恋文



妙なものを見つけてしまった。
俺宛に送られてくる手紙の中に、総悟宛の手紙が一通雑じっていた。
内容がおかしい事に気付いて宛名を見たら、違っていたのだ。
後ろめたい思いはするが、見てしまったものは仕方ない。
それは、恋文だった。
俺はその手紙を持って総悟の部屋へと向かった。
「総悟、いるか?」
少し躊躇った後、俺はその部屋の扉を開けた。
「なんだィ。土方さんかィ」
総悟はだるそうに俺を見上げた。
「俺で悪いか」
枕を抱えて、だらだらとテレビを見ている総悟を見て、俺は溜息が出た。
もう少し休みを有効に使えないのだろうか。
「俺はこの手紙書いた奴に同情するぜ」
俺が言うと、総悟は頭を上げた。
「手紙?」
「俺のとこに来てた。怒るなら仕分けした奴に怒れよ」
「土方さん、中見たんだな」
態とじゃねぇよ、と言って手紙を総悟に放った。
手紙を読む総悟を、俺は黙って見た。笑うのか、嬉しそうにするのか、困るのか、興味があった。
が、総悟の表情からは何も読み取れなかった。
黙っていると、爽やかな好青年である沖田総悟という男は、やはり普通にしていれば女の目を引くのだろう。本性を知っている自分としては、それでもやはり不思議な気がしてしまう。総悟がどんな風に女と付き合うのか、全く想像出来ない。
総悟は全部読み終えると、徐に紙と筆を取り出した。
「・・・返事書くのか?」
思わず聞くと、総悟はきょとん、と俺を見た。
「常識でしょう。アンタは書かないのかィ?」
恋文に返事など書いたことがない。切りがないのもあるし、変に気を持たせるのも、恨まれるのも面倒だと思うからだ。
ヘタな字で、それでも懸命に筆を操る総悟を、俺はますます興味深く見守ってしまった。
総悟は特に俺を邪魔にするのでもなく、餓鬼の手習いの様に、とにかく必死だ。
「知ってる女か?お前が手習いするとこなんぞ初めて見たぜ」
「手習いじゃねぇよ。・・・知らない相手だ」
内容は確か、一目惚れしたので一度逢って欲しい、というカンジだった。王子様みたいだの、敵を倒すとこがステキだの、書いてあった。
王子様ねぇ・・・。
俺はしみじみと総悟を見た。
確かに、イメージとしてはそんな風かもしれない。
「逢うのか?」
「うん」
何気なく聞いた言葉に総悟はやけにあっさり頷いて、俺は驚いた。
「逢うのか!?」
「クドイな。アンタだって散々遊んでるんだろう?口出しすんなィ」
「俺ぁ、誰彼構わず会ってんじゃねぇ。お前、まだガキのくせに・・・!」
「そんなモンかィ?これは、面白そうだからってだけでさァ。上手くいったらちゅーくらいできるかもしれねえし」
「ちゅううう!?したいのか?お前も!?」
男なんだから当然と言えば当然だが、俺は激しくショックを受けた。
「だってしたことねぇもん。・・・でも人間外生物だったらやだしなあ。やっぱ確かめてからの方がいいと思いやすか?」
・・・したことないのか。
俺は息を吐き出した。
「そりゃ、そうだろう」
「じゃあ面倒臭いから止めたっと」
総悟はそう言うと、今書いた手紙をくしゃくしゃにしてごみ箱に投げ捨てた。
「変わり身早っ」
「元々飽きっぽい性格だからね。知ってるでしょう?」
知ってるが・・・。
そう思って、ふと俺は気が付いた。
「お前、恋文もらうのなんて初めてじゃねえだろ?」
「・・・まあね」
「いつも返事書いてるようにも見えねえよな」
「気になるかィ?」
素直に頷くのも癪で、俺は黙った。気にならないと言うのも嘘になる。
実はこいつはかなり経験があるのではないか、という考えが頭を過った。
「お前、言い寄る女苛めて喜んでんじゃねぇだろうな?玩んだりしてねえだろうな!?」
