もう一寸



ふらりふらりと気まぐれに現れる

どうやったって、つかめそうもない性格のその人は、

だけどどうやら俺にはそれなりに執着してくれるらしく、

今だって大好きなケーキを、苦渋の表情で、それでも俺に差し出した。

たったそれだけのこと、別に、なにか約束を貰ったわけでも、

君が特別。

といわれたわけでもないのに、俺の心はたったそれだけで躍ることが出来る。

なんてたやすいダンス。

ステップすらろくに踏めないくせに。

「これ、ほんっと美味しいから」

「マジですかィ」

言って、相手がフォークを刺すまでまって、それから自分も一口。

「あ、ほんとだ」

「でしょ?!」

これ、最高だよね〜

と、いつもの死んだ瞳に光がきらりと。

あれ、意外。

俺もこの人も、つかみどころがないなんて、ほかの人には見えるらしいけど、

ほんとはとっても単純な回路でできているのかもしれない。

良いことあった、嬉しいな。

ただそれだけ。

思っているほど、複雑怪奇じゃない俺たちは、ただ「甘い物好き」という

なんとも細い糸でつながれている。

「ここのクリームはほんと、しつこくなく、でもマイルドでねー」

嬉しそうに語るその人に、甘いもの好きといっても、あまけりゃ何でもいい俺は

はぁ、とか、へぇとか繰り返すばかり。

やだな、こんなんじゃつまんないかな?

普段は気にもしないそんなことを考えて、らしくないと一人心の中で笑う。

せめて、せめてどうか、話じゃなくって、俺と居るってことに意味を感じてくれますように。

それが、特別じゃなくたって良いから。

そんなことを思っていたら、不意にじっと見つめられた。

あららァそんな男前な顔してどうしたんでィ?

そう言ってやりたかったのに、俺の口は一寸も動かずじまいで。

「沖田くんってさぁ、甘そう」

「はィ?」

突如言われた言葉に返すものも、どうにもあほらしいものになってしまう。

「なんかさ、こうふわふわっとしててさー。あ、今お前だって髪の毛くりくりだろ?

とか思っただろ?それとこれとはちがうから。俺のはアレだから、

頑固な感じであって、決して綿菓子みたいな可愛さを秘めてないから。

こうみえて凶暴だから」

「や、なにも思ってねぇですから」

ひがいもーそーって、これか。

と、いつだか土方さんの言っていたことを思い出して、心の中で一人うなづく。

「それはともかくとして、なんていうかさーどこっていうか、全体的に甘そうな感じ」

「そうですかィ?」

俺、甘くなんてねぇけど。

冷たそうとは言われても、甘そうだなんて、全然言われたためしがないのに。

「うん」

「甘くないと思いますけどねィ」

否定の言葉を口にすると、すぐさま相手の頭が左右に振られる。

(申し訳ないけど、このとき一寸だけ、ふわふわゆれる有様が綿菓子にみえた)

「いやいや、甘いよ」

「どうですかねィ?」

再度の否定に、なんだか突然真面目な顔で

「銀さんの言うことを信じなさい」

言うが早いか

ぺろり、と、唇の端を舐められた。

「ほら、ね」

や、ほらじゃなくって、それって生クリームがちょこっとついちゃったってだけじゃないの?

とかなんとか、言おうと思えばいえたはずなのに、

俺はまたしても何も言えぬまま。

何時もは武器にしている口が、こんなときばかり怠け者。

「甘い」

にっ、と笑って、残りのケーキの箱を俺のひざに置く。

「銀さんそろそろ行かなきゃだから」

そう言って、またふらふらと歩き出す。

そんなのらりくらりと、した背中に。

あぁ、今日も「また明日」なんて約束はないけれど、

きっと、明日もこうやって。

そんな予感が、胸を掠めた。













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うわぁいv何気にずうずうしくリクしてしまった銀沖だ〜いv
このふらふらとした感じが堪らない銀さんvvvらびゅ〜vv(←変)
我慢して大好きな総悟君にケーキを差し出す所、可愛いですっ!!!


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