でぇと日和



土方は空を見上げた。眩しい日の光が顔に当たる。
「ああ、いい天気だ」
パトカーの中。窓を全開にすると春の爽やかな風が頬を撫でる。
清々しい顔の土方に対し、助手席の沖田は仏頂面だ。
「なんでこんな日に見廻りしなくちゃなんねぇんだ」
「お前な。警察の仕事を何だと思ってやがる」
土方は溜息を吐いた。いつもの事とはいえ、沖田のやる気のなさには呆れる。
「でぇとしやしょう」
いい事を思いついた、というように沖田は満面の笑みを見せた。
「・・・デート・・・?」
土方は絶句した。
「しょうがねえから土方スペシャルでも映画でも付き合いやすぜ」
「やだ。お前文句言うし、映画見ても寝てるか食ってるかじゃねえか。人が感動してる横で爆笑しやがるし」
「いや、だってアンタ面白いから」
「俺見て爆笑してやがったのか!?」
むすっと黙りこんだ土方を見て、沖田は小さく舌打ちした。
「・・・つまんねえな」
呟いて、沖田は目を閉じた。
散々からかったりもするが、沖田にとって土方は兄に等しい存在だ。近藤ほど崇拝も尊敬もしてないとは言え、決していなくていい人間ではない。
むしろ、もっと特別な存在かもしれない。そして自分もまた土方に特別扱いして欲しいと思っている。だから、こうして時々甘えてみる。それに対する土方の反応は素っ気無いものだが。それもこれも、素直じゃない自分のせいだとは決して思わないところが沖田という人間だ。
「寝るなよ、総悟」
「・・・じゃあさ、屯所帰ってから飲みに行きやしょうぜ」
「ザルと飲んだら酒代いくらあってもたりねえよ」
そう言って、土方は煙を吐き出した。
どんなに風が入ってこようと、車の中は清浄されない。負けじと煙を吐き出しているように見える。
「つまんねえ男だなぁ」
沖田は手でぱたぱたと煙を追い払うという、無駄な行為をしながら呟いた。
「彼女かお前は。言いなりになってたまるか」
「そうかぃ」
沖田は徐に席を倒すと、完全に寝る姿勢に入った。アイマスクは勿論忘れない。
「手前」
土方の低い声を聞いたのが最後、沖田は意識を手放した。




覚醒したのは、煙草の匂い。
どこでも寝れるのが沖田の特技の一つだったが、連日の隊務疲れからか今日の眠りは深かった。自分が何処にいるのかも一瞬分からなかった。
「?」
違和感に沖田は首を傾げた。
「着いたぞ」
土方の声に沖田は体を起した。見ると屯所に戻ってきている。
「お疲れ様っした」
「お前は何もしてねえだろうが。俺に最後まで運転させやがって」
「すんませんっした」
言いながら車を降りる。
「あんまり飲むなよ」
土方の言葉に沖田は振り向いた。
「・・・今日は何事もなかったし。特別だからな」
どうやら先程の沖田の提案が通ったらしい。
「・・・はあ。どういう風の吹き回しで?」
言った瞬間、口に残る煙草の味に沖田ははっとした。違和感はこの味。煙の匂いには慣れている筈だ。
沖田は呆然と自分の唇に触れた。何も覚えていないとはらしくない。悔しい気さえする。
寝ている自分に、土方はおそらく・・・。
そして、飲みに誘うとは謝罪のつもりか、下心か。
思いがけず今日は本当にデートのようになってしまったらしい。間が抜けている気もするが。
この展開は、全く予期できなかった。
沖田は戸惑いながら、前を歩く黒い隊服の背中を見つめる。
「やっぱ、アンタ面白い人だなぁ」

特別に、なれるかもしれない。

沖田はそう思った。








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ふっふっふ。楽しい。止まらない・・・。

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