注*八月合併号の本誌の妄想です。まだ見てない方には意味不明です。
初恋
生まれて初めて一目惚れってやつをした。
すごい、好きだと思った。
自分が女に興味を持つって事自体初めてで、胸のときめきは苦しいくらいだった。
将軍の護衛に向かったキャバクラで、店の前に立ちながら土方さんにそう伝えると、彼は目を見開いた。
「え!?誰!?そんなイイ女いたか!?」
「いやしたよ。言っときますけど、彼女は俺のですからねィ。早く店終わんねぇかなァ」
「キャラ違うよ、総悟君。何頬染めてんの?」
「恋をすると世界が変わるってマジだったんだなァ」
「おいおい・・・なんか、キモ」
「何とでも言ってくだせェ」
そんな会話をしてると、急に将軍が店から走り出してきた。全裸で。
「え!?将軍様ぁぁぁっ!?」
慌てて後を追う土方さんを見送ると、続いて店からキャバ嬢達も走り出してきた。彼女も居る。
俺も思わず彼女の後を追った。
いくらか走った所で、キャバ嬢達は急に振り返り、今度は俺達に向かって来た。何故か、戦う気満々で。
訳が分からないながら、取りあえず俺は目当ての彼女に向かった。
「お嬢さん、真撰組に向かってどうしようってんでィ?・・・引いてくんな、俺達は将軍守らなきゃいけねぇんでさァ」
「うるせーよ、その将軍の望みなんだよ」
口の悪さも魅力の一つにしか思えない。そして、思った以上に彼女は強かった。
「・・・名前、教えてくんねぇかィ?」
「――――は・・・?」
彼女は落ちていた木片で俺の攻撃を防ぎ、驚いたように俺を見た。
「さっきはもっと顎出てたように見えたけど・・・、俺の気のせいかィ?」
「い・・・、嫌だわ〜、顎出てるなんて乙女に失礼よ。緊張するとでるの〜」
「そりゃあ、失礼。俺ァ、女の扱いに慣れてねェもんで許してくだせェ」
「いいのよ〜、気にしないで〜。・・・じゃ、そういう事で」
そそくさと逃げ出す彼女の腕を、俺は掴んだ。
「逃げねぇでくだせェ。名前、教えてくれねぇんで?」
「ぱ・・・・、パー子・・・」
「思った通り、いい名前だ」
「ありがと・・・。・・・じゃ、そういう事で」
「待ってくだせェ!」
俺は必死にパー子さんの腕を掴んだ。彼女は力も、かなり強い。
「俺ァ、アンタに惚れたみてェだ。頼むからまた会ってくだせェ」
「イヤイヤ、無理無理」
「どうしてでさァ!?」
「だってアタシ、こんな仕事してるし。ゴツイし、胸だってほら、全然ないのよ」
「俺ァ、そんなの気にしやせんぜ?むしろ、そこが好きでさァ」
「・・・どんなマニアですか?」
どうしても逃げようとするパー子さんに、俺は悲しくなった。気のせいか、迷惑そうに見える。初恋は実らないというのは本当の話だったのだろうか?
