あ ま い





俺は土方さんが好きだった。
でもそれはきっと、自分の力でしっかりと立てない俺の甘さなのだろう。

大好きな、大好きな近藤さんとその人は確実に違う存在で。
近藤さんには「死ね」なんて冗談でも言えない。間違って言ってしまった事はあったようなないような・・・、だけれど。

近いようで近くなくて。
初めて会った頃、自分の倍も背丈の違う土方さんを、俺は敵視していた。
直感で分かった。この人も近藤さんを好きなんだ、と。
ようやく見つけた大切な庇護者を取られると、子供だった俺は焦ったのだ。
近藤さんの手足になるのは俺で。近藤さんが一番心を許すのも俺で。一番近くに居るのは俺なのだと。
が、声に出さないその叫びを、土方さんはとっくに承知していたのだ。
その時はとにかく必死で、彼が道場を出て行くように仕向けた。
俺のその行過ぎた行動が冗談で済んでいたのは、俺が幼いからだった。
冗談では済まなくなったのは、俺が始めて土方さんを稽古で打ち負かした時からだ。
驚いた瞳が歪んでいく様を目の当たりにした俺は、初めてこの人に恐怖を覚えた。
「―――そんなに、近藤さんが大事か?」
その問い掛けに恐る恐る頷いた俺に、土方さんは口の端を上げた。
「じゃあ、認めてやる」
彼特有のその笑い方が好きだと思った。俺も、同様に彼を認めた瞬間だった。


同士だったのに。
馴れ合いが俺達を駄目にしたのだろうか?
その日が酷く辛かったのを覚えている。
汚い道場で何時も一緒に居た。手を伸ばせばすぐに触れる位置に居た近藤さんが、「幕府をお守りする」とか何とか、良く分からない事を言い出して姿を消した。
それは長い時間に感じた。実際は二、三日の事だったのかもしれない。
「直ぐに迎えに来るからな」
そう言って笑った近藤さんが信じられなくて、このまま置いて行かれるのではないかという不安が大きすぎて。
俺を必死に説得する土方さんの言葉は耳に入らなかった。
国の為だとか、出世だとか、俺には関係ない事だ。
俺や土方さんや、近藤さんの周りに居る人間はひたすらに大将である近藤さんを守る存在だ。
天人が地球に下りて来ようと、それが地球人を何人殺そうと、近藤さんが生きてくれていればいいのだ。
そんな狭い、狭い俺の世界に、土方さんは無理矢理入り込んで来た。







唇を塞がれた時は何が起こっているのかまるで分からなかった。
目の前に居る人が土方さんで、俺に何か言っている。その声が急に途切れ、気付いた時には畳に押し倒されていた。
その時の彼の瞳が険しく、怖くて、俺は彼を打ち負かした日の事を思い出した。
そして、殴って欲しいと、いっそ殺してくれてもいいとさえ思った。

何故そうしてくれなかったのだろう?

唇を塞がれるという、その行為が接吻だと認識するまで時間がかかった。
土方さんの手が着物の袷から滑り込んできて、自分の胸を弄る。
その時になって初めて俺は抵抗をした。彼を押し退け、這いずって逃げようとしたが、袴を掴まれ引き寄せられた。
「―――やだっ!」
上擦った自分の声が更に不安を斯き立てた。これから起こる事など予想もつかなかったが、土方さんに対する恐れだけが俺の頭の中を掻き乱した。
後ろから羽交い絞めにされ、あっという間に袴と下着を剥ぎ取られた。
同時に、秘部に充てられた指がゆっくりと身体の中へと入ってくる。
「ひ・・・っ」
俺はまだ15になったばかりで、男女のそういうことについてもあまり詳しい知識は持っていなかった。
「暴れるな」
土方さんの一言に、身体が強張る。叱られた子供のように。
どんなに強がっても、竹刀では勝てても、所詮自分は子供で、そして激しく愛情に飢えていたのだ。
「でも・・・、痛・・・、痛い、土方、さん・・・」
「力抜きゃ、大丈夫だよ」
「・・・何で、こんなこと、するんだ・・・?」
それには答えず、彼は俺の中に入れた指を動かし、内部を抉るように掻き乱した。
「―――っイ・・・」
「キツイな」
土方さんは指を抜くと、強張ったままの俺の身体を仰向けにして徐に足を持ち上げた。
激しい羞恥が俺を襲う。
「―――やだ、やだ・・・!」
「暴れるな、つっただろ」
限界まで足を広げられ、彼の目に自分の全てが曝されている。俺は強く瞼を瞑った。
が、たった今異物を入れられたそこに、指ではない別の感覚が与えられ、思わず身体を起こそうとした。
それは強い力に阻まれ出来なかったが、その濡れた感触が彼の舌だと認識すると、再び俺の頭は真っ白になった。
今まで味わった事もない感覚だった。
「あっ、あ、あぁ・・・っ」
自分でも無意識の内に声が漏れ、次第に、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえ始める。
彼の行為が信じられなくて、けれど身体はその感覚に別の意識を持ち始めていた。
指先から力が抜け、されるがままに自分から足を広げていた。
見計らうように土方さんは顔を上げると、自分の袴を脱いだ。
「―――何・・・」
問い掛けた口に彼の唇が覆い被さる。
次の瞬間、俺は悲鳴に近い声を上げていた。
塞がれていた為くぐもったものになったが、同時に両目から涙が溢れ出す。
土方さん自身が、俺の内部に侵入ってきた衝撃だった。
指や舌とは格段に質量の違うそれを、あっけなく俺の身体は受け入れたが、それでも酷く苦しかった。
「ん―――っ!」
無駄だと分かっていても、もがかずにはいられない。両手で必死に土方さんの胸を叩いて押し返した。
そんな俺の抵抗を気にも止めず、彼は腰を使い始めた。
痛いというより苦しくて、異物感は不快だけを俺に与える。
とにかく、早くこの時間が終わる事だけを俺は願いながら口を開いた。
「―――土方さんは・・・、近藤さんが、・・・大事だろう?」
「ああ。でも、殺したくなる時もある」
「―――どうして・・・!」
「あの人を守りたいなら、お前は俺を見てろ」
その時、彼の指が二人の身体の間で頭を擡げる俺のものに巻き付いた。間髪を入れず、上下に、そして強弱をつけて扱かれる。
それは先程の舌の感覚以上に現実的で、はっきりとした快感だった。
苦しみも不快も一気に消えた。
“殺したくなる”理由が知りたいと思った事さえ、そう、近藤さんの事さえその時の俺の頭の中からは綺麗に消えていた。
激しい喘ぎ声を洩らしながら、いつしか俺は到達へと導いてくれる彼の動きに夢中になっていた――――






「あんたと近藤さんは全然違う」
お互いに欲を吐き出した俺達はその後、裸のまま向かい合っていた。
「当たり前だろ」
土方さんはどこか虚ろな目で俺を見た。
「・・・でも俺は・・・」
土方さんが、好きだったんだ。
守り、守られる存在じゃない。
同じ位置に立っていて欲しいんだ。
こんな事を思うのは俺が甘いからなのだろうか?

彼に問い掛けても、その答えが返って来る事はない。

これが俺達にとって後悔へと繋がるのか、先にあるのは別れなのか理解なのか。
今もまだ、分からない――――













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題名とちゃうやろ。あまくないやろ。
なんなんやねん、自分。



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