げ。
沖田は思わず顔を顰めた。
以前ならば、見掛けたら嬉しかったその人。
だらだらとくだらない話が出来たその人。
ぶっちゃけると、自分の数少ない友人だとこっそり思っていた。
その坂田銀時は、沖田を見つけると笑顔で近寄ってきた。
逃げようとする沖田の肩をがっしと掴む。
「逃げるなよ。傷付くでしょー」
「何時もの旦那だったら逃げねぇよ」
「は?」
銀時は首を傾げた。
「俺はずーっと俺だって。なんも変わってねーし」
「全然ちげーよ。・・・ま、こないだの事、忘れろって言うなら忘れるけど」
高熱に侵されてたとか、また宇宙人に改造されたとか。この人なら有り得るだろう。
と、いうか、そうであって欲しい。
が、
「そりゃ困る」
沖田の期待を裏切るように、銀時は即座に否定した。
「ずーっと秘めてたのをようやく伝えたんだよ?そりゃーこのガラスのハート粉々だわ」
「何企んでんです?正直に言ってくだせェ」
「・・・だから・・・。お前をどうやってベッドに連れ込むか?」
「もういいッス」
振り解こうとした銀時の手は離れない。
「ねー。じゃー、どーすればいいのか教えてよ。アイツはどうやってお前口説いたの?」
アイツ・・・。
沖田の頭に浮かんだのは土方の顔。
初めての時。
自分に向かって伸ばされた腕。
ゆっくりと触れた唇。
記憶が一気に蘇り、途端、顔が熱くなった。
「え?ナニソレ?何があった?アイツってやっぱアイツ?」
「ちげー!つか、手前ウゼー!喋んな!」
土方は何も言わなかった。
歯の浮くような科白は何一つ。
ただ、想いの込めた視線を向けられて・・・。
それにちゃんと気付いて受け止める事が出来たのは、自分も同じ気持ちを抱いていたから。
好きだったんだ。
ずっと、ずっと。
その不器用さが。周りに振り回される真っ直ぐな所が。
結婚とかそういう形で結ばれる事は決してないけれど、世の中衆道の輩は自分達以外にもたくさん居る。
抵抗はない。
むしろ、本当の繋がりに思える。
それは相手があの人だからだ。
「――――じゃあさぁ、」
焦れた様に銀時が口を開いた。
「もし、ソイツよりも俺と先に出会ってたら、可能性はあったワケ?」
「ねぇです」
きっぱりと言い切る。
「すっげ。難攻不落だね。燃える」
「・・・何そのチャラいセリフ。旦那何時からそんなキャラになったんですかィ?」
「だからー、もともとだって。お前が俺の事知らな過ぎんの」
「――――そうかィ」
ほんの少し、寂しさが過ぎる。
信じてたものが形を無くすのは寂しい。
でも、銀時の言う通り彼の事を全て知っている訳でもない。
「・・・つか・・・、旦那本当に俺が好きなの?」
そもそも最初のこの部分からして疑わしい。
もしもそうなら、これからの彼との付き合い方を考えなければならない。
そんな事を思いながら銀時を見つめていると、彼は口元に笑みを浮かべた。
「青い事言ってんなよ。俺は“一発どう?”っつーナンパしか出来ねぇ人間なんだよ」
あまりの言葉に沖田は目を見開いた。
動物か。それ以下か。だからモテねぇんだ。よっく解った。
それを言ってやろうと、沖田は銀時を睨みながら口を開いた。
「―――――旦那ァ・・・」
その瞬間、銀時の顔が目前に迫った。
え、と声を出す余裕もなく、気付いた時には唇を奪われていた。
「――――――っ、」
「ごちそーさま」
「―――――なっ、なっ、何すんだよ!?」
「ん、思ったとーり。やーらかい」
「・・・・・・っ!」
かぁぁ、と顔に血が上る。
「ごめんね。原始的な恋愛しか出来ない男なんですー」
沖田は慌てて自分の口をごしごしと手の甲で擦った。
信じられない。
一瞬の事で誰も気付いてる様子はないけれど。
公衆の面前で!
つか、恋愛?これが恋愛?
自分の知っているそれとは随分違う。強引過ぎる。
頭の中が一気に混乱して、沖田は激しくうろたえた。
「好きだよ」
その時聞こえた、銀時の告白に思わず顔を上げると、
その科白の薄っぺらさとは間逆に見える、

あの瞳が見返していた。








何故、こんなにも動揺するのだろう。
沖田は滅多にしない全力疾走で屯所まで駆け戻ると、部屋に閉じこもった。
「おい、総悟・・・」
土方に呼ばれて顔を上げると、すでに部屋の中は暗い。
「お前飯食ったのか?」
「・・・あ、忘れてた」
「忘れるか?普通」
呆れた声を出す土方が電気を点け、その眩しさに沖田は目を細めた。
土方がこちらを見下ろしている。
「どうした?何かあったのか?」
「何もねぇです」
その時、きゅ、と胸が痛んだ。
不可抗力だったけれど、この人を裏切った気がした。
「・・・本当に何かあったのか?」
沖田は黙って首を横に振った。
銀時の事はどうしても言えなかった。
「土方さん、仕事は終わったんですかィ?」
「――――あ、悪ぃ。まだ雑用が・・・」
「早く終わらせろよ。ノロマ」
言いながら、土方の首に腕を回す。
「あ・・・、ああ・・・」
そういう関係になって随分経つというのに、土方はこういう時必ず狼狽する。
だから、唇を合わせるのは自分から。


忘れろ。


言い聞かせながら、土方の感触を確かめた。




















続く(確実)




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やっぱり中途半端はモヤモヤするので書いてしまいました。



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