恋心







元々、こんなに仕事の事ばかり考えてるのは自分くらいだと分かっている。
局長自らあんな風だし、隊士達は目を盗んではサボっている。
だが、息抜きは必要だ。
皆ここぞという時は働くし、それなりの覚悟も持っているから、それはそれで良し、と思っていた。
それなのに。
アイツだけは、どうして良しと思えないのか。
総悟だけは、その息抜きさえも許せないのは何故なのか。
明日の警備の配置よりも、今現在、彼が何処で何をしているかの方が気になるのは何故だ。
昨晩は苛ついて眠れなくて、これは欲求不満だと納得して花街へ出掛けた。
けれど、きつい女の香りは更にこの気分を増長させるだけで。
苛々と煙草を取り出したその時、気配に気付いた。
忍び足でこの部屋の前を横切る気配。
どんなに気をつけても、古い板床は足を乗せる度小さな悲鳴を上げる。
この部屋の前を横切って自室に戻る人間は限られている。そして、足音を忍ぶ人間も。
「おい、今何時だ」
俺は態と大きな声を掛けた。
襖の向こうでぎし、と床が鳴る。
「・・・9時・・・、45分・・・?」
予想通りの声が返ってきた。
「10時45分だよ。狂ってんのか、手前の時計は」
「あ、俺の時計止まってたみたいでさァ」
「餓鬼の言い訳か。いいからちょっと入れ」
「・・・・明日、隊務に支障を来すといけねぇんで、寝やす」
「いいから、来い!」
口調を厳しくすると、少しの間を置いて襖が静かに開いた。
「説教はいいです。明日近藤さんにしてもらいます」
ふて腐れた様に言う総悟に、「そうじゃねぇ」と返すと、意外そうに顔を上げた。
「・・・じゃ、何です?」
久し振りに正面から視線を合わせた。
とくん、と心臓が鳴った気がした。
「・・・たまには、ゆっくり話をしてみんのもいいかと思ってな」
何だ、この言い訳染みた科白は。
「気味悪ィ」
本当だ。
「・・・心配しなくても、今日は賭けナシの麻雀してましたよ。旦那んトコの下の店で」
ああ、そうか。そんな事してやがったのか。
ほっとする自分に首を傾げる。
て、言うか。そんな家族ぐるみのお付き合いになってんのか?
「そんなんはどーでもいいよ。お前が隊規違反したら斬るだけだ」
本音とは裏腹に、嘘ばかりの言葉が口から出る。
おかしいと、自分でも思うからだ。こんなに気になるのはおかしい。
この苛立ちはおかしい。間違っている。
「・・・・じゃー、何の話しようってんです?」
溜息混じりに総悟が言い、俺は次の言葉に詰った。
考えるように視線を泳がせ、そして、ふと気付いた。
「・・・お前、顔赤いぞ?」
「え?」
「熱でもあんじゃねぇのか?」
「ねぇよ」
慌てて立ち上がる総悟の腕を掴んだ。
そして、その額に伸ばした俺の手に総語はびくりと反応し、振り払おうとする。
――――――まただ。
この異常なまでの拒絶はついこないだもされた。
こんな事、今まであったか?
否、との答えを導き出した俺の頭は、次の瞬間、怒りに支配された。
「そんなに、俺に触られるのが嫌か?」
「――――そうじゃ、ねぇけど・・・」
言いながら、尚も逃れようと身体を捩る。

――――――だけど、そうなんだろう?
俺は嫌で、あの男には平気で。

無理矢理触れた額は平熱の熱さだった。
「熱なんか、ねぇじゃ・・・」
呟いた時、ふと俺の中の勘が働いた。
もしかして。
ざわりと、嫌な予感が身体を支配する。
「―――――――なっ・・・」
俺の行動に声を上げた口を掌で覆った。
逃げる身体を追いかける。勢いで、畳の上に二人で倒れ込んだ。

もしかして。
――――――つい、先刻まで誰かと肌を合わせていたのではないか?

そんな考えが不意に浮かんだのだ。
それを確かめて、どうするのか?
その先までを考えて起こした行動じゃない。

ただ、知りたくて仕方なかった。

俺は総悟の着物を乱暴に剥ぎ取った。








後は、嗚咽交じりに涙を流す総悟と。

激しい後悔と。

苛立ちと痛みが残っただけだった。











つ・・・、づく・・・、(汗)




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いや〜、やっちゃったな〜、おい。

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