3Z的日常 2





「姐御!私、ヤバイ!ヤバイある!!」
切羽詰った表情で駆け寄る神楽を、お妙は微笑を湛えたままゆっくりと振り返った。
「聞いたわよ、神楽ちゃん。下校の生徒が行き交う廊下で、沖田君と熱い抱擁を交わしたそうね」
「―――――や・・・、実はそうなのヨ。あいつ、私のこと好きだったアルよ」
参ったヨ〜、と神楽は顔を赤くして頭を掻いた。
「大告白したのは神楽ちゃんだって聞いたけど?」
「そうだったかな?でも最初に好きだって言って嫉妬までしたのはアイツね!」
「そう。・・・何はともあれ、おめでとう」
「いやぁ、ありがとアル」
神楽は照れ臭さを感じながら、昨日の事を思い出した。
夢のようで、嘘のようで、あまりに実感がなかった。
「それで、何がヤバイの?」
「――――あっ、」
神楽は焦っていたのを思い出して、手を打った。
「・・・私、アイツの顔見れないヨ」
「・・・・まぁ、昨日の今日だし、仕方ないかも。神楽ちゃんでも恥ずかしいなんて思うのね」
何気に酷い科白だが、神楽は気にも止めない。
「だって、アイツ、滅茶苦茶可愛いアルヨ!昨日よりもっともっと可愛く見えるヨ!!あの茶色の髪ぐちゃぐちゃ〜ってして、抱き締めてちゅーして押し倒したくなるヨ!!!」
お妙は目を瞠った。
「・・・・それはヤバイかもね・・・」
色々な意味で。
呟いたお妙に、神楽は頷いて頭を抱えた。






神楽を見つけた沖田は、彼女の傍へと駆け寄ろうとした。
が、神楽は沖田と目が合った途端、逃げ出すのだ。
「・・・なんでィ、あいつ・・・」
沖田はつまらなそうに呟いた。
昨日、思わず抱き締めてしまったのがまずかったのだろうか。
独占欲が強い所に引いたのだろうか。
それとも、一晩で心変わりしたのか。
心当たりは沢山あるような、でもやっぱりないような。
どれだけ考えても解らないから、直接話をしたい。でも、出来ない。
「女って難しいなァ・・・」
「生意気な口利きやがって」
溜息をつく沖田の背後から声を掛けたのは近藤だった。
「近藤さん・・・」
「何だ、コノヤロウ。この俺を差し置いて彼女持ちか?コノヤロー。羨ましい事山の如しだコノヤロー」
「・・・や、違いまさァ。彼女なんてのじゃねぇと思いやす。・・・多分」
「告白して抱き合って、付き合ってねぇなんてどの口が抜かす!?」
近藤は目を吊り上げると、沖田の頬を抓り上げた。
「ひてて・・・、いてぇよ!」
「男として、そんないい加減なのは断じて認めません!はっきりしろ!はっきりしたら、貫くのだ!!」
沖田は頬を擦りながら、近藤を見上げた。
近藤の言っている事は正しい。
「・・・はい」
沖田は素直に頷いた。
生意気だろうが、ガキだろうが、下品だろうが、別に構わない。神楽を他の男に渡したくないと思ったのは事実だ。
あの小さい身体で自分と対等に渡り合う所もいいと思ったし、可愛いと思ったのも確かだった。
「・・・でもよ、近藤さん。逃げられる場合はどうしたらいいんでィ?」
「嫌よ嫌よも好きの内、もしくは嫌われている!助言すると、しつこい男は嫌われるぞ、総悟」
アンタにだけは言われたくねぇよ。
声には出さず、呟いた。







