愛すること
今日のヤツは非番だ。最近は何をしているのかもさっぱりわからない。
ヤツの事は鼻垂らしてる時分から知っているのに。
「おい、総悟の奴どこいったか・・・」
土方は真撰組局長、近藤勲の部屋の襖を勢い良く開けて言った。
しかし、その部屋も空っぽだった。
こっちは何処へ行ったのか想像がつく。最近の局長の趣味はストーカーだ。
「やれやれ・・・」
土方は溜息と共に煙を吐き出した。
庭からはミントンが空を切る音が先程から絶え間なく聞こえている。
どいつもこいつも。
「見廻りでも行くか・・・」
呟いて、土方は玄関へと足を向けた。
道行く罪のない人々にガンをくれながら、土方はぶらぶらと歩いていた。
ふと、通り過ぎた喫茶店に知った顔を見たような気がして振り返る。
いた。総悟だった。
よく見ると、向かいに座っているのは局長の想い人、お妙とかいう女だ。
「だからァ、あんたも強情なお人だなァ。いい加減うんって言ったらどうでィ?」
「私が頷く事なんて何もないでしょう」
女はにこにこと菩薩のような笑みを浮かべているが、これが一転すると世にも恐ろしい形相になる。
「だからァ、何がそんなに気にいらねえって言うんでィ?」
「全てよ」
「目ェつぶりゃあ、男なんてみんな一緒でさァ」
沖田の一言でお妙の顔色が変わる。
「ふざけんじゃねーぞ。黙ってりゃ調子のりやがって、糞餓鬼が」
女の声がドスを利かせた所で、土方は登場した。
「・・・お前何してんの?」
土方を見た途端お妙は立ち上がり、その襟元を掴んだ。
「こっちゃ警察だと思うから大人しくしてやったんだぞ。手前の部下だろ。しっかり躾な」
思わず頭を下げた土方に「次は容赦しねえぞ」と捨て台詞を吐いて、お妙は喫茶店を出ていった。
「・・・で、お前はあの女と何してたの?」
「・・・姐さん、と呼べたらいいなあ、と思いましたとさ。めでたしめでたし」
「昔話かよ。っつーか、そりゃ余計なお世話だろ」
土方は先程お妙が座っていた席に腰を下ろし、コーヒーを注文した。
「あの女下手に出てりゃ付け上がりやがって。こっちゃ頭下げてんのによ」
「下げてなかったじゃねぇか」
沖田は時々、普段のふざけた彼からは想像もつかないことをする。
沖田にとって近藤という人物は何にも変え難い存在なのだ。それは土方も同じではあったが、色恋に関しては口出し無用と決めていた。土方達にとってはいい男だが、こと女に関しては不器用すぎる。近藤を理解する女が表れればいいと土方も常々思ってはいる。しかし、それはあのお妙とかいう女には無理だと、そう感じていた。
「お前の気持ちは良く分かるけどよ。大将がばかにされてりゃ頭にもくるぜ。だがな、相手が悪いと俺は思うぜ?何よりあの女にだきゃ、俺は頭下げたくねえ」
「下げてたじゃねェか」
「お妙さんを悪く言うな」
その時急に現れた近藤に二人は目を剥いた。
「いたのか。・・・いるわな」
土方は納得した。
「聞いてたんですかィ?近藤さん」
「ああ。もしかしたらお前の説得にお妙さんが頷くのではないかという、淡い期待を胸にテーブルの下に潜んでいた」
「エラそうに言うなよ」
土方は溜息をついた。
「総悟。お前の気持ちは良く分かった。俺はお前にどうしてもお妙さんを姐さんと呼ばせてやるからな!」
言うなり、近藤は喫茶店を飛び出した。
「あ〜あ、分かってねえよ。あの人ァ」
「あれが近藤さんの愛し方なのさ」
土方の言葉に、沖田は不思議そうに首を傾げた。
「へえ。土方さん分かるんですかィ?」
「馬鹿言うな。俺ぁ色恋に関しちゃ百戦錬磨だぞ」
「へぇ〜」
沖田は更に身を乗り出して土方を覗き込んだ。
「土方さんはどんなのが好みで?」
「ん〜。そりゃ、あれだな」
俺の好みはなんだっけ?
土方は考えながら口を開いた。
「小さくて、さらさらの髪で・・・」
あれ?こりゃ誰の事だ?
「色が白くて、目は大きくて、変な話し方する・・・」
・・・俺は何を言おうとしている?
「分かったぜぃ。土方さんが好きなのは・・・」
「え?誰?」
「チャイナ娘だ!!」
沖田は信じられない、という表情で土方を見詰めた。
「そうなのか?いやいや、そんなワケねえだろ」
「趣味が悪ィにも程がありまさァ」
「いやいや、違うから。そりゃお前の勘違いだから」
「人それぞれ愛の形ってモンがあるって事かィ。分かったよ、土方さん。止めねェよ」
「総悟君。人の話を聞きなさい」
遠い目をしたまま、総悟はゆっくりと席を立った。
そして、振り返り、
「お幸せに」
穏やかに微笑んで店を出て行った。
一人残された土方はしばし呆然とした後、呟いた。
「あいつ・・・。勘定押し付けて行きやがった」
本当は蘊蓄を言えるほど土方も他人の愛し方を知っている訳ではない。
けれど、告白するつもりでもなかった。
「通じちゃいなかったがな・・・」
人それぞれの愛し方というものがあるのだ。
けれど、愛することに変わりはないのではないかと、土方はそう思った。
終
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もう、愛しちゃってますから!!
うちのトシさんは総ちゃんにメロメロ(←死後)なのっ!
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