勝ちと負け
「何してんだ、お前」
定時に行われる真撰組の会議。
何故か沖田の隣に坂田銀時の姿があった。
「今日から仲間に入れてもらおうと思って。よろしくお願いします。副長」
「副長とか呼ぶな!寒気がするわ!!」
どーゆうつもりだと、土方は叫んだ。
「沖田君と離れたくないもんで」
銀時が言った途端、他の隊士達が騒ぎ始めた。
「副長!どうなってんスか、コイツ!朝から沖田隊長といちゃいちゃいちゃいちゃ!!」
「うらやましーこと山の如しっス!!!」
土方は無言で刀を抜いた。
「私語したヤツぁ、切腹だと言っただろう!今日は解散だ!とっとと仕事に就け!」
しーんと静まり返り、隊士達はぞろぞろと部屋を出て行く。
「坂田と総悟は残れ」
一緒に出て行こうとした二人を、土方は呼び止めた。
銀時は気だるげに振り返り、口を開く。
「何スカ?副長。俺達も見廻り行くっスよ」
「副長言うな!朝からってどーいう事だ!?お前何時からここにいるんだ!?」
血管がぶち切れそうな勢いで怒る土方に、銀時は相変わらず、とぼけた顔でしれっと答える。
「昨日の夜からでーす。沖田隊長の部屋に泊まりました」
「本当か!?総悟!?」
二人の視線を受けて、沖田は口篭もった。その顔がみるみる赤くなる。耳まで。
「・・・意外ー・・・。沖田君かわいー」
銀時は驚いて声を上げた。
「―――――・・・」
土方は言葉を発せず、黙りこんだ。かなり衝撃を受けたらしい。
「・・・近藤さんが出張中で良かった。帰って来る前に姿消せ。またここで見かけたら斬る」
それだけ言うと、土方は二人を部屋から追い出した。
「泣いてんじゃねえ?」
銀時は廊下から土方の残る部屋を覗いながら言った。
沖田は、はあ、と大きく息を吐き出した。
「冗談の通じないとこだな、ここも」
「冗談じゃねぇのはこっちでさぁ。旦那、悪いけど出てってくれ。非番の日にゃ付き合うから」
ずっと無口を決め込んでいた沖田がようやく口を開いた。
困り切った顔をしている沖田を、銀時は笑いながら見つめた。
「いいよ。じゃ、銀時って呼んで、ちゅーして」
呆れた沖田の目付きも、銀時には何の効果もない。
沖田は仕方なく、目の前に立つ男に口付けた。
「・・・またな、銀さん」
「ま、いっか」
銀時は満足そうににっこりと笑うと、沖田に背を向けた。
視界から銀時の姿が消えると、沖田は柱に背を預け、そのままずるずると座り込んだ。
「まいったなぁ・・・」
今回ばかりは本気で困った。自分の何が銀時の気を引いたのか、考えても分からない。相手が自分にとってどうでもいい存在ならば、こんなにも悩まない。敵にしたくない相手なのだ。憎むのも、憎まれるのも嫌だ。かといって、簡単に受け入れられる訳もない。
そこまで考えた時、後ろの襖がすっと開いた。
「あいつは帰ったのか」
見上げる沖田をちらりとも見ず、土方は問い掛けた。
「―――へい・・・」
沖田はぽりぽりと頭を掻くと、ゆっくり立ち上がった。
「見廻りでしたっけね」
間が持たず、その場から逃げるように沖田は立ち去ろうとしたが、
「総悟。お前はあいつがいいのか」
抑揚のない声で土方は訊ねてきた。
「・・・・・・」
何と答えていいのか分からない。
「あいつと、寝たのか」
「――――」
胸がずきりと痛んだ。
否定など出来ない。その通りだったが、どうしても声が出てこなかった。
長い静寂の後、沖田はゆっくりと口を開いた。
「俺ぁ、土方さんが好きなんだ」
見当違いの言葉だったが、真実だった。
こんな風に追い詰められて、初めて気が付いた。
だから、こんなにも辛いのだ。
「あの時、きっと俺は嬉しいと思ったんだ。アンタが酔って俺の部屋に来た時。だから、それが原因で悩んでるアンタを見るのが辛かったんだ。見合いの話しも、俺は嫌で仕方なかった」
それを銀時は見破ったのだ。片恋している自分に同情でもしたのだろうか。それも銀時らしいと言えば、らしいかもしれない。
「・・・言っても仕方ない事だ。悪かった。忘れてくれぃ」
沖田は自嘲気味に微笑んだ。
「俺は、後悔なんかしてねえよ」
「土方さん?」
「悩んだのは、一度じゃ満足できなかったからだ。抑えなけりゃ、お前をまた傷付けるからだ」
やはり沖田に一度も視線を向けず、土方は告白した。
「・・・そうかぃ」
ばかだな、俺達。
沖田は呟いた。
ぴんぽ〜ん。と、万事屋のチャイムが鳴った。
銀時が扉を開くと、そこには沖田が立っていた。
「よぅ」
最初と違って、笑顔で迎えた銀時の後ろには定春がいる。
「・・・あれ」
「なんか、あいつら帰って来やがってよ。やっぱ銀さんの良さが忘れられないとは愛いヤツらだよ。で、お前もその一人?」
沖田は微笑を浮かべた。
「そんなとこでさぁ」
よしよし、と頷いて銀時は沖田を部屋へ迎えた。
「丁度あいつらいないし、ヤる?」
「やりません」
沖田は苦笑しながら、
「迷惑かけたこと謝ろうと思って来たんでさぁ」
「迷惑?」
沖田は真っ直ぐに銀時を見つめた。
「俺は、真撰組から離れられねぇ」
「・・・うん。何?別れ話?」
銀時はいつもの様に頭を掻いた。困った時の癖かもしれない。
「別に真撰組辞めろとか言ってないよ?俺が入隊ってのも勿論冗談だって」
「知ってまさぁ。・・・旦那のお陰で、気付いちまっただけで・・・」
それだけで、銀時には通じたらしい。
「ああー・・・。・・・・もう、銀さんって呼んでくれないワケね・・・」
銀時は膝の上で組んだ手に顔を埋めた。
「っかしーなぁ。こんなダメージ受ける予定じゃなかったんだけどなー。やっぱあそこで止めときゃ良かったんだよな」
ぶつぶつと言う銀時を、沖田は愛しいと思った。
「でも俺はずっと、旦那のこと好きですぜ」
「ありがと」
銀時は顔を上げる事が出来なかった。不覚にも涙が出そうになった。
その一言で全て許してしまえる。そう思った。
縛る事など最初から出きる筈もない。
勝ちも負けもない。
惚れた瞬間から、銀時は沖田に負けていたのだ。
その事にようやく銀時は気が付いた。
終
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・・・沖田、銀さんに惚れてくれなかった・・・。次は両想いにしてあげたい・・・(涙)(笑)
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