恋心





「――――――んっ、」

どうしたんだ?

「ぁ、は・・・、っぁ・・・・」
自然に上がる息、声に自分で顔が熱くなった。

どうしたんだろう?今日の旦那は。

告白をした日から、この人と唇を合わせるのは日常になった。
でも、何時も触れるだけのもので、こんなのじゃない。
こんなのはまるで。
まるで。
犯されてるみたいだ。
「――――――っ、」
そう思った瞬間、思わず俺は旦那を突き飛ばしていた。
「――――――何?・・・どしたの?」
口元を拭い、彼は笑いながら俺を見た。
「・・・いや・・・、ごめん・・・」
慌てて謝った。
「お前さぁ、どうしたいワケ?好きってどういうコト?一緒に遊園地でデートとかしたいとか?」
「・・・・・・・」
どうしたい?
俺は考えた。
あの人としたいそれは、やっぱり今のように触れ合って気持ちを確かめたいそれではないだろうか。
「ごめん、旦那。いきなりだったから・・・、驚いて・・・」
「いきなりって。そうかぁ?じゃ、何時になったらこの先に進めんの?」
どきりと、心臓が音を立てた気がした。
「さ、先って・・・」
「まさか、知りませんって言うんじゃねぇよな?」
「―――――・・・・・て、言うか・・・」
誤魔化すように、俺はずっと抱いていた疑問を彼にぶつけてみた。
「旦那は、その、嫌じゃねぇの?俺に好かれて・・・。こんな簡単にキスなんてして・・・」
彼の口から、「好きだ」という返答はない。
だったらどうして、こんなに簡単に彼は応えてくれたのか。
もしくは同情か、遊びか。
どちらでも構わないが、はっきりしてくれないとどういう態度を取ればいいのか解らない。
知った所でどうなるものでもない気もするが。
「嫌だったらこんなコトするわけないでしょ?」
ぐい、と手首を掴まれて壁に押し付けられる。
「―――――っ、」
そのままぺろりと耳朶を舐められ、甘く、歯が立てられた。
「―――――・・・んっ、」
竦めた首筋に唇が触れる。
「・・・ま、待って・・・、旦那」
「なんで?」
「だって・・・、こん、な、の・・・」
唇が、舌が動く度、腰の辺りがざわざわとして。
思考が働かなくなる。
「―――――ああ、そっか」
ふと、身体が軽くなった。
気付くと、銀色の瞳が目の前にある。
「俺も、沖田君の事好きなんだよ」
「―――――――」
それが嘘かどうかを見抜くことは俺には出来なかった。
でも、信じる事も出来ない。
言葉を失った俺を抱き締め、「好きだ」と囁く彼を拒否する事も・・・、出来なかった。
されるがまま、初めて好きではない男相手に身体を開いた。










「貧乏臭い」
屯所に戻り、擦れ違った土方さんの言葉に振り返った。
「はぁ?」
「お前、ろくでなし男の匂いがする」
そこで初めて俺は顔を引き攣らせた。
「・・・・そんな、匂い、なんてするわけ・・・」
香水を付けてるわけでもないし、あの人の匂いが解るなんてアンタ犬か。
などと考えながら、思わず自分の匂いを嗅いでみた。
「嘘だよ」
そこではっと、土方さんを見上げた。
「アイツの匂いなんて解るか、馬鹿が」
「―――――!」
「アイツと一緒に居たのは確かなんだな」
「違―――――!」
一気に顔に熱が集まってくる。
何故?
どうして土方さんが知っている?
「万事屋と一緒に居るの何度も見られてんだよ。お前」
ああ。
そうか。
あれだけ毎日会っていればそれもそうだろう。
でも、何処まで見られてる?何処まで知られてる?人目は憚っていた筈だ。
俺は息を呑んで土方さんを見上げた。
「―――――で?何二人で企んでんだ?」
「・・・・は?」
「真撰組に関係ある事なのか?そうじゃねぇのか?」
「・・・・・・」
ふと、張っていた気が緩んだ。
そうだ。解っていた筈だ。
この人の頭の中には真撰組の事しかない。
まさか、旦那と俺が人に言えない関係だなどと、思いもしないのだろう。
俺が何処で誰と何をしようが、真撰組に関係ない事ならば何の問題もないのだろう。
少しでも気に掛けてくれたのでは、などと思った自分が恥ずかしい。
「・・・安心、してくだせェ。なーんも企んでなんていやせん」
自嘲の笑みが浮かぶ。
「じゃあ、何であんな奴とつるんでる?」
「旦那は、遊び相手です」
「遊びだぁ?悪い遊び教えてんじゃねぇのか、アイツ」
「そうそう、悪いコトして遊んでんです。そういう年頃ですからね、俺ァ」
眉を寄せた土方さんに苦笑する。
「真撰組に迷惑はかけねーよ」
一瞬でも何かを期待したのだろうか?
馬鹿馬鹿しい。
それよりも、まだ未練たらしく期待できる自分に呆れる。
駄目だとはっきり理解したからこそ、今こんな泥沼にいるのに。
「総悟」
不意に呼ばれ、肩に伸びた手に身体が大きく跳ねた。
「・・・総悟?」
「―――――俺に触るな!」
その手を振り払い、その場を逃げ出した。


再び顔が熱くなる。


鬱陶しい。


消してしまいたい。


この忌々しい恋心を。












つ・・・、づく・・・、(汗)




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やっぱり書いちゃった。
どうしよう。

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