ウェブ拍手(ささやか過ぎる)お礼





夏仕様


1
「何だ、その格好は」
俺はいかにも遊びに行く、という風情の総悟を睨み付けた。
「海に誘われたんで」
「うみぃ?」
聞き返す俺の耳に、ばたばたと足音が飛び込んで来た。
「沖田さん、お待たせしました!」
振り返ると、浮き輪にビーチパラソルを抱えた山崎がいた。
「今はクラゲがいるぞ」
「大丈夫です!日焼けしに行くんです!モテ男っす!」
そのテンションに、俺はますます不愉快になる。
「土方さんはどうしやす?」
「行くか、ばからしい」
「・・・誰にオイル塗ってもらおうかな・・・」
総悟の呟きに、俺の眉がぴくりと動いた。その手は誰が食うか。
「大丈夫です!俺がいますよ!沖田さん!!喜んでやりますよ!!!」
俺は山崎を突き落とす事に決めた。
「緊急会議開くから、非番は取り消しだ」
この世の終わりのような表情の山崎とは裏腹に、何故か総悟は嬉しそうに俺を見た。




2
「土方さん、花火ですぜ」 
総悟の声に振り向いた俺は、思わず目を剥いた。 
「そりゃバズーカだ!!」 
「ありゃ、間違えた」
絶対態とだと、俺は確信する。
「こっちこっち」 
そう言って総悟が差し出した手には線香花火が握られている。 
「へえ。懐かしいな」 
「しょぼいですがね」
「いいだろ、風情があって」 
俺は好きだ、と呟いた時、総悟が嬉しそうに微笑んだ。 




3
「夏も終わりだな・・・」
感慨深げに呟く土方の隣で、沖田はカキ氷を食べていた。
「お前な。風情も何もあったもんじゃねぇな」
土方が呆れたように言うと、沖田は笑った。
「だってまだ暑いもん。そういうのはね、本当に暑くなくなったら言うのが本当だと俺は思いますぜ?」
「薀蓄垂れやがって」
「例えば・・・」
沖田は言って、土方を覗き込んだ。
「俺は土方さんが好きかもしれねぇ」
「――――は?」
「じゃなくて、俺は土方さんが好きだ!」
「へ?」
「になったら言うのが本当だと言ってんでさァ」
「何言ってんのかわかんねぇよ」
土方は呆れた視線を沖田に向けながら、内心の動揺を隠そうと必死だった。
「だから俺はまだ言えねぇってこと」
驚いて隣を見た土方に、沖田は悪戯っぽく笑い、カキ氷を一口差し出した。
思わず口に入れたそれは冷たくて美味しかった。
まだ夏は終わっていない。
土方はそう思った。




秋仕様

1
猛烈に窓を揺らす風と叩きつける雨。嵐の夜は嫌いじゃない。まして、台風といえば風物詩だ。これが過ぎれば秋が来る。
俺は杯の酒を飲み干した。
「・・・土方さん」
すぅっと襖を開けて、総悟が入って来た。
俺は夏の風物詩は嫌いだ。思わず叫びそうになった。
「悪ィ。脅かすつもりじゃなかった」
「ううううるせぇ。おおお驚いてなんかいるかよ」
「やっぱりアンタも怖いんだろう」
「・・・何が?」
「台風でさァ」
違う。俺が怖いのは夏に出る方だ。
思ったが口には出さず、俺は総悟を見た。
「なんだ、この風が怖いのか?」
「ち、ちげー!アンタが怖いんじゃないかと・・・」
「誰にも言わねぇよ」
言って、俺は手を差し出した。総悟は少し躊躇った後、素直に傍に近寄り身体をくっ付けて来た。そうしていると、可愛いヤツだ。
「餓鬼だな」
「・・・そんな事言うと、怪談しやすぜ」
前言撤回だ。



