ああ、いやだ。
もう二度と顔も見たくないのに、こういう時に限ってよく会う。
つか、いい大人が毎日ふらふらしてんじゃねぇよ。
沖田は小さな銀時の姿を睨んだ。
こんなに遠く離れていても見つけてしまう自分の目も忌々しい。
「よ、」
軽く手を上げ、やはり悪びれる様子もなく普通に笑顔を見せる悪い男。
沖田はふい、と彼から目を逸らして無言のまま擦れ違った。
「ね、こないだお前何思ったの?」
後ろから掛けてくる声に勿論、返事など返さない。
「もしかして・・・、怒ってんの?」
無視を決め込んで早足で歩く沖田の後を、銀時は追い駆けてくる。
「俺の作戦にまんまと嵌った?」
・・・作戦?
沖田は足を止めて銀時を見上げた。
してやったり、の銀時の表情に苛立ちながら、それでも無視出来ないその言葉の続きを待つ。
「妬かせよう作戦」
聞くんじゃなかった。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺に構ってねぇで、その辺のヤらせてくれる女引っ掛けて遊びまくってろィ」
苛々と言う沖田に、銀時は笑みを返す。
「それはそれ、お前はお前」
「ほんっとに最悪。もうほんっと俺に近付かねぇでくだせェ」
「なんで?揺れちゃうから?」
「――――――」
揺れてねぇし。
そう言い返せば良かったのに。思わず黙った沖田に銀時は僅かに目を見開いた。
「うざい」
それだけをようやく吐き出すと、沖田は銀時に背を向けた。
銀時が付いて来る気配はない。
ほっと息を吐き出した所で、後ろからすごいスピードで足音が近付いて来るのに気付いた。
ぎょっとして振り返る沖田の目に、どんどん近くなる銀時が映る。
「――――――なっ、」
銀時は驚く沖田の手首を掴むと、徐に路地に押し込んだ。
「ちょ、旦那・・・っ!」
大きな手が口を塞いでくる。
そのまま壁に押し付けられ、息も出来ないほど身体を密着させてきた。
熱い息が沖田の頬に掛かる。
その心臓の音も自分の物の様に聞こえる、感じる。
全身が一気に熱くなり、自分の鼓動も激しく鳴り出した。
何が起こっているのか分からない。頭の中は真っ白だ。
何一つ抵抗も出来ず、ただ、相手の服越しの体の感触だけを感じる。
熱い、ただ熱い。
不快感が全くないのが不思議だった。
しばらくそうして、互いの息が落ち着いた頃、ふと身体が軽くなった。
銀時は口を、身体を拘束していた手を離し、沖田の肩に乗せる。
「・・・お前、ヤバい」
ぽつりと呟くと、銀時は沖田の頬に軽く口付けた。
「――――――」
一言も、何も発せなかった。
銀時のあの瞳が自分を見詰め、そしてゆっくりと遠ざかって行く間も、何も出来ない。考えられない。
世界中の時間が止まった気がした。
街の喧騒が耳に届き始めて、沖田はようやく我を取り戻した。
身体中の力が一気に抜けて行く気がする。
きっとそれは数分。銀時の身体が密着していた時間はほんの数秒。
なのに、何時間も経った気がした。
正直、このまま犯されるかと思った。
けれど、彼はそうしなかった。
彼のぎりぎりの心情を垣間見た様だ。
まるで、本当に自分の事を好きみたいだ。
落ち着いた筈の心臓が再び音を立て始める。
「・・・嘘・・・、だろ・・・」
それはどんな薄っぺらな告白よりも、そしてあの瞳で見詰められるよりも。
余程。
沖田の心を揺さ振った。






もう何度目だろう。
土方は沖田を覗き込むと、目を細めて口を開いた。
そして、訊ねられる。
「何があった?」
と。
――――――駄目だ。
こんなに銀時の事ばかり考えている自分を悟られては駄目だ。
自分が失いたくない人は間違いなくこの人なのだ。
なのに。
それなのに。
銀時との事で、土方がより一層大事に思える。
なのに。
どうして。
「・・・土方さん、俺、そんなに変かな?何がどうおかしい?」
沖田は土方を見上げ、反対にそう聞いてみた。
「―――――いや・・・、」
土方は口篭もり、そして赤くなった顔を背けて口を開いた。
「素直すぎて、気味悪ぃ」
つられて赤くなった沖田は、
「アンタやっぱりドMだろ?そんなに苛めて欲しいんなら半端なく苛めてやりやすぜィ」
捲くし立てるように言い返した。
「Mじゃねぇよ。―――――まぁ、俺の気のせいだって言うなら・・・」
ちらり、と黒い瞳が沖田を見る。
あの瞳とは違う色の瞳が。
「お前がようやく、近付いた気がする」
どきん、と心臓が鳴った。
最近こんな事が多すぎて心臓が壊れてしまうのではないかと思う。
でも、それは本当だ。
以前よりも彼に素直に接している気がする。
自分でも気味が悪いくらいだ。
黙り込んだ沖田に、土方の方から顔を近付けて来る。
この人が好きだ。
それに間違いなどない。
沖田はそのまま、素直な気持ちのまま、土方と触れ合った。





















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最近浮気の話を聞く機会がありまして。
自分はやっぱり面倒臭いからいいなぁ、と思ったけど興味深かったです。
ただ、何でもネタにする。自分と違うタイプの友達の話も参考になりますなぁ。くくく。
でも気持ちは何時も純粋なのね。恋っていいね。


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