少しだけ途方に暮れた所に、土方さんが現われた。
「土方さん!!」
「・・・げ」
「将軍は無事保護した。・・・その女か?惚れたってのは?」
俺は頷き、彼女の腕に自分の腕を絡ませた。
「随分ゴツイ女だな。なんでバスタオル一枚なんだ?胸なんて全然ねぇじゃねぇか」
「―――土方さん・・・。そこが彼女のいいトコロ」
「・・・どんなマニアだよ」
土方さんはじろじろとパー子さんを眺めた。彼女は居た堪れないのか、必死に顔を背けたままだ。
これ以上彼女を見たら、殺す。
俺がそう思った時、土方さんは冷たく言った。
「却下だ。水商売の女に引っ掛かるなんて許さねぇ。第一俺ぁ、その天パが気に入らねぇ。しかも銀髪じゃねぇか。そういう人間にゃ、ろくなヤツいねぇんだよ」
絡ませた彼女の腕が、ぴくりと動く。
俺は土方さんを睨むと、口を開いた。
「別にアンタの許可取ろうなんざ思っちゃねぇよ。協力しねぇなら消えろ、つか死ね。人の恋路邪魔するヤツが一番ろくでもねぇ人間でィ」
「あんだと、コノヤロー!上等だ、かかって来い!!」
剣を抜いた土方さんの手を止めたのは、彼女だった。
「ろくでもねー、天パ銀髪の人間がどれだけのもんか見せてやろーじゃねーか」
ぜってー幸せになってやる。
そう言って俺を見た彼女。
「え・・・?パー子さん・・・、それって、オッケーって事ですかィ・・・?」
頷いた彼女に、俺の心臓は早鐘を打った。
「え・・・?じゃあ俺、何したらいいんだ?あ、デートとかしなきゃなんねぇんだよなァ?」
「とりあえず、明日万事屋に来てちょーだい」
「へィ」
元気に返事した俺は後になって首を傾げた。・・・万事屋・・・?
苦虫を噛み潰したような顔をしている土方さんを残して、俺は翌日万事屋に向かった。
出迎えてくれたパー子さんの顔を見た俺は、小娘の様に顔を赤らめた。
何でここに居るのか、何故ここの主はいないのか。そんな事は、全く頭を掠めない。
「えっと・・・、パー子さんのご趣味はなんですかィ?」
取りあえず、俺はドラマの真似をしてみた。
「楽して金儲け。・・・あ、これは夢だったわ、ごめんなさい」
「俺達気が合いまさァ。俺の夢もそれなんでさァ」
「・・・お前、マジで気付かねーの?」
「え?」
問い掛けた俺に、彼女は大きく溜息を吐いて、俺の傍に寄ってきた。
「アタシのコト好きってコトはさー、アタシにこんなコトしたいってコトー?」
彼女はそう言って俺の肩に手を掛け、その魅惑的な唇を近付けて来た。
「パー子さん、積極的だなァ。でも俺ァ、下心ねぇ男ですぜィ」
そんな彼女をやんわりと押し返して、俺は言った。
「嘘吐け。腹黒男が」
「何か言いやした?」
「・・・じゃー、何したいんだよ!?」
苛々しだした彼女を、今度は逆に押し倒す。そして、その唇に口付けた。
驚いた瞳も可愛い。
「俺が、上でさァ。・・・パー子さん、男を簡単に信用しちゃいけねぇよ」
「――――」
彼女の口元が、にやりと笑う。
「分かったよ」
その後は、正直何が何だかよく分からなかった。
彼女の服を脱がそうとしたのに、逆に脱がされ、下から愛撫された。
何しろ彼女はキャバ嬢だから。テクニック、というのもあるのだろうが、何よりその力の強さ。
抵抗する気などさらさらないが、それにしても愛撫し返す隙すらないというのはどうだろう?
胸が全くないのは知っていたが、ではこの、下から俺を突き上げる、この物体は何だろう?
けれど俺は、彼女と抱き合えたという満足感と充実感で一杯だった。
「・・・好き・・・、でさァ・・・」
「アタシもー・・・」
彼女の一言で、謎の全てが些細なものへ変わる。
「や、マジお前いいわ。馬鹿なトコなんかサイコー」
「マジですかィ?そういうパー子さんは全てサイコーでさァ」
別れ際言った、互いの言葉に気を良くして、俺達は唇を合わせた。
「幸せになろーね」
彼女の言葉に頷く。
そう、些細なコトだ。
彼女が実は女じゃなかろうと。
彼女が実は万事屋の旦那だろうと。
パー子さんはパー子さんで。
俺の恋心も本物なのだ。
初恋は実るものなのだ、と俺は胸を張って言おう。
終
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ああ、こんなに馬鹿な話になるとは。
自分でびっくりして地下室に隠しちゃいました。