんとこれ洗ったアルか?」
「しつこいなァ、お前」
沖田が女生徒と並んで歩いている。
「お前ちっこいから超ミニになったけどなァ」
「なかなか似合ってて面白かったヨ。ちくわくれたら、またいつでも貸すから言うヨロシ」
どうやら沖田はあの神楽という留学生からセーラー服を借りたらしい。
「二度と借りねぇけどよ、・・・お前何時も何かじってんでィ?」
「コレ?酢昆布。食うか?」
口に無理矢理酢昆布を突っ込まれて沖田は顔をしかめているが、何故かいい雰囲気に見える二人に土方も銀八も声を掛けることが出来なかった。二人も土方達に気付かず通り過ぎて行く。
しばらくの間を置いて、土方は引き攣った顔のまま銀八を見た。
「・・・な?だろ?だろ?俺の言った通りだろ?」
「うっわ。伏兵かよ〜。汚ね〜。マジヘコむっちゅーの。でもあれ嘘。ぜってー嘘」
「聞けよ」
じゃあさ、と銀八は土方の目を覗き込んだ。
「俺に言われたからって何で土方君はあいつの尾行なんてしたの?気になるからだろ?」
「・・・・・」
土方はぐっと言葉に詰まる。
「そういう気持ちにさせるモンが沖田君にはあるのよ。分かる?」
「わかんねぇよ」
言ったが、それが強がりであることは土方自身薄々気付き始めていた。
銀八の言う通りであったし、説明できない今の胸の痛みは何だったのか。
この寂しい気持ちは何なのか。
土方はようやく、沖田総悟という人間について考え始めていた。












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やっはっは。セーラーを借りるのは神楽からvこれは最初から考えてたんですけど、とりあえず頭にあった所まで書いたので3Z小休止です♪

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