月の影





息苦しくて外に出た。
何事もなかったかのような顔をして訪れる沖田。
テレビを見て、神楽と喧嘩をして、せんべいをかじりながらソファで寝てしまった彼の、その寝息が耳について気が散った。
まるであの時の事が嘘のような、何時もの沖田。
やっぱり後悔した。
彼が出入りするのを許した事を。
立ち寄った駄菓子屋であずきのアイスを買って、舐めた。
ぼんやりと空を見上げたところで、見知った黒髪が前を横切る。
「―――――総悟見なかったか」
数歩進んだ所で立ち止まり、土方は銀時を振り返り口を開いた。
「・・・・知らね」
「最近あいつ、見回りの度姿消しやがる。サボってんの見付けたら帰るように言ってくれ」
銀時は手を差し出した。
「依頼?」
土方はむっと顔を顰めつつ、財布を取り出すと数枚の札を銀時の手に握らせた。
「依頼だ。任務だと、伝えてくれ。八時に竹屋だと言えば分かる」
「・・・捕り物でもあんの?」
それには答えず、土方は「頼んだぞ」と念を押してその場を離れた。
「―――――は、美味しい依頼」
呟いて手の中の札を見た銀時は項垂れた。千円札ばかりだ。






「土方君から伝言」
帰り着いた銀時は、出た時の格好のままソファに寝そべる沖田に言った。
「任務だって。竹屋に八時だって」
銀時を見返す瞳から、心なしか力が抜ける。
「―――――・・・あ、そ」
面倒臭い、とぶつぶつ言いながら、沖田は立ち上がると隊服を羽織る。
「・・・危険な任務なのか?」
「・・・いや、全然。・・・つか、最近なかったのになァ・・・」
独り言の様に呟き、沖田はじゃ、と手を上げると玄関を出て行った。
土方と沖田。両方の態度が何故か引っ掛かった。
土方が素直に金を出して銀時に依頼するほどの任務。
気にしない、と自分に言い聞かせながら、銀時は七時を過ぎた頃家を出た。
散歩だから、と誰に対するでもない言い訳をしながら竹屋に向かった。
攘夷志士でも現われるかと思いながらその入り口を見張ったが、訪れるのは幕府の人間だけ。
略装で、しかしえらぶった態度で暖簾をくぐる禿げ上がった男達。
そんな中、場違いな感じで沖田は一人でふらりとやって来た。
言い様のない、嫌な感じがした。
先日感じた嫌な予感が、はっきりと形を持つ気配。
確かめてどうする。
知ってどうする。
自分に問い掛けながら、どうしてもその場を離れる事が出来なかった。
どれだけの間そうしていたのか、銀時は立ち上がると竹屋の入り口まで行ったが、門前払いを食らった。
諦める考えも浮かんだけれど、銀時はそのまま裏口へ回り、塀を乗り越えた。
広い店の中をぐるぐると歩き、沖田の姿を探した。客室の辺りには従業員もいないので、見つからずに済んだ。
個室から洩れる、くすくすと笑う女の声。男達の馬鹿笑い、忍び声。
官僚達の使う密会の為の高級料亭だった。
ここまで知れば充分だ。
戻ろうと心に決めた時、その名前が耳に飛び込んで来た。
―――――沖田、
銀時は息を呑んで振り返った。
――――――幾つになった?
対する沖田の声は何も聞こえない。
真撰組、報酬、などの単語が微かに聞こえるだけで、会話の内容までは分からないが・・・。
「――――――あっ、・・・」
突然聞こえた沖田の濡れたその声に、銀時の身体はびくりと反応した。
―――――――相変わらず、ここが感じるのか。
眩暈がして、立っていられなかった。
それ以上聞いていられず、銀時は走って窓から飛び出した。
塀を乗り越え、暗がりの中走り続け、誰かにぶつかった。
「―――――おい、気をつけ・・・」
「イッテーな・・・」
振り向いた銀時同様、相手が驚いている。
「土方・・・・」
「坂田・・・?」






「―――――で?何処まで知ったんだ?テメー」
何の事かととぼければいいのだと分かっているが、知りたい意志の方が強かった。
「・・・公認の・・・、身売り・・・?」
口にして吐き気がした。
「口外無用だ。忘れろ。話したら斬る」
「―――――は、お前等がこんな事で資金稼ぎしてるとはなぁ。沖田様様ってやつ?」
「・・・そうだ。真撰組はあいつのお陰で持ってるようなもんだ」
「お前、プライドねぇの?こんなんで持ってて嬉しいの?」
畳み掛けるように攻撃する銀時に、土方は顔を強張らせたまま店を睨み続けていた。
「――――――最近はアイツも成長して、こういうの無くなってたんだが・・・、」
まだまだ言ってやるつもりだった銀時は、土方の言葉に黙った。
「仕方ねぇんだ。アイツは・・・、昔から・・・・」
―――――昔から?
苦しみを吐き出すような土方の告白に、銀時は耳を傾けた。


















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捏造駄文!!
訴えないで下さいませー!!(懇願)


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