第七訓   若さは馬鹿さだ!!
        かといって年取っても馬鹿は馬鹿ですから!!







自分でもまさか、本当にこんな感情を抱くとは思っていなかった。
“かわいい”ってのは、そのままの意味で、=“好き”という方程式は俺の中にはなかった。
ましてや、相手は正真正銘のガキで、自分の生徒。教師と教え子という関係は大変美味しく、それこそ萌えのシチュエーションではあるけれど、現実の話ではない。
一応自分の立場も守らなければいけないものだったし、クラスのガキ共など、ひよこのようなものだった。

しかし、俺は今目の前のそのガキに欲情し、あろうことかキスなどしてしまっていた。



「先生・・・」
放課後の教室。掲示板のプリントの張り替えをしていた俺は呼ばれて振り向いた。
嫌に暗い顔をして扉の所に立っているのは沖田総悟。
「・・・どしたの、今度は誰に押し倒されたの?」
それに対する沖田の返事は、ない。
再び掲示板に視線を戻すと、俺は手を動かした。画鋲を一つ一つ刺す。
作業の間、沖田は黙って待っていた。
数分後、ようやく全ての作業が終わり、俺は曲って張られたプリントを満足げに見た。
その時になってようやく沖田は口を開いた。
「アンタのその張り方、味があるよな」
「お、分かる?この定まらない角度が難しくて、題すると“青春の迷い”?・・・」
振り向いた俺は、彼の様子が今までにない深刻なものだという事に気がついた。
「お前もせーしゅんの・・・、迷いってヤツ・・・?」
「そんなんじゃねーよ」
首を傾げた俺に、沖田は笑うと顔を伏せた。
「・・・別に、相談とかそんな恥ずかしいモンじゃなくて・・・。アンタなら知ってるかと思ってよ」
「何を?」
首を傾げたまま問い掛ける。
「・・・土方さんが、俺を避ける理由」
「・・・・・」
ああ、またアイツ絡みなワケね。
てか、アイツ避けてるんだ。
それでそんな顔するんだ。
俺は妙に納得した。が、手に取るように分かるこの二人の心理を正直に話すのを躊躇った。
「さみしーならなぐさめてあげるけど?」
「・・・そんなんじゃねー・・・、事も・・・、ないの、かな・・・?」
沖田は問い掛けるようにこちらを見た。
「俺、寂しいのか・・・?」
そんな沖田に、俺は黙って頷いた。
楽しいおもちゃを手放す気分だった。
けれど、教師として自分の生徒にこんな顔をさせていたくない。
土方はお前が男嫌いだと分かったから避けてるんだよ。
自分を好きになる確率が低いから、傷付きたくなくて避けてるんだよ。
これ以上好きになる前に。
「餓鬼の考えそうな事だよな」
呟いた俺を沖田は見つめた。
どういう意味だと、その瞳が問い掛ける。
―――ああ、やっぱりこの顔は好みだ。
「・・・教えて欲しい?」
意地悪く聞く俺に、沖田は数瞬躊躇った後頷いた。
「ああ」
おいで、と手を振る俺に沖田は従順に足を動かす。
「俺に、キスしてみ?」
「――――」
沖田は目を大きく見開いた。
「ほら、早く」
「じょーだん、キツいだろ・・・、せんせー」
「冗談じゃねーもん。お前が男にキス出来るかがこの問題の最重要ポインツだ」
「マジ・・・か・・・?」
期待してた訳ではない。素直に教えるほど余裕のある大人ではないだけだった。
ひねくれてるし、俺の中身はドSだ。
困った顔を見て、軽く鼻で笑って教えればいいと思ったその時、沖田は俺を睨むとその唇を唐突に近付けた。
ぶつけるようなそのキスに、俺の理性は一瞬で吹き飛んだ。
彼の学生服の肩を力任せに掴み、逃げないように抱き締める。
柔らかい唇を味わい、固く目をつむるその顔を見つめ、表情を楽しんだ。
やっぱり、手放すのは惜しい。
まだまだ、せめて卒業するまでは眺めて転がして遊びたい。
土方が可愛くない訳ではないが、渡したくなかった。
そこまで思った俺は、その考えこそ子供じみたものだという事に気付いて愕然とした。
―――てか、何してんの?俺?
気付いてる筈なのに離す事の出来ない唇、その身体。
―――からかってるだけじゃなかったのか?俺?
そうではなかったのだ。
熱くなってくる欲望の中心をはっきりと自覚した。
その時何も起きなければ、彼を教室で押し倒し、自分の為だけにその行為を遂行しただろう。

それが出来なかったのは教室の扉が急に開いたからだった。

唇を合わせたままの二人の視線の先に居たのは土方その人だった。















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ふふ。ありきたりな展開。


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