恋慕 弐
こうなってしまったのは何もかも自分の無責任さのせいである。
そう思って、銀時はぶんぶんと頭を振った。
「違う!全部こいつが悪い!!あんなトコで飲んでたのも襲われたのも俺がふらっとなったのも全部こいつの責任だ!!」
隣で寝息を立てる沖田を指差して叫んだ。
「・・・五月蝿ェよ、チャイナが起きるだろうが」
片目を開けて、沖田はじろりと銀時を睨んだ。
銀時は慌てて自分の口を押さえた。
あれから沖田は自分の時間の空いた時、主に夜中を狙って銀時の部屋へ入り込むようになった。
目が覚めたら突然隣にいる、なんてこともしばしばだ。そして、夜が明ける前にそっと帰って行った。
夜しか会えない。外では会えない。誰の目からも隠れてひっそりと、身体を合わせて沖田は帰る。
それでこいつは満足なのだろうか?
そう思ったら何故か苛々しだした。銀時にとっては都合のいい存在この上ないのだが、考え出すと止まらなくなってしまった。此処でも神楽は始終居る為、大っぴらには会えない。声も、音も出さないように気を使う。
声を洩らさないように必死に唇を噛み締める表情もいいのだが・・・。
銀時は徐々にハマり始めた自分に焦りを感じていた。
「据え膳じゃなくて、高楊枝の方にしときゃ良かった」
しかし、何度思い返しても、あの誘惑に勝てるとは思えなかった。あんな危な気な所を見せられては余計かもしれない。
今となってはあの時の偶然に感謝したいくらいだ。二度とあんな奴等に、いや、誰にだって指一本触れさせたくない。
そんな事を思ってしまう自分にまた、銀時は情けなくなる。
どーなってるんだ?俺。
自問自答の繰り返し。
沖田は従順だった。自分の事が本当に好きなのだと伝わってくる。思い返せば、銀時に対しては何時も素直だったような気もする。それでも、この状況は銀時の予想の範疇を越えていた。
「・・・総悟、時間」
銀時は沖田の肩をそっと揺すった。
「ん。・・・じゃ、また」
寝ぼけたまま、目を擦りながら立ち上がる沖田に銀時は声を掛けた。
「また朝から仕事なんだろ?そんなまでして、なんで此処来んの?」
沖田は振り向くと、銀時を見つめた。
「・・・邪魔になったかィ?」
「そんなんじゃなくてさぁ、いくら神楽も一度寝たら朝まで起きないっつってもそろそろヤバいっつーか」
「ああ、そうだよな、悪かった。しばらく来んのよしまさァ」
「しばらくってどのくらい?」
「旦那がいいって言うまで。来るなってんならそうするし」
「いやいや、そうじゃなくて」
銀時ははあ、と息を吐き出した。
「お前はどうしたいワケ?俺の意見そんちょーしてくれんのは嬉しいんだけど」
「アンタに逢いたい」
それだけだ、と言う沖田に、銀時はどうしようもない気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
「・・・悪ぃな、俺に甲斐性なくって」
「・・・旦那はどうしたい?いきなり何でそんな事聞くのかわかんねぇよ」
銀時は、ん〜、と腕を組んで考えた。
確かに分からない。しかし、あれからろくに話もせずにヤるだけの付き合いに嫌気が差してきたのが真相だろう。
「何で、秘密にしなきゃなんないんだっけ?」
「その方がお互い都合いいからでしょう。ホモだってバレていいんですかィ?てか、アンタはノーマルだよな。これは気の迷いってヤツだ」
「そりゃ、ちげーよ。お前何でそんな言い方しかできないの?俺が好きなんじゃないの?」
「ヤバい。時間だ」
沖田は呟いて、身を翻した。音もなく部屋を出て行く。
「・・・で、結局俺は何が言いたかったの?」
取り残された銀時は一人、呟いた。
―――数日後。
欠伸をしながら沖田は屯所の廊下を歩いていた。朝の会議の時間だ。
ふと縁側から見える庭に目をやり、其処にある銀髪に沖田の足は止まった。
「何してんすか?アンタ」
「見ての通り、庭掃除」
振り向いた銀時の手には竹箒が握られている。
「仕事ないからよぉ、職安行ったら此処紹介された」
「定年迎えたじじぃかよ」
「嘘。仕事下さいって土方に頼んだ」
「マジでか」
「嘘」
「・・・・・・」
沖田は呆れた視線を銀時に向けた。
「お前さぁ、あれからマジで来ないもんな。何よ?その程度?」
「何がだよ」
「俺に会いたいって言ったの、ついこないだだろ!?」
「声でけーよ!!」
沖田は慌てて庭に飛び降りると、銀時の口を塞いだ。
「捕まえた」
その沖田の身体を、銀時はぎゅっと抱き締める。その時、沖田の耳に土方の声が届いた。
「総悟!何処だ!!まだ寝てやがんのか!?」
沖田は慌てて銀時を押し退けると庭から飛び出した。
「ここでさぁ」
