始まり 4
「―――――――っ、」
路地裏で口を塞がれ、両腕を拘束された状態で沖田は精一杯の抵抗をみせた。
「大人しくしろっつってんだろ」
言われて誰がそうするか。
頬に跡が付くほど壁に押し付けられ身動きも取れない。
後ろから首筋を舐められ、その感触に悪寒が走る。
「ん―――――!」
取り出した小刀でベルトを切られたのが解った時、悔しさで口の中の布を噛み締めた。
何故、こんな理不尽な扱いをされなければならないのか。
「これからお前は女抱く時、何時もこの事思い出すんだよ」
沖田は信じられない思いで、土方の言葉を聞いた。
口が利けるなら、思いの限り罵倒するのに。
沖田がそう思った次の瞬間、土方の舌打ちと共に両腕が軽くなった。
隙を逃さず振り返る沖田の、今度は頬を土方は捉える。
視界の端にちらりと入ってきたのは九兵衛。それは直ぐ土方によって遮られた。
「―――――――」
口を塞いでいた物を乱暴に引き抜かれ、キスをされたのはほんの数秒。
唇を離した土方は九兵衛に向かって言い放った。
「悪ぃな。こういう事なんだ」
「なっ――――!」
訂正しようとする沖田の前から、九兵衛はあっという間に走り去った。
追い駆けようとする沖田の腕を土方は捕らえる。
「邪魔が入ったくれぇで止めるつもりねぇよ」
「――――っ、アンタ、最悪だ!」
「時間与えたら碌な事にならねぇからな。とっととヤっちまわねぇと」
土方の手が沖田の口を塞ぐ為に伸ばされる。
「―――――――や・・・!」
「止めろ。沖田を離せ」
いなくなったとばかり思っていた九兵衛が土方の背後に立っていた。
その手には刀が握られている。
「・・・納得したんじゃねぇのか?」
沖田を押さえ付けたまま、土方はゆっくりと振り返った。
「する訳がない。明らかに彼は嫌がっているだろう」
「・・・そんな事ねぇよなぁ?総悟?」
土方の冷たい瞳が自分を見下ろす。
沖田は堪らなく悲しい気持ちになった。
口を塞ぐ彼の掌に思い切り噛み付くと、土方は眉を顰めわずかに力を緩めた。
「――――お前、男だらけの真撰組ン中で何で今まで無事だったか知ってるか?俺が居たからだよ」
「・・・・・・」
「野郎に性欲向けられるって事、いい加減知ってた方がいいんじゃねぇか?」
「――――――」
血の味が口の中に広がり、同時に目の前が暗くなっていく。
その場からどうやって逃げ出したのか解らなかった。
我に返ると土方の姿はなく、夜のネオンがまだ目に眩しい。
繋いだ手の温かさに気付き、自分は九兵衛に助けられたのだと知った。
彼女の車に乗せられ、沖田はぼんやりと流れ去る外の景色を眺めていた。
「・・・・助かりやした」
ぽつり、と言うと、九兵衛は気遣うように沖田を伺った。
「・・・今夜は僕の所に泊まれ。落ち着いたら、戻ればいいだろう」
「・・・・戻れるかな」
「戻れる。・・・仲間、なのだろう?」
―――――仲間・・・
「そう思ってたのは俺だけかもしれねぇなァ・・・」
口にした途端、涙が一筋頬を伝った。
「沖田・・・」
窓に映った自分の顔を見て更に落ち込む。
土方は優しかった。あの日あんな事を言い出すまでは、普通に仲間のように扱ってくれた。
どんなに困らせても、何時も最後は苦笑を浮かべて受け入れてくれてた。
その下にあったのが欲望だったなんて、信じたくない。
「すまねェ。つか、アンタも因果だよな。俺なんか選ばなきゃなんねぇなんて」
そんなに綺麗なのに。普通に育っていれば相手など幾らでも選べる立場だろう。
「僕はこれで良かったと思っている。・・・そして、お前が頷いてくれればもっと良かったと思える」
ずっと顔を背けたままの沖田は九兵衛の視線を感じて、僅かに息を呑んだ。
頬が熱くなるのが分かる。
「――――まだ、気ぃ変わらねぇのかィ・・・?」
「変わらぬ」
彼女はきっぱりと言い切った。
「僕と結婚してくれ」
―――――でも・・・、アンタは・・・
俺の事好きなワケじゃねぇでしょう・・・?
続
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裏行き却下。
どろどろもいいかと思ったのですがね・・・、収拾つかなくなるから(笑)