恋心




何時からか持て余してた、想いがあった。

あの人がいない日はどこかつまらなくて。
口では悪く言いながら、でも、気付くとその姿を探してしまう。
その背に、指に触れてみたいと思ってしまう。
そんな自分に気付くだろうか?
あの人が自分を見返してくれる事はあるのだろうか?
こっちを見て欲しくて。
ムキになって周りをうろついてみたけど。
冗談では済まない悪戯を繰り返してみたけれど。
まるで雲を掴もうとしているみたいだ。手に届きそうなのに、実物ははるか遠い所にあって指先に掠りもしない。

古い馴染みで友人で、戦友。上司。
自分が望む位置とはまるで違う所に。
土方さんは居た。



「・・・もう、疲れちまったなァ」

夏の青い空。
目に痛いくらいの白い入道雲。
眩しくて思わず目を細める。
そう、きっとその時は疲れていたのだ。


今ならいいかな。
汗だって誤魔化せるかな。


ふと緩んだ気のせいで。
伝った頬の雫は、けれどすぐに見透かされた。

「泣いてんの?」

その声はあの人に良く似た。
違うのは髪の色くらい、だろうか。

一瞬言葉を失くし、慌てて雫を拳で拭う。
「そんなワケ、ねェだろ」
俺の強がりに微笑み返したその人は、
「なら、いいけど」
そう言って再びゆっくりと歩き出す。

――――――待って

思わずその背を追い駆けた。

こんなタイミングで現われたら。
しかも一瞬だけ外した仮面の下を覗かれたら。


身代わりにしても仕方ねぇよな?


着物の裾を掴んだ俺は、ただ救いを求めていた。







「何?やっぱ泣いてたの?」
だるそうな、髪と同じ色の瞳。
俺はごくりと喉を鳴らした。

何を言おうとしている?

止めておけ。

心の制止の声も聞かず、俺の口は勝手に動いた。
「俺、恋を、してんです」
「・・・へぇ?」
「でも、伝えられなくて。苦しくて・・・、苦しいんです・・・」
「言えばいいじゃん。それとも何?言えない相手なワケ?」
その通りだ。
問題なく想いを伝えられる相手ならこんなに苦しんだりしない。
「だいじょーぶ。相手が生きてんなら問題なんてないない。言っとけ、言っとけ」
その時、この人なら大丈夫かと思った。
こんな自分でも受け止めてくれるんじゃないかと、そう、思ってしまった。
「――――――アンタが・・・」
薄灰色の瞳がほんの刹那、妖しい光を乗せた。
それを不思議な気持ちで見た後、
「アンタが、好きです」
そう告げてしまった。
「・・・・・」
しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。
「へぇ」
一言。呟いて再び口を閉じる。
冷や汗が背中を伝った。
どう見ても、自分を信じてなどいない瞳がこちらを見返す。
その瞳を見て、はっと気付いた。


似ている?

似てなんかいない。
全然違う。


似ているなんて思ったのは・・・、自分の錯覚。
或いは願望。

「・・・お前、俺が好きだったの?」
彼は冷たく俺を見下ろしてそう言った。
つい先程出合った時の優しげな雰囲気がない。
居た溜まれなさに逃げ出したくなったが、身体が凍りついたように動かなかった。
まるでその瞳に全て見透かされ、心臓を射貫かれたように。
身代わりにしようと嘘を吐いた。
その嘘を無かった事に出来なかった。
自分は許されざる事をしたのだ、と、それだけははっきりと解った。
「・・・・う、ん・・・」
乾いた口から搾り出した、罪を重ねる肯定。

頷いた俺にくれた彼の口付けは、俺を更に深みに陥れるものだった。



あの人に同じ事を言えない俺は、臆病な俺は、そうして別の人と唇を合わせた。


相手が違うだけで、こんなに全てが違うのだ。


きっと、そう、あの人はきっと。

好きな相手には不器用でももっと情熱的なキスをする。
もっと、この手だってきっと温かい。


満たされない。
寂しさが、虚しさが増し続けていくだけ。

俺は、馬鹿だ。

解っていながら、もう後には引けなかった。












つ・・・、づく・・・、のかな・・・(汗)




***********
おおー!超久々に駄文書いた!!
これは銀沖属性でいいハズ。・・・多分。
切ないカンジな話を書きたいと思ったんです。
苦しい話を書きたかったんです。
・・・気持ちだけ。

戻る