其のニ
その扉は開けられた。
何時もの様に。普通に。
「あれ、起きてたんですかィ」
折角起そうと思ったのに、と呟いた総悟の手にはハンマーが握られている。
不覚にも俺は声が出せなかった。
起きたのではなく、眠れなかったのだ。神経が冴え切っていて、体は疲れているのに脳が休養してくれなかった。
忘れようと思いながら、思い出すのはあの時の事ばかり。
思った以上に白かった身体とその手触り。寄せられた眉。微かに濡れた睫と瞳。
「土方さん?」
総悟の声に俺はびくっと肩を揺らした。
総悟は俺の反応に驚いたようだ。
「アンタ・・・、何・・・」
しばし考え込んだ後総悟は、ああ、と呟いた。
「俺たァ口も利きたくねぇってとこか。別にいいけどよ。今日旦那にきっちり断ってきまさあ。元はと言えば俺が勝手に首突っ込んだ事だ」
「・・・総悟・・・、お前・・・」
ようやく声が出た。
体は大丈夫か?怒ってねえのか?と聞こうと思ったが止めた。
俺が怒りだけであんな行動に出たと本気で思っているのだろうか。元々総悟は深く考えないタチで、悩んでいる所など見たこともないとはいえ、そんな風に思われては俺はただの変態だ。そして、総悟にとってあれはこうも簡単に片付けてしまえる事だったのだろうか。まだ余韻すら残る、ほんの数時間前の出来事なのに。
真剣に考えている俺を余所に、総悟は口を開いた。
「しかし知らなかった。男同士はあんな風にやるんだねィ」
その言葉に俺は思わず咽た。思い切り。
何を考えているんだ、コイツは。
「・・・オイ、まさかとは思うが、スピーカーで振れまわったりするなよ。誰にも一言も言うなよ」
「二人だけの秘密ってヤツかィ。気持ち悪ィな」
「お前なぁ・・・」
どうしてこんな風に簡単に口に出せるんだ。そして俺はどうしてこんなデリカシーのカケラもないヤツに惚れてるんだ。いや、気のせいかもしれない。
俺は本気で頭を抱えた。その時、
「・・・なんてね」
総悟は口元に笑みを浮かべた。
「言うワケねーだろ。アンタのあんな顔見れたのに勿体ねぇ」
「―――――っ」
瞬間、顔にかあっと血が上った。
きっ、と総悟を睨みつけ、その目が悪戯っぽく細められているのに気付いた。
「・・・お前今何つった?」
「俺ァ、好きなんざいらねェと思ってやしたがね」
「総悟?」
頭の中が混乱しだした。もともと引っ掻き回されていたのに、更に拍車が掛かる。
「土方さんは素直だなあ。何でも顔に出るもんな」
顔に出ていたのか?好きだと、愛しいから嫉妬したのだと。だから、抱いたのだと。
「・・・お前がわからなすぎるんだ。大体、いつも命狙ってやがるし、死ねとか、呪文とか・・・」
しどろもどろに俺は続ける。これこそ誤魔化しのような気もする。
「愛情表現でさァ」
「・・・マジ?」
俺はまたしてもこいつに嵌められてるのだろうか?
必要のない嫉妬だったのだろうか?
昨日の抵抗と、今目の前にある笑顔とが結び付かない。
おれには総悟が何を考えてるかさっぱり分からない。
分からなかったが、とにかく、口元が緩むのだけは止められなかった。
終
/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*/*
あれ?なんだかギャグ風味??おかしい、おかしいよ!コレ!!(おい)
自分でも何だかよくわからなく・・・ぐふっ。
戻る