祝福






視線を感じて振り返ると、真剣な眼差しと出会った。
沖田は一瞬言葉を失い、その目を見つめ返した。
それが何を意味するのか。
知りたい。
知りたくない。
まさか。自分勝手な思い込みだ。
彼は嫌と言うほど女に好かれる。そしてまた、その噂も絶えない。
あの人に限って絶対にそんな事はない。
言い聞かせるように呟いた。
―――――けれど、もしもそうだったら・・・?
自分から逸らした視線を、もう一度彼に向ける。
何事もなかったかのように他の人間と話しをする土方を見つめた。
そして、自身に問い掛ける。
そうだったら、俺はどうするのだろう・・・。





その日、仕事を終えて屯所に戻った沖田は土方からの呼び出しを受けた。
わざわざ手紙で、これから指定の場所に来て欲しいとのこと。あくまで私用の為他言は無用、とまで書かれている。
沖田は妙な胸騒ぎを感じた。
その場所とは遊郭などがある花街だったからだ。
正直行くのが怖いと思ったが、無視する事も出来ず、沖田は仕方なく屯所を出た。


遊郭の一つであるその店を見つけ、自分の名前を告げると部屋に通された。
「早かったわね」
沖田を見てそう言ったのは、どう見てもこの店の従業員。つまり、遊女だった。
「ごめんなさいね、呼び出しのは私」
化粧は厚いが、美人だ。気の強そうな目元に、赤い唇。
彼女の隣で顔を背けたまま顔を上げようともしない土方を、沖田は見た。
「・・・何の用でィ?」
「ずっと店に来ないこの人を、私が呼び止めたの」
土方に向かって言ったのに、女が口を開いた。
「どうして来ないのかって問い詰めたら、どうやら好きな相手に操を立ててるらしいじゃない?」
女はそこで声を立てて笑った。
沖田はむっとした。何一つとして笑えない。そもそも最初から、この女の存在自体が不快だった。
「相手は誰かって問い詰めて、アンタに行き着いたってワケ」
「―――――え?」
沖田は思いがけない話の内容に耳を疑った。
「土方さんが・・・、そう言ったのかィ?」
「違うわよ。言うワケないでしょ、この男が。でも真撰組の人達から聞いてアンタしかいないなって思ったの。この人も否定しないしね」
「―――――」
周りから見てそう見えた?土方が自分を好きだと?
沖田は改めて、土方をまじまじと見つめた。
先程から一言も発さない彼は、思い詰めているようにずっと難しい顔をしている。
「・・・で?アンタの用件は何でィ?」
沖田は土方から視線を外すと、女を冷たく見た。
「今ここでこの人を振ってよ。それだけよ」
―――何?
沖田は苛ついた表情の彼女を思い切り睨み付けた。
けれど、その事で余計に彼女は眉を吊り上げた。
「解んない?私はこの人を好きなの。ただの客以上にね。こっちは商売だけの関係で構わないって言ってるのに、それさえもアンタがいたら駄目なのよ。――――それともアンタ、男に抱かれるの平気?」
怒りと共に、呆れが込み上げる。
何故、こんな女に言いたい放題言われなくはならないのか。黙っている土方は何を考えているのか。
「土方さん・・・、アンタはどうなんでィ?何でこんなくだらねぇ事に付き合ってんだ?」
沖田が怒りの滲んだ声で問い掛けると、ようやく土方は顔を上げた。
「・・・くだらねぇか?」
その瞳が、たまに見るあの真剣な眼差しと同じで、沖田は内心動揺した。
「・・・当たり前じゃねぇか。なんでこんな女に好き勝手言わせてんだ?」
「しょうがねぇ。・・・事実だから」
「――――」
沖田は目を瞠った。
―――――もしも、そうだったら・・・?
以前、自分に問い掛けた言葉が頭を過ぎる。
どうすればいいのだろう・・・?
喉も唇も渇いて、言葉を発する事も出来なかった。何一つ思考が働かない。
「好きなんでしょ?」
突然の女の言葉に、びくりと反応してしまった。
「いいのよ、そんな事は。問題はあんたがこの人と寝れるかどうか」
「・・・・?」
何故、それがこの場の一番の問題なのか理解出来ず、沖田は眉を顰めた。
「・・・・わかんないの?あんただって男でしょう?」
女の蔑むようなその言い方、目付きに、自分の頬が熱く紅潮するのが分かった。
「・・・総悟、悪いがこの女の言う通りだ」
立ち尽くすばかりの沖田に、土方は労わるように声を掛けると、その手を取った。
「―――――っ」
そのまま指先に口付けられ、沖田は驚いて手を引こうとしたが、土方は離さない。
上目遣いに沖田を見つめ、ゆっくりと、指に舌を這わせる。
背筋が痺れるような感覚が沖田を襲った。
「・・・寝れるか?俺と」
「――――・・・・っ!」
返事など、返せなかった。
土方の舌が、指に絡まる。まるでそこが性感帯になったように、体全体が痺れた。
「上手いでしょ?」
女の声が聞こえたが、そちらに意識を向けることすら出来ない。
瞼を閉じ、ふとすると洩れそうになる声を、必死で堪えた。
「―――どうしても駄目だったら、何時でも呼んでね」
