勝負事



「沖田く〜ん。遊びましょう」
「ふざけんなお前。あいつは仕事中だ。暇人と一緒にすんな」
真撰組屯所の門の前、ふらりとやって来た銀時は大声で沖田を呼んだ。が、出て来たのは土方だった。
「うん。俺さぁ、何か全部なくしちゃってすっげ暇なんだよ」
「自分のせいだろ」
「あんたは謹慎三日で済んだって?」
「誰かと違って上の覚えがいいからな。誤解だって言や無罪放免よ」
土方は言いながら煙草に火を点けた。
「沖田が制服着てんのすっかり忘れてたよ。アレまずかったよな」
「俺ぁ、感謝してるぜ?お陰で面倒事が減ったからな」
煙を吐き出しながら、にやりと笑う土方を銀時は冷たく見た。
「へぇ。感謝ねぇ。随分怒ってるように見えたけど?」
「気のせいだ」
「・・・謹慎中、沖田と何かあった?」
「何か?」
土方はちらりと銀時を見た。本気で分からないらしい。とりあえず沖田との仲の進展はないのだと銀時は判断した。
「用事はそれだけか?だったらさっさと帰れ」
土方にしっしと手で追い払う仕草をされ、銀時はむっとする。
「俺は偽者で我慢するタチじゃないから。本物がいい」
「―――何?」
土方の顔色が変わった。
「後悔してんの?だから良く似た別人抱いて誤魔化してんの?」
「手前、いい加減にしろよ」
「俺と沖田がふざけてると思ってんなら甘いよ?副長さん」
音も立てずに刀が抜かれる。鼻先で光るそれを眺めながら、銀時は笑みを浮かべた。
「実は俺も後悔してんだよ」
その言葉に土方の目が訝しげに細められる。
「あの時さっさと連れ込んでおけば邪魔が入らなかったなぁって」
「――――てめっ・・・」
刀身が翻り、銀時を二つに切り裂く。が、その場所には既に銀時はいない。
気付くと、数メートル先に銀時は土方に背を向けて歩いていた。
「・・・・・・」
土方はその背を苦々しく見送った。





真夜中と言える時刻。
障子が音もなく開いた。
沖田は目を覚まし、静かに刀へと手を伸ばす。
「――――旦那か・・・」
詰めていた息を吐き出し、沖田はアイマスクを外した。
瞬間、熱い唇で己のそれを塞がれる。
「う―――、」
そのまま布団へと押し戻され、沖田は銀時の体の下で身を捩った。
しばらくして、ようやく放された沖田は大きく息を吸いこんだ。
「・・・夜這いかィ?」
「まぁね。なんかこっちも引き下がれない状態になったもんで」
「はぁ。よくわかんねぇけど」
沖田はしばらく考えこんで口を開いた。
「・・・どうしたら引き下がれるんで?」
「お前に好きだって言わせたら」
「好きですぜ」
銀時は目を大きく見開いた。
「早っ。軽っ。ってか、そんなんでいいワケ?」
「まあ。男に告白されたのは初めてじゃねぇし。俺ぁ3人は再起不能にした男ですぜ」
「マジでか」
銀時はがりがりと頭を掻いた。困ったように視線をさ迷わせる彼が何を考えているのか、沖田には理解できなかった。
「じゃ、なんで俺は再起不能にされなかったの?」
不意に聞かれ、沖田は銀時の瞳を見つめた。
「―――俺の敵う相手じゃないからでさぁ。・・・アンタを斬るワケにゃいかないし」
銀時は無言で沖田を見つめ返した。
「お前、時々殺し文句言うね。殺されるわ、俺」
「そうじゃなくて・・・」
今度は沖田が困る番だった。
銀時を好きなのは本当だ。けれど、恋人になりたいとかいう部類ではなく、純粋に尊敬しているだけなのだ。
土方に対しても同じ感情しか持っていない。それなのに、良く似たこの二人は沖田を悩ませる。拒めなかった自分が悪いのか・・・。
「大した事じゃねぇって言ったのは旦那だろう?俺もそういうつもりなんだから、もうそれでいいじゃねぇか。お互い楽しんだ、それでお終い」
多少自棄になって吐き出した言葉だったが、銀時の眉が上がったのを見て、沖田はしまったと思った。
「・・・最初はそうだったんだけどね。でもそんな慣れたような言い方されてムカつくのは、やっぱそれじゃ済まないからだと思うんだよ。てか、やっぱ慣れてんの?」
「・・・・・」
「やっぱ土方か?」
沖田は何も答えられなかった。否定も肯定も意味がないように思えた。
「アンタにゃ関係ねぇだろ」
そうして、一番拙い言葉を口にしてしまった。
「―――これはさぁ、もう勝負事なの。分かる?俺とお前か、俺と土方か。とにかくもう、負けられねぇ」
「俺が相手なら、もう勝負はついてるよ。・・・俺の負けでさぁ」
「じゃあ、土方とは?どっちだ?」
沖田は視線を外すと唇を噛んだ。
どうしてもその話題から反れてはくれないらしい。
「・・・あの人はもう、関係ねぇから・・・。旦那の不戦勝ってとこか」
「―――今は関係ない?じゃ、前は関係あったってことね」
沖田は観念して頷いた。
「・・・アンタと同じだよ。酔ってここに入って来て、誰と間違えたのか、たまってたのかしらねぇが。ヤったよ。でも次の日あの人すごい後悔してたから俺も知らん振りしてまさぁ。それだけだよ。アンタ一人でムキになってるだけだろう?」
そりゃあ、違う。
銀時は口の中で呟いた。
本当に土方が後悔してるなら、本当にそれだけなら銀時はここまで行動することもなかっただろう。
土方が沖田に惚れていて、それに嫉妬した自分に気付いてしまったのだ。
それだけなのだ。
相手が悪かったかもしれない。土方という男にだけは負けられない。負けたくないという子供じみた敵対心が頭を擡げる。
目の前で沖田を奪ってやれたらどんなに快感だろう。そんな思惑すら持つ。
「これで全部話しましたよ。もういいでしょう?」
疲れたように沖田は言った。
「ばか。終わりじゃねぇよ。始まりだよ」
銀時はそう言うと、驚いている沖田を押し倒した。


勝負は今、はっきりと始まった。

銀時は口元に笑みを浮かべた。









・・・続く?


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ああ、あかん。文が思うように書けない。何時もだけど。何時もだから・・・っ!!
(苦悶)


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