無謀な挑戦





この俺、南戸粋はあの日からどうにもおかしかった。
柳生に乗り込んできた奴と戦ったあの時から。
周りに侍る女の顔がどれもあの顔に見える。それは願望。
この世で一番美しいのは自分だと思っていたのに、今はあれ以上に美しい人間がいるものかと思う。
それは、恋。
先日北大路に聞いて、とうとうあの男の正体を知った。
真撰組の沖田総悟。
俺は納得した。それで、あの強さ。
けれど、早速勇んで訪れた真撰組の屯所で俺の顔を見た沖田は一言。
「うざ」
いや、予想はしてたからそんなに落ち込みはしない。むしろ、どSの彼らしい。
てゆーか、やっぱりカワイイ。
「視界に入るな入れるな消えろ。死ね」
畳み掛けるように俺にそう言った沖田は、足に怪我をしていた。
「そりゃあ、ウチでやった怪我か?誰にやられたんだ?」
「―――聞くな。つか、喋るな。死ね」
怪我の話題に触れた途端、沖田のテンションは更に急降下した。
「そう言うなよ、芋道場なんつって悪かった。お宅は柳生にも引けをとらねぇよ。・・・とにかく、その、ツラに怪我なくて本当に良かった」
急いで言ったつもりだったが、顔を上げると既に沖田は門の中に入ってしまっていた。
「ちょ、聞いてくれよ!このままじゃ俺は不能者になっちまうんだよ!」
後を追いかけると、沖田は松葉杖をついているためかそんなに歩いてはいなかった。
「女に縁がねぇって言ってたじゃねぇか。会うくらいして欲しい・・・」
そこまで言って、俺は両手が塞がっている彼に気付いた。
チャンスだと、どこからか声が聞こえる。
有無を言わさず、俺は背後から沖田に抱き付いた。
「手前・・・」
振り向いた沖田の冷徹この上ない表情。
この顔だ。ドSの顔だ。
見下される事に快感を感じる。けれど、やっぱり押し倒したい。
夢中で唇を彼に近付けた。
次の瞬間、肘鉄と共に松葉杖でしたたかに殴られ、俺は気を失った。
目が覚めた時、俺は屯所の前に転がっていた。
以前の自分では考えられないが、それにすら興奮した。この、犬以下の扱い。
女を落す事に命を賭けてた俺が、難攻不落の男を落すのに命を賭ける。
落ちた時の沖田の顔。
それを妄想するだけで震えが走る。
その時にこそ、俺のプライドは更に高みへ上るだろう。
諦めも、不可能も有り得ない。
彼を必ず、自分の物にする。
それにはまず、強くならなくてはならない。
こうも簡単に捻じ伏せられるようでは、触れるどころか近付くことさえままならない。
本音を言うと、いけ好かない東城の居る柳生に未練も、居続ける義理もなかったが、今は黙って教えを乞う事にする。
この俺様がそこまでするのだ。
覚えていろ、沖田総悟。