そう言って、彼女が部屋を出て行くのが分かった。
沖田ははっと目を開いて、彼女の去った方向を見た。
――――――彼女は、本当に土方の事が好きなのだ。
恐らく、本当にただ、土方の想いを叶える為だけに自分を此処に呼んだのだろうと、その時初めて理解した。
そして土方も、そんな彼女を疎んじてはいないのだろうと・・・。
嫉妬に似た想いが湧き上がる。
考え込んでいる沖田の腕を、土方は不意に強く引いた。
「――――あっ、」
「嫌だったら、そう言え」
「―――――・・・」
簡単に明確な答えなどは出て来ない。
けれど、沖田が断れば土方はあの女を抱くのだろう。
それがただの性欲処理であろうと、想像するのも耐えられなかった。
沖田は導かれるまま足を動かし、隣の部屋に足を踏み入れた。
布団が一組枕が二つ、綺麗に敷かれているのが生々しい。
「悪いな。・・・俺も、限界なんだ」
そう言って、土方は沖田の腰を引き寄せた。
「周りから見て分かるほどなんだから、相当なんだろ」
「・・・・・」
気のせいなどではなかった。あの視線の意味は、沖田が想像した通りのものだったのだ。
覚悟を、決めるしかない。
離れたくないのなら、他の人間に渡したくないのなら、今此処で。
「がちがちじゃねぇか」
俯いたままの沖田に、土方が苦笑する。居た堪れない思いで一杯になった。
「・・・・当たり前だろ・・・、こんなの・・・」
もしも自分が女だったら、こんなに身構える事無く素直に甘える事が出来るのだろうか。
何時もの軽口も毒舌も全く出ては来ない。
普段彼とどういう会話をしていたかさえ、分からなくなる。
そんな沖田に、土方はそっと唇を寄せてきた。
髪に、頬に、耳に。そして首筋へゆっくりと、緊張を解すように優しく口付けられる。
唇が重なった時、鼓動が騒ぎ出した。
自分が男でも女でもなく、ただ、土方という人間に愛されるもの、ただそれだけの存在になったような、そんな錯覚に陥る。
心地良かった。
一人の人間に想われるというのは、こんなにも満たされる事なのか。
「土方・・・、さん・・・」
囁くと、その声に反応した様に土方は腕に力を込めた。
着物を一枚ずつ、床に落とされる。
再び、緊張と羞恥が沖田を襲う。
「―――土方、さん・・・っ」
ぎゅっと彼の着物を握ると、土方は思い直したように沖田からその手を離した。
「・・・何か、変だよな。今更なんて・・・」
「・・・・・」
こんな事になって、明日からどんな顔をして土方を見ればいいのか分からない。
元に戻りたいような、それでは物足りないような、はっきりとしない感情に自分で苛々する。
「――――でも俺はずっと前からこうしたかった」
「―――――!?」
言うなり土方は、沖田を抱かかえると布団に横たえた。
残りの着物を剥ぎ取られ、自らの着物も脱ぎ捨てる土方を、目を見開いて見つめた。
何も考える暇もなく、土方の唇が、今度は敏感な部分を狙って吸い付いてくる。
「あっ、」
思わず洩れる声に、恥らう余裕さえない。
指と舌での愛撫が次々と与えられ、沖田は堪らず、甘い声を上げ続けた。
激しいけれど優しく、ゆっくりとした動作だけれど容赦のない愛撫だった。
快感のツボを心得ているのだろう、沖田は土方の動きに為す術もない。
瞬く間に、彼を受け入れる状態に陥っていた。
男とは勿論、女とだって経験がない自分があっけなく身体を開いている。
信じられないが、体の中に入り込んだ土方の指の動きが気持ちよくて、もっと、もっと斯き回して欲しいとさえ思った。
もっと、もっと抱き締めて欲しいと思い、沖田は土方の首に腕を回した。
「総悟・・・!」
夢中で舌を絡め合い、今度は彼自身を受け入れる。
「―――――ん・・・、」
「きつい、か・・・?」
沖田は首を振った。
充分な愛撫のお陰で、それほど辛くはない。けれど、女の身体のようにはいかない。
沖田は初めて、自分が女だったら良かったと、そう思った。
そうしたら、土方は他の誰かを抱かなかったかもしれない。自分だけを愛してくれたかもしれない。
周りの理解も祝福も受けれたかもしれないのだ。
そう考えると、涙が出そうになった。
「・・・総悟・・・?」
そんな沖田の様子に気付いた土方は、ふと動きを止めた。
「―――どうして・・・、わざわざ俺なんか選ばなくても・・・、あんたには他にいくらでも相手がいるじゃねぇか・・・」
我ながら女々しい言葉だと思う。でも、言葉を選ぶ思考の余地はなかった。
「他の誰とも違うんだよ」
そう言って、土方は沖田の茎を強く握った。
「あぁっ!」
「決定的に違うだろ?分かんねぇのか?」
強弱をつけて扱かれた沖田の男の部分が固くなる。
「――――は、ぁ・・・っ」
「お前が、好きだよ」
「――――――」
絶頂に達する瞬間届いたその言葉が、情けないほど悩んでいた沖田を安心させた。
その言葉で、このままでいいのだと、そう思う事が出来た。



