恋心




我に返ったのは、掌に感じる濡れた感触に気付いたからだった。
総語は泣いていた。
「――――――わ、悪ぃ・・・」
慌てて手を、乗せていた身体を退かした。
見られたくなかっただろう。
こんなもの、誰にも暴く権利などない。

白い肌に数ヶ所残る、接吻の跡。
それは衝撃と共に目に飛び込んで来た。

そうか。
こいつにはそういう相手がいるのか。
俺はそれを知って、どうするつもりだったのか。

「・・・何で、こんな事するんだよ?」
大きく肌蹴た着物を合わせ、総語はゆっくりと起き上がった。
「・・・すまない。・・・ただ・・・、」

知りたかった。
お前の事を。

「・・・・話して、欲しかった」
ぽつりとそう零す。
総悟の顔はまともに見れない。
「思い合う相手がいるなら、そう言って欲しかった。邪魔したりしねぇよ」
彼が一言でも相談してくれたなら、こんな方法は取らずに済んだ筈だ。
簡単な事だ。
総語は俺を信頼していない。
それが寂しくて悔しくて仕方がない。
「・・・どんな相手でも、頭ごなしに反対したりしねぇ。だから、隠すな」
「・・・・・・」
そっと顔を上げ、黙ったままの総悟を覗う。
その瞳から、次から次へと雫が零れ落ちていた。
「総―――――、」
「アンタ、人好きになった事あんの?」
「・・・・・・・」
「そんな簡単なもんだと思ってんなら、そりゃ間違いだよ」
彼の口元が歪んだ。
「どんなに苦しくても止まらない、忘れたくても忘れられない、手を伸ばして、足掻いても報われない・・・!そんな想い、した事あんのかよ!?簡単に口に出来んなら、とっくにそうしてるよ!!」
「―――――――」
答えられなかった。

―――――そんなに。
そんなに、苦しい恋をしていたのか?

何時から?
誰に?

問い掛けは心の中を彷徨い、言葉にならずに消えていく。
それを聞いて、どうしてやる事も出来ない自分しか思い浮かばない。
そんな想い、したことはない。
解ってやる事は出来ない。

アイツは。
あの、坂田銀時は解っているのだろうか。

嗚咽と共に涙を流す総悟を見ながら、ふと、そう思った。
少なくとも、アイツと居る時の方が総悟の心も落ち着くのかもしれない。
それに嫉妬心を抱くなんて、なんて馬鹿らしい。
本当になんて、馬鹿な事をしてしまったのだ。
「・・・悪かった。もう、二度と言わねぇ」
これだけ長い事一緒に居たのに、自分は彼の事を何も解っていない。
「ただ・・・、自分を追い込む事だけはするな。真撰組は辛くて厳しい所だが、それ以外では・・・・、」
幸せで居て欲しい。
それは心からの願いだった。
彼だけじゃない、隊士達全員に対する気持ちだ。
総語は僅かに頷いた後、のろのろと立ち上がり、襖に手を掛けた。
「・・・俺は、此処が好きだよ」
呟いて部屋を出て行く彼を見送った。



その言葉だけで充分な筈なのに、それは棘のように俺の胸に刺さった。




彼の肌に残った跡は誰が付けたものなのか。
想う相手なのか。
それとも慰みに抱いた誰かか。
心が通わずに繋がる虚しさを抱いているのか。
どれだけ考えても、はっきりとした明確な答えは出てこない。
彼に聞かない限りは。
でも、それはもう出来ない。


自分がした事は、他人の心を暴くという、卑劣な行為だった。

何故知りたいと思ったのか。
何故こんな方法しか出来なかったのか。
そして、今尚募るこの痛みは何なのか。

後悔して、痛みに耐えながら考え、出した答えはあっさりと胸に落ちてきた。








俺は総悟が好きなのだ。

ただそれだけだった。
















つ・・・、づく・・・。




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やっちゃったよ〜、おい。
またまたおんなじネタ(銀→沖←土)だよ。カンベンしてよ(お前が言うな)


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