「おめーもいい加減しつけぇなァ」
うんざりとした表情で俺の顔を見た沖田は言った。
「何の用でィ?つか、誰だっけ?」
「――――ようやく・・・、喋ってくれた・・・」
俺は感激のあまり涙が出そうになった。
前回は用も何も言う間もなく追い出された。しかし俺はその後も、稽古の合間に散々彼の後を付回していた。
そうしてようやく顔を覚えられ、こうして会話も出来る様になったのだ。
「俺の名前は南戸粋。柳生でアンタにやられた男だ」
「――――でよォ、あのドラマ最終回見逃したからレンタルしてきてくれィ」
「―――聞いてるっ!?」
隣にいる隊士と話す沖田に俺は声を上げた。
「うるせーなァ。わーったよ。セレブ道場の奴だったなァ」
「そうそうっ!!」
俺は慌てて頷き、捲くし立てるように続けた。時間を掛けては彼は聞いてくれない。
「俺はアンタに惚れた!ぶっちゃけ、抱きてぇ!!俺のテクなら絶対満足させる自信有りだ!!」
「――――つかよ、何でビデオ撮っとかないの?気が利かねぇなァ。腹斬るかィ?」
それでも聞いてくれていない。
こうなったら実力行使だ。
沖田に向かって手を伸ばした俺の襟首を何者かが掴んだ。
「路上で何てコト大声で言ってんだ。猥褻罪でしょっ引くぞ、コラ」
土方十四郎。真撰組の副長だ。
そう言えば、柳生に乗り込んで来た時も二人は一緒だった。
「総悟、何でこんな奴に付きまとわれてんだ?」
「知らねーよ。ああ、丁度いいや土方さん、そのまま人知れず処分しちゃって下せェ」
「・・・川かいいか?それとも山か?」
真面目な顔で俺に聞いてくる土方に、目を剥いた。
「どっちも嫌に決まってんだろう!?あ、つか、じゃあその前に一回だけ沖田とヤら・・・」
「海にしよう」
最後まで言わせてはくれなかった。ずるずると襟首を持って引き摺られる。
「・・・お宅、あの子の何?もしかして俺の恋敵ってやつ?」
「何言ってんだ?それより、何時からあいつ追い回してんだよ?」
「若の事件からコッチ、ずっとだよ。何?もしかして知らなかった?結構会話少ないのね、お宅ら」
「余程お前が総悟の眼中になかったんだろうな」
俺はむっとして土方を睨んだ。そして、ある提案を持ち掛ける。
「勝負しねぇか?」
「――――何で」
「どっちが沖田を好きにするかを賭けた勝負だよ」
「何だ、そりゃ?」
「そうだなァ、先に沖田にキスした方が勝ちだ。そのまま好きにしてもいい・・・」
そこまで言った俺は思わずその時を想像して身震いした。
「馬鹿か。俺に何のメリットもねぇじゃねぇか。剣の勝負ならやってもいいがな」
そう言うと思った。
俺は溜息を吐いた。
そういう汗臭い戦いは嫌いなのだ。
しかし、今の俺は土方には勝てる気はしていた。沖田にはまだ敵わないかもしれないが。
「断ったら、俺ぁ、毎晩沖田に夜這いかけるよ?マジだよ、マジ。一回くらい成功するかもしんねぇよなぁ」
「――――俺が勝ったら、二度とその面見せねぇか?」
「俺が勝ったら、もらうよ、あの可愛い子」
「――――冗談じゃねぇよ」
背後から聞こえた沖田の声に、土方と俺は同時に振り向いた。
「俺抜きで何寒い事話してんだ!?」
そう言った沖田は本当に寒そうに身を震わせた。
「勝負も何も、今此処で俺が手前をボコりゃ済むんじゃねぇか」
「―――そんでも、俺は諦めねぇぜ」
俺は少しだけ怯みながら、言った。
「じゃあ、剣だ。また皿勝負でいいや」
土方が言う。
「いいや、ボコる」
沖田が言う。
「いいや!!キス!!絶対キス!!!」
三人は無言で睨み合い、そして同時に叫んだ。
「じゃーんけーん・・・」
・・・・勝った・・・・!!!
俺は自分の握りこぶしを見つめて感動の涙を流した。
これで心置きなく昼夜違わず襲える・・・!
ん?つか、今までと一緒か?それ?
まあ、いいや。
俺は顔を上げて沖田を見た。
そして次の瞬間、俺の全ては終わった。
沖田が自分から土方に・・・キスを・・・、していたのだった。
俺の二枚目の顔が見事に崩れていると自分でも分かるほど、口を大きく開けて二人を眺めた。
「――――土方さんの勝ちでィ」
沖田は勝ち誇った顔で俺を見上げた。
「二度とその面見せんなよ」
二の句が告げずに間抜け面を曝す俺に背を向け、沖田はどこか嬉しそうに道を戻って行く。
それほどまでに嫌われているのだ。
そうだ。ちょっと考えれば解る筈だった。
キス勝負より剣での勝負の方が俺に分が有ったのだ。目先の欲望に捕らわれてしまった。
がっくりと項垂れる俺の前で、土方は硬直したまま立ち尽くしていた。
いつまでもいつまでも、日が暮れても俺達は二人でそうしていた。












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めっちゃ地下行くか悩んだ(え)
でもやっぱ、こいつに沖田は無理だろう。という結論に。
ていうか、やっぱこいつに渡したくないね。総悟君はv(何言ってんの?)
そしてまた土方を出してしまった。

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