自分を見つけたアイツの、何か言いた気な眼差し。
少し上がる口元。
「か〜、わ〜、い〜、い〜っ!!」
神楽はじたじたと足踏みをした。
「マジヤバイ」
神楽は鼻から出てきた血を押さえた。
思い出しただけでこれだ。実物を目の前にしたら野獣と化すかもしれない。
「紙、紙・・・」
神楽はポケットを探った。が、そんな物持ってもいない事に気付く。
その時、すっと目の前にティッシュが差し出された。
「あ、ありがと・・・」
言って、顔を上げた神楽は叫びそうになった。沖田が目の前に居る。
瞬間、逃げ出そうとする神楽の手首を、沖田は掴んだ。
「もう逃がさねェよ」
「―――――・・・・っ」
神楽は観念して、ティッシュを鼻に詰めた。
「・・・とりあえず、俺の何が悪いのか教えてくれィ」
裏庭に移動した二人は芝生に並んで腰を下ろした。
「・・・・・・・・」
「つかよ、何?その鼻血?」
「・・・・・思春期の女は辛いアルヨ」
神楽は沖田から視線を逸らしたまま呟いた。
「しつこい男は嫌われるそうだから、嫌ならもう止めようか?」
「・・・・止める・・・?」
何を?
好きなのを止める?
考えただけで泣きそうになった。そんなつもりじゃない。そんなのは嫌だ。
「・・・何でそこで泣きそうになるわけ?わっかんねぇなァ〜」
沖田は大袈裟に息を吐き出した。
「・・・嫌われたくないから、顔合わせないようにしてたネ」
「何で俺が嫌うんだよ?」
神楽は思い切って顔を上げた。
「じゃ、今から何をしても嫌わないって約束しろ!」
「・・・・・・」
ずいっと、目の前に差し出した神楽の小指を眺め、沖田は自分の小指を恐る恐る絡めた。
「よし!」
掛け声と共に、神楽は沖田の頭をがしっと掴み、髪がくしゃくしゃになるほど撫で回した。
頭、小さっ!
髪、細っ!柔らかっ!
しかもなんかいい匂いするっ!!
つか、何その顔、かわいっ!
首を竦めて固く目を瞑る沖田に、神楽は抱き付いた。抱きつくと言うよりは、母親が子供を胸に抱き締める格好に似ている。
そうして、乱れた髪を撫でて綺麗にした後、そっとその髪に口付けた。
「・・・・・あの〜・・・・」
大人しくされるがままになっていた沖田は、口を開いた。
「・・・やりたい事って、これ?」
実はもっともっと弄りたいが、とりあえず満足した神楽は頷いた。
「何でこれで嫌わなきゃなんねぇの?お前の思考、ほんっと意味不明」
「でも、だって、本当は仰向けに引っくり返して腹とか撫でたいヨ!?」
「・・・犬扱いかよ・・・」
呟いた沖田は、神楽をやんわりと押し返した。
「分かった。別にこんなんじゃ嫌ったりしねぇから・・・、何も言わないで逃げたりとかはもうしねぇでくれィ」
「・・・うん・・・・」
神楽は頷いて、沖田を見た。
「沖田?」
「んだよ」
「何で顔、そんなに真っ赤?」
「―――――っ、思春期の男は辛いんだよっ!」
やっぱりお前も女だったんだな。
沖田はその科白を胸に仕舞った。
抱き締められた時、おでこに当たる柔らかな感触に動揺した事等、知られる訳にはいかない。
嫌われるのが怖いとは、こういう心情なのかもしれない。






「ままごとみたいね」
二人の様子を少し離れて見ていたお妙は、背後で草叢に身を隠す近藤に声を掛けた。
「わっはっは。ガキがガキと付き合うと、なんつーか、じれったいですね〜」
近藤はがさっと音を立てて立ち上がると、頭を掻いた。
「でも、純粋だわ。私達よりずっと、はっきりしてる」
「わっはっは。そうとも言えますね〜。あいつ等は恥を知らないからね〜」
「・・・・お前ほどじゃねぇよ」
「つか・・・、私達って?俺はずっとはっきりしてるじゃないですか!お妙さん!?」
近藤は驚いた風にお妙を見た。
そんな近藤から、お妙は視線を外す。
「そうね・・・。やっぱり私がいけないのかしらね・・・」
「え?どういう意味ですか!?やっぱりダメなんですかっ!?」
溜息を吐きながら歩き出したお妙の後を、近藤は小走りで追い駆けた。


















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はぅ。メッセージで「神沖増やして」と頂いたので書いてみた一品でした。
神楽がまるで私が乗り移ったかのような変態振りでスミマセン。
神沖の地下は・・・、無理だよなぁ・・・。ちらっと考えたけど、やっぱ書けないですな〜。

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