2
振り出した雨。慌てて目に付いた軒先に飛び込むと、先客がいた。
「旦那もですかィ」
「急に振ってきやがって。このやろう」
「何言ってんでィ。予報じゃ朝から雨だって言ってやしたぜ」
「・・・そうかよ」
濡れた沖田の肩が小さく震えている。秋の雨は冷たい。
しとしとと振り続ける雫を眺めて、沖田は呟いた。
「こりゃ、止まねぇな」
その声は俺の耳を通り抜けて響いた。
小さな肩を温めたいと、その事ばかり考えていた。
そっと腕を上げて、隣の、自分より低い所にある肩に手を伸ばした。
後数センチ。指先が触れる瞬間、
「なんで傘持って出なかった」
聞き慣れた、今最も聞きたくない声が聞こえた。
「面倒臭くて」
「お前はそればっかだな」
土方が差し出した傘を奪い、沖田はさっと屋根の下から飛び出した。
土方はちらりと宙に浮いた手を持て余している俺を見ると、
「・・・その手、何だ?」
「頭痒くて」
俺はぼりぼりと頭を掻いた。
「旦那、送って行きやすぜ?」
振り向いた沖田はそう言って俺を見たが、道の向こうを見ると口元に笑みを浮かべ、そのまま土方と肩を並べて歩き出した。
「迎え来たアルよ。小遣いよこせ。駄賃」
「ぜってーヤダ」
今日という日はツイているのかいないのか。
俺は考えながら神楽から傘を奪い取って、蹴りを食らった。


3
「差し入れでさァ」
そう言って姿を見せた沖田が持つ籠の中には松茸。
「何アルか?食うものか?」
「沖田さん、アンタ今度は何企んでるんですか?」
わいわいと籠を取り囲み、様々な反応を見せる万事屋の面々。
「ワタシ、マツタケって伝説の食い物アルと思ってたよ」
「この匂いは確かにそうかもしれない。沖田さんはやる時はやる人だと思ってたよ」
その会話の中に銀時のコメントだけが入っていない事に気付いて、沖田はソファに寝そべるその人を見た。
「知ってんだよ。俺ぁ、知ってんだよ。これは毒見だよ。こいつの目、見てみ?こういう澄んだ目してるヤツに限って腹黒なんだよ」
「食う、食わないはあんたらの自由だ」
あんたらがダメなら土方さんに食わすだけだ。
「今何か言った?」
「試しに焼いてみやしょうぜ」
しばらくすると、いい匂いが漂ってきた。
絶対食わない、と銀時は頑張っていた。が、沖田は焼けた松茸らしきものに、ふう、ふうと息を吹き掛け、銀時に差し出す。
眩暈がした。
「あ〜ん」
為す術もなく銀時はそれを口に入れ、咀嚼し、飲み下した。あっという間もない。
子悪魔に捕まった因果だろう。
次の日、銀時の予想通り三人は病院へと運ばれた。


4
ずっとずっと好きだった。
そう告白されたのは、赤く色づいた紅葉舞い散る中。
「・・・そーか」
俺は頬を指で掻いた。
何と返事していいのか分からない。
「じゃ」
頭を軽く下げ、たった今衝撃発言をした沖田は普通に俺に背を向けた。
「おいおい。帰るか、フツー」
「だって、返事なんていらねぇもん」
そんなものか?俺は考えた。・・・そんなものかもしれない。
「わかった。じゃ、これ」
差し出した紅葉を、沖田は首を傾げて見た。
「記念にやる」
「何の記念ですかィ?告白記念日?」
自分で言って笑う沖田に、俺はそっと口付けた。
「両想い記念」
真撰組になど、帰さない。


5
「寒くなってきやしたね」
沖田はそう言うと、ふるりと身体を震わせた。白い息を吐き出すその唇は、寒さの為か、いつもよりも一層赤く見える。
今からこんなで雪でも降ったら一体どうなるのだ。土方は他人事ながら気になった。
「人間カイロ」
言って、抱きついてくる沖田に、土方は硬直した。
「人間湯たんぽ。人間瞬間湯沸し機」
「何言ってやがんだ?」
「冬になったら土方さんは忙しいなあ」
「・・・・・」
「アンタ体温高いもんな」
そうか。俺がいるから大丈夫か。冬になると意味なく擦り寄ってくる沖田を思い出しながら、土方は納得した。
その時突然手を握ってきた沖田に、土方は心臓がどきりと音を立てるのを聞いた。
その役目も、今年は少々辛いかもしれない。



******************************


「もっと送る」をクリックして頂くと、次の画面が出る仕組みになっているのですね。
・・・私知らなかったから、まだ知らない方も見えるかな、と思って・・・(苦笑)





戻る