「んなトコで何してんだ?おい、万事屋!しっかり庭掃いとけ!!」
「へ〜い」
面白くなさそうに返事する銀時に、土方はにやりと笑ってみせる。
「クク。職安に紹介された場所が悪かったな。今日一日こき使ってやるから覚悟しとけ」
「マジだったのか」
沖田は呟いた。気付くと、食器を割る音や障子を破る音などが聞こえてくる。チャイナとメガネもいるのだろう、と沖田は思った。
「で、お前はあいつと何してたんだ?」
どかどかと廊下を歩きながら、土方は後ろを歩く沖田に訊ねた。
「挨拶」
「・・・ほう。珍しく律儀じゃねぇか?」
ちらりと視線を向けられ、沖田はもしかしたらこの人は知っているのかもしれない、と思った。
しかし、特に報告する義務もないと思い直し、沖田は気付かない振りを決め込んだ。
何時も通りの騒がしい会議が終わって、沖田が廊下を歩いていると、再び銀時が現われた。
今度は手に雑巾を持っている。
「・・・大変だなぁ、旦那も。とりあえず俺の部屋磨いといてくだせェ」
「他に言う事ないの?」
「―――ここんとこ仕事立て込んでただけでさァ。旦那の言う通り、ちょっと間置こうと思ったのも本当だけど」
「ふ〜ん」
銀時は言いながら、沖田の腕を掴んですぐ傍の部屋に連れ込んだ。沖田は驚いて銀時を見た。
「・・・アンタ、この間から何したいんだよ!?」
「こうしたい」
言って、朝のように抱き締められる。
「・・・わっかんねぇな・・・」
沖田は呟き、力を抜くと、銀時の腕の中で目を閉じた。
「俺さァ、自分で思ったよりプラトニック派みたいなんだよね」
「よく言うよ」
「こーしてるだけでどきどきしねぇ?」
「―――する・・・、かな・・・」
だろ?と、銀時は嬉しそうに笑った。
沖田はそんな銀時の背中にそっと腕を回した。温もりと、その匂いが沖田を安心させる。
「俺ぁ、ずっと前からアンタが好きなんだ。簡単にゃ離れねぇよ」
「・・・何それ?ずっとって何時から?」
「池田屋の爆弾から」
「最初じゃん」
沖田は笑った。
そう、最初から好きだから。この程度じゃ離れないし、忘れても思い出させる。こっちはそのつもりなのに、焦る銀時が意外で面白い。
「じゃあ、間すっ飛ばしたから、手を繋ぐとこからでも初めりゃ気が済むんですかィ?」
「や、Hはする」
「何なんだよ」
「もっと・・・、話そうかな、なんてな」
「・・・・・」
「気まぐれが恋になった・・・、ってカンジ?」
「・・・・・」
沖田は銀時を見上げた。
いい加減に見えるが、いや、実際そうだが、根は優しい。知っていた。そうでなければ他人の為に命を掛けたりはしない。
そんな人を自分のエゴで縛っていいものか、と悩んだのも確かだったが・・・。
これが、恋というものなのか。
「・・・好きだ」
呟いた時、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ひどいよ、銀ちゃん聞いてよ、ワタシ一生懸命してるのに出てけってこのニコチン野郎が!!」
「坂田、手前こいつら連れてさっさと出てけっ!給料なんぞビタ一文払わねーからなっ!」
「ちょっと、そりゃないんじゃないですか!?僕はちゃんとやってるのに!!」
口々に叫びながら部屋に入ってきた三人は、銀時と沖田を見て固まった。
「・・・何で怒らねーんで?」
騒がしい一行が帰った後、沖田は土方に訊ねた。
信じられないだの変態だのけなされた銀時は一切弁解もせず、ぽりぽりと頬を掻きながら「じゃあな」と言って叫び続ける二人を連れて屯所を出て行った。そんな三人を沖田と土方は見送っていた。
「知ってたからな。・・・お前のアイツ見る目は尋常じゃねぇってよ。アイツが応えたのには意外だったが」
「好き好きオーラ出てたって事かィ?」
嫌だなあ、と沖田は呟いた。
「・・・違うな。強く興味を惹かれてる、ってカンジか」
―――じゃあ、それが恋になったんだ。
沖田はそう思って、銀時の小さくなる後姿を見つめた。
終
*-**-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-***-*-**-*-*-*-*-*-*-**-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
ふうっ。どうやらハッピーエンドにできた(?)
銀さんとはどうしても身体から始まる関係?ってのになっちゃうのだ・・・。
それにしても土方さんと銀さんは愛しいです。もうほんと、愛人でいいからお願いしますってカンジで(←おこがましい)
いや、総悟が可愛いのは勿論なんですけど(病気だ)
次は神楽×総悟で(笑)
戻る