じん、と身体の奥が熱くなった。
心臓はやっぱりうるさく鳴り出す。
顔もきっと赤くなっている。
こんな自分を見られるわけにはいかない。
気付かれるわけにはいかない。
沖田は銀時を見かける度に逃げ出すようになった。
でもそうだ。そんなのは長く続かない。
どこかで終らせない限り、逃げ切れる筈などない。
「よーやく見つけたー」
ましてやこの狭い町。
そして銀時はまだ、沖田に執着している・・・らしい。
「どなたでしたっけ?」
沖田は振り向かずに答えた。
声を聞いただけでまた、あの変化が訪れる。そんな自分が鬱陶しい。
気付かれないように息を吐きだした。
「あれ?たった数日で俺の事忘れちゃった?」
「最近物忘れが酷いんでさァ」
背を向けたまま、とにかく離れようと足を進める。
少なくとも何処か、もう少し人通りの多い所へ行かなくては。
でも、先日のように路地に連れ込まれたら同じなのだけれど。
思い出しただけでかぁ、と顔が熱くなる。
駄目だ。やっぱり振り返ることなど出来ない。銀時の顔など見れない。
「なぁ・・・、やっぱりまだダメなの?」
「・・・・まだってなんだよ。俺ァ、最初からずっとやだって言ってんでしょう」
不意に銀時の気配が近付いて、沖田はびくりとした。
思わず、半分走るように速度を速める。
互いに数歩進んだ所で、銀時は諦めた様に足を止めた。
「―――――・・・・」
沖田はちらり、と銀時の様子を探り、動く様子のない事を確認した。
「――――沖田お前、耳赤いんだけど」
「――――――」
「なんか、逃げ方とか。女の子みたい」
「―――――誰が・・・っ」
反射的に歩を止め振り向いた沖田に、銀時は声を出して笑った。
「すっげ。顔も真っ赤」
今の自分の状態など、自分でよく解っている。言い当てられて腹が立った。
「―――――誰のせいだよっ!!だから会いたくなかったんだ!消えろ!手前今直ぐ消えろ!」
「――――――」
銀時は笑うのを止めると、真っ直ぐ沖田を見返した。
「・・・それ、俺のせい?」
「ちっ、ちがっ、赤くねぇっ!」
激しく動揺して、自分が何を言っているのかも解らなかった。
ただ、ゆっくり近付いてくる銀時から逃げる考えはもう浮かばなかった。
「何時ものクールな沖田君はどうしたの?」
「・・・そんなの、知らねぇっ」
「真っ赤になって、困った顔して。・・・それってさぁ・・・」
「―――――」
本当に。
何時もならば即座に鉄拳かましてるのに。
こんなに居た堪れなくて、恥ずかしくて、消えてしまいたくなるなんて初めてだ。
冗談じゃない。
涙まで出そうな、こんな女々しい自分など嘘だ。
「すっげ、可愛いんですけど」
「・・・馬鹿に・・・、してんだろ。俺はこれ以上みっともねぇ自分嫌だ。アンタなんか大嫌いだ」
銀時の言葉など、全て嘘にしか聞こえない。
人の事を馬鹿にしてからかって遊んでいるとしか思えない。
それなのにどうして、こんなに恥さらしな事になっているのだろう。
「俺もさ、振られても振られても言い寄るかなりみっともない男なんですけど。そんでもどうしようない時ってのが多分、人生にはあるんじゃねぇの・・・?」
ゆっくりと、銀時の手が上がり、沖田の頬に触れる。
反射的に身体が強張る。
「そういうのって、世間的には恋、とかって言うんじゃねぇかな?」
「―――――違う。絶対違う・・・。そんな事あるワケねぇ」
「言葉と表情がさ、一致してねぇって。俺に会いたくなくて、でも少しは寂しいとか思ってたんでしょ?」
視線を足元に落としたまま、沖田の神経は銀時の触れている部分に集中している。
その指が頬の形をなぞる度、身体の奥がぞくりと震える。
「―――――違う。違うんだ。だって・・・、」
「ん?」
「俺が・・・、好きなのは土・・・、方さん、だから・・・」
「・・・・・・」
「だから――――――」
もう俺に近寄らないで。
とは、言えなかった。
不意に抱き寄せられ、言葉は銀時の厚い肩に遮られた。
「認めたな?よーやく言ったな?」
何が。
だからアンタとそんな事になるなんて有り得ないんだって。
だから・・・・、離せ。
着物に塞がれて言葉は出てこない。
それよりも、頬にだけ感じていた銀時の感触が。熱が。
全身に回るようだ。
――――――この匂いは、嫌いじゃない・・・。
勿論、土方の煙草の匂いも嫌いではないけれど。
つか、こんな事考えてぼーっとしている場合ではない。
我に返ってみるが、銀時の身体を押し返せない。もう少し、もうほんの一秒でもいいから。
・・・・離れたく、ない。
しかし、抱き締め返そうと上げた腕を沖田は下ろした。
「躊躇う理由はやっぱりアイツか」
沖田は黙って頷いた。
「俺さぁ、最初ッからそれでいいって言ったよな?別にアイツと別れさそうとか思ってねぇし。お前はアイツと居た方がいいって思ってんし」
「・・・・・」
「ただ、お前とやりてぇだけ」
やっぱりそれかよ。
呆れるが、でももしかしたら・・・。
「やべーんだって。他のヤツ相手に勃たなくなってんの」
責任取ってくれる?
そう言って、銀時は沖田の頬を両手で包むようにして自分の方に向けた。
駄目だよ。
絶対に、駄目だ。
心とは反対に、沖田は目を瞑り、銀時の口付けを受けた。
それは不思議と、土方と一緒に居る時のように沖田を落ち着かせた。
「・・・俺、もう帰る」
返事とか、今は考えられない。
銀時はそれ以上沖田を追う事もなく、黙って見送った。
“やりたいだけ”
―――――でも、そういうのももしかしたらアリかもしれない。
そして、もしかしたら自分の感情もそれかもしれない。
そっと振り返ると、夕焼けが小さくなった銀時の後ろ姿を照らしていた。
続
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ひょー。遅くなってスミマセンでしたっ!!!
酷いブツですが、待っていて下さった皆様に捧げます!!
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