考えすぎていた自分が馬鹿みたいだ。
先程の逡巡が嘘の様に、沖田の想いはただ一つに向いていた。
土方が、好きだ。
周りの理解など得られなくても。祝福などなくても。
きっと、彼の想いに気付いた時から・・・、その前からかもしれない。初めなど覚えていないほど、ずっと。
今度またあの女に会えたら――――
もしかしたら、もう少し優しい顔が出来るかもしれない。
土方の腕の中でそんな事を考えながら、沖田は眠りに落ちていった。








翌朝。
屯所に戻った二人を迎えたのは、盛大な祝いで盛り上がった隊士達。
「何があったんだ?」
聞いた二人に、隊士の一人がにやにやと笑いながら言った。
「とぼけちゃって!とうとうヤったんですねっ!!前の土方さんの馴染みの女が今朝来て、言いふらして行きましたよ!!」
「おめでとうございますっ!!!」
「チクショー!副長、羨ましいっす!!」
「―――――は・・・?」
二人は目を瞠った。
何故かその話題で盛り上がっている面々を呆然と見つめる。
「・・・本当に女ってやつは・・・」
呟いた土方を沖田は見上げた。
「男だから・・・、俺にしたのかィ?」
女に飽きて。それとも、ろくな女に会えなかったから男に走ったのか。
「ちげーって。昨日散々教えてやったじゃねぇか」
かぁっと、体が熱くなった。
どちらでもいいのだ。
土方が受け入れたのは間違いなく今の自分だ。


とにもかくにも、その日から二人は正式に真撰組で公認の仲になったのだった。





















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はい、日記で予告した通りの恥さらし駄文です!!
・・・何ですか、このオリキャラもどきは。
実はこんな夢、以前見まして・・・・。
すごく綺麗な女の人にせっつかれて、土方が沖田を口説くの(笑)どんな夢見てるんでしょう、ワタシ。
・・・ネタにしちゃった・・・。(末期症状・・・)
やっぱHが書けないよ〜。誰か書いて〜(涙)
つじつまが合わないし日本語が変だよ〜。誰か合わせて〜。日本語直して〜。
つかもう、そんなんなら書くな!と自分で突っ込んでみたり。
つかもう、言い訳長いし。

そんでもって・・・、激・・・、甘・・・、属性にして・・・、いいですか・・・?