賑やかな繁華街。
見回り中の沖田はその人に目を止め、そして直ぐにそれを逸らし、
ふと、もう一度確認するように視線を動かした。
その人、銀時は沖田に気付かず談笑している。
隣にいる女と。
銀時の腕に自分のそれを絡ませ、意味ありげな視線を送っている。
女が笑う度に揺れる、長い、綺麗な髪。
その唇が自然の様に銀時の頬に触れる。
――――――どくん、
心臓が鳴った。

何だ、これ。

沖田は彼らを凝視した。
二人は此方へ向かってくる。

嘘だろ?

いや、違わない。

解ってた筈。

銀時の言う事など本気にしてない。
あの男はそういう人間だって、解ってた筈。

数歩手前でようやく沖田に気付いた銀時は、顔を上げた。
視線が合う。
自分がどういう顔をしているか分からないが、銀時は沖田の顔を見て笑った。
そして、何も言わずに沖田の横を通り過ぎる。
その先にはホテル街。

嘘だろ。

しばらくして、思い切って振り返った沖田は、二人が確かにその中の一つの建物に入っていくのを見た。

ああ、ほら。
良かった、信じなくて。

こんなに衝撃を受けるのは、違う。
悪びれもしない銀時の態度が気に触るのだ。

やっぱりアイツは悪い男で、


酷い嘘吐きだ。









ほんの少しでも揺れた自分が信じられないだけ。
いや、揺れてなんかいない。
ただ、あの瞳にほんの少し惑わされただけ。
いや、惑ってなんかいない。
自分で何度も否定しながら、沖田はその日の仕事をこなした。
悔しいけれど、あの男の事ばかり考えているのは事実だった。
「―――――総悟?」
屯所に戻った沖田は廊下で呼ばれた。聞き慣れたその声に、激しく動揺した。
「・・・・・・・」
ゆっくりと顔を上げて、声の主を見る。
「どうした?何かあったのか?」
何もない。
事実、何もないのだから大丈夫。
そう思った途端、銀時の唇の感触を思い出した。
「―――――」
「総悟・・・・」
思わず、縋りつくように抱き付いた。
驚いた土方は慌てて周りを見渡す。
「おい・・・、こんな所で・・・」
「抱いてくだせェ」
「おい・・・」
「今直ぐ」
「・・・今、って・・・、お前・・・」
廊下の向こう側で隊士達の声が聞こえた。
土方は沖田の肩を掴むと、強引に引き離す。
「今は駄目だ。今晩行くから」
早口にそう言い、土方は沖田を見た。
「何があっても行くから」
念を押すように言い、そのまま立ち尽くす沖田を置いて歩き出した。
――――――そうだよな。
沖田は呟いた。
理性的な人間ならば当たり前の科白、行動。
夜まで待てない、なんてのはただの我侭。
愚かで、動物的な思考。
でも、あの男ならば。
銀時なら、こういう時どうするだろう。
土方の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと考えていた。




その夜、土方は仕事を放り投げて沖田の部屋に来た。
そして、何度も聞いてくる。
「何があった?」と。
だけど、「何もない」と答える沖田の言葉を土方はそのまま信じた。
「疲れて、無性に寂しくなったんです」
その言葉を信じて、彼は沖田を抱き締め、縋る身体を慰めて、残っている仕事を片付ける為に部屋を出て行った。
信じてくれて。
優しくて。
それ以上の何を土方に求めるのか。
一人、布団に横たわって沖田は考えた。
眠れない。
情事の余韻は頭を占めるあの男によって掻き消される。
――――彼は。
銀時はどうやって他人を抱くのだろう。
その時、あの瞳はどう相手を映すのだろう。
何故、あの瞳が頭から離れないのだろう。

眠れないまま朝を迎えた。


















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ようやく続きを・・・。
すみません、更に続きも頑張りますー・・・。



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