「俺がそんな事すると思うんですかィ?・・・流石に堅気の女にゃしねえよ。俺が苛めて楽しいのは土方さんだけだ」
「ほお」
俺の頬が引き攣った。特別って事だろうが、素直に喜ぶ気にはなれない。
「・・・キス、したことねえってのも本当ですぜ・・・?」
総悟が思わせぶりに言う。俺は思わず総悟の唇に釘付けになった。
それが、誘っている様に見えるのは錯覚だろうか。
「土方さんは、俺がこの手紙にどう返事するのか気になったんだろう?」
「・・・・・」
上目遣いに見上げる総悟を、俺は睨みつけた。
馬鹿にされて、何時もの様にからかわれているだけの気もした。それでも、どこかに総悟の本当が隠されている気がして、このまま話を終わらせる気にもならない。
「俺ぁ、お前の本音が聞いてみてぇ。経験がないかどうかはこれで分かる」
言うと、俺は総悟の肩を掴んで引き寄せた。
唇が合わさると、総悟は驚いたように身を引いたが、強い力でそれを阻んだ。
初めてだ。
俺はすぐにそう思った。
男を知らない女の様に戸惑い、それをプライドで隠そうとする心理まで読み取れた。
俺は総悟を離すと、にんまりと笑った。
「お前、たまには本当の事言うんだな」
総悟の頬が、かっと赤くなった。
「ズルイぜ土方さん、そりゃ俺の役だ!」
こんな様じゃ、女を玩ぶなんて芸当出きる筈もない。俺は喉の奥で笑った。
「悪かったな。初めての相手が俺で」
いつもの仕返しが出来た事に、何とも言えない充実感を感じてしまう。
―――クセになりそうだな・・・。
総悟はフテくされた顔をしながら、僅かに頬を染めている。
そんな顔も、違う顔も、見れるかもしれない。いや、見たいと、そう思う自分がいる。
「で?今まではどう返事してたんだ?」
「俺はホモだから止めとけって。丁重に」
「・・・・・・・それはいい断り文句だな。てか、良く言えるなそんな嘘」
俺は冷や汗をかきつつ言った。
「安心してくだせェ。相手は副長だって言ってますから」
がくりと肩が落ちる。
やはり、総悟には敵わないかもしれない。やはり、振り回される。本気と冗談の区別がつかない。
「あまり変な噂触れまわるのは止めろよ、ほんと。真撰組がヘンタイの巣窟だと思われるじゃねえか」
「でもあんた恋文無視するでしょう?それで恨まれるよりゃマシじゃねぇですかィ?」
「何?何でそこで俺の話が出てくんの?」
「ついでだから。あんた手紙出しっぱなしにしてるし」
・・・つまり、勝手に俺の部屋に入り込んで俺宛の手紙にも勝手に返事をしたと・・・・。
ぶちりと、俺の中の何かが切れた音がした。
「何勝手な事してんだ、手前!頼んでねえよ!嘘ばっか並べやがって!!」
「―――だから、嘘じゃなけりゃいいんでしょう?」
総悟の笑みを見ながら、俺は思った。やはり、先程誘っているように見えたのは気のせいではなかったのだと。
優位に立てたと思ったのも、実は仕組まれた事だったのかもしれない、という恐怖が俺を襲う。
次に唇を合わせた時に、余裕で微笑まれたら立ち直れないかもしれない。
それでも、誘惑に流される自分がいる。
総悟の本音が知りたい。
止めようとする理性に反して、俺の手は総悟へと伸びた。














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あれ?なんだか中途半端に。気を抜くと地下に行ってしまいそうになるんですよ。
R指定は自制してるんですが・・・。書くのに時間かかるから(汗)

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