禁断の正体
今日の土方は夜番だった。
こそ泥を捕まえただけで、大した成果は得られなかった。とはいえ、体は泥のように疲れきっている。
このまま真っ直ぐ自室に帰って眠りたいのを堪え、土方は浴室へと向かった。
と、何時もなら誰もいない筈の夜中の風呂場からひそひそと声が聞こえる。一人や二人の声ではない。
「?」
土方は眉を寄せて声の方へ近付いた。
声の主は隊士達だ。何やら一生懸命に押し合いながら風呂場を覗いている。
「おい。押すなって。良く見えない」
「・・・でも、白いよなあ〜」
「どっちかわかるか?」
「そこまでは見えない」
土方は訳がわからず、とりあえず参加してみた。
皆と同じように覗いてみたが、湯気で良く見えない。
「何がどっちなんだ?」
と、一人の隊士に聞いてみる。
「沖田さんが女だって噂だよ!押すな・・・って、ふくちょおおおっ!!!」
ひいぃっと叫んで一人の隊士が逃げ出すのを、衿を掴んで引き戻す。
と、言う事は風呂に入っているのは総悟か。土方は溜息を吐いた。
「お前等はあほか」
平隊士であるその男は、顔面蒼白になりながら己の上司を見上げた。
「大方、また総悟にからかわれたんだろう。あいつの言う事一々間に受けてたら心臓がいくつあっても足りねえぞ」
「じゃ、じゃあ副長は知ってるんですか?沖田さんの性別!」
「当たりめーじゃねぇか。あいつの事ぁ餓鬼の頃から知ってるぜ」
と、言いながら土方は考えた。そういうえば、付き合いは長いが総悟の裸を見たことは・・・ない。
「ど、どっちなんですか!?」
鼻息を荒くして、他の隊士まで身を乗り出してきた。
「そりゃお前・・・、あれだよ・・・。男、だ」
そんな隊士達を見ていると、何故か胸がもやもやとしてきて、土方は思わずでまかせを言った。しかし、嘘ではない筈だ。少なくとも土方はそう信じていた。
途端、はあ〜、と落胆の溜息を吐いて、隊士達はすごすごと風呂場を出て行った。
「俺、信じてたのによ・・・」
「でも、それでもいいよ。可愛いもんな」
などと、口々に呟きながら。
土方はその背に向かって
「次、こんな事しやがったら切腹だからな」
と怒鳴った。
馬鹿共が、と毒づいて振り向くと、まだ一人残っていた。山崎だ。
「お前もかぁぁぁっ!」
刀を抜きながら土方は山崎に詰め寄る。
「ち、違いますって!!俺はその、見張りですって!」
「見張りだあ?」
「そう。間違っても奴等が乱入しないようにって沖田さんに頼まれたんです!」
「総悟のヤツやっぱり知っててやってんだな!」
土方は怒りに任せて湯気の立ち込める風呂にずかずかと入りこんだ。
総悟は湯に浸かりながらにやにやとそんな土方を見ている。
「総悟、手前な・・・」
怒鳴りかけて、土方は口を噤んだ。
湯からのぞいているその肩があまりに白く、艶かしく見えて、思わずごくりと唾を飲み込む。
そんな土方に気付いているのかいないのか、総悟は口を尖らせた。
「土方さんのせいで台無しでさぁ」
「な、何が台無し・・・・」
「折角希望を持たせて、隊務にも精が出るようにしてやったのに」
「そりゃ、違うだろうが!そんな希望誰も望んでねえよ!」
「そうですかぃ?」
上目遣いに見る総悟に、土方は心臓がばくばくと音を立てるのを感じていた。
そんなことは・・・、やはり、ないかもしれないこともないかもしれない。
「どっちにしてもアンタのせいで売上は半減でさぁ」
言うなり、総悟はざばあ、と音を立てて湯から出て来た。
土方の横を通り過ぎ、さっさと脱衣所へと歩いていく。
土方は硬直したまましばらく動けなかった。
「・・・・・売上げ・・・?」
はっと我に返り、土方も沖田の後を追う。
「どうです?これなんか一番人気ですよ」
そこでは山崎が、既に着替えた沖田に何やら見せている。
総悟の写真だった。
「女だって噂を流してから、これがめちゃくちゃ売れるんですよ!!」
山崎は嬉しそうに土方に言った。
「・・・金か?金の為に自分を売ってんのか?」
土方は半ば予想はしていたとはいえ、信じられない気持ちで総悟に訊ねた。
「金の為ならキャバクラ嬢にだってなれやすぜ」
しれっと言う沖田に土方は鉄拳を見舞った。
「嘘だよな?嘘だと言わねぇと二人そろって切腹だぞ!?」
「やべぇ。瞳孔開いてやがる」
「沖田さんのせいですよ〜」
こそこそと二人は話し合い、揃って嘘です。と答えた。
「だよな?」
土方は頷いた。
「とりあえずこれは預かる」
と言い、土方が山崎から写真を奪うと、二人は静かに浴室を出て行った。
浴室の扉が閉まるのを確認して、土方はのろのろと服を脱いで湯に浸かった。
「・・・・・・・」
沖田は確かに男だった。
何度も先程見た裸体が目の前を過る。
「やべ・・・。鼻血・・・」
多分それは、これからも土方にとって忘れられないものになる筈だった。
終
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何書いてるんでしょうねえ、ばかな私。
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