月の影
幼い頃から沖田が弄ばれてきた事を話した。
ただ、自分が犯した罪にだけは触れる事が出来なかった。
ちらり、と隣の銀時を見ると、彼は黙ったままぼんやりと月を見上げている。
下弦の月だった。
「・・・で、それを俺に話したのはどうして?」
同じ様に月を見上げていると、銀時が口を開いた。
――――――どうして・・・、なのだろう・・・?
自身に問い掛け、思い当たる。
言い訳をしたかっただけなのではないだろうか。
惹き付ける沖田が悪いのだ。
惹かれる方に罪はなく、この状況も沖田が作ったのだ。と。
そんな筈無い事は良く解っている。
沖田は被害者だ。
「――――あいつさぁ、実は毎日俺んとこ来てるんだわ」
「・・・え?」
土方は目を瞠った。
「聞いたからには放っとけねーし、しばらく面倒見てやっから。ま、お前も目ぇつぶって・・・」
そう言って土方を見た銀時は訝しげに眉を寄せた。
「どしたの・・・?」
「面倒見るってどういう事だ?――――まさか、手前も・・・・!」
かぁっと、目の前が赤くなり、土方はほぼ衝動的に銀時の襟刳りを掴んでいた。
「・・・俺も、何?まさか人でなしと同類に思われてんの?」
銀時の言葉に我に返る。
人でなし。
それは自分だ。
「お前にどう思われようと構わねぇけど、来てもいいよってあいつに言っちまったから」
「――――――・・・そうか」
どうしようもない憤りが湧き上がる。
震える手を銀時から引き離し、息を整える。
今、目の前の建物の中で沖田を抱いている男。
沖田が憩いを求める男。
両方、今この場で殺してやりたい。
そして、実現出来ないその欲求は全て沖田にぶつけられる。
疲れて帰ってきた穢れたその身体を、再び執拗に責めた事は何度になるだろう。
いっそ、手の届かない所に連れ去って、沖田を守って欲しい。
欲望に塗れた己から。
土方は銀時を見つめた。
銀時の揺れる髪が、彼の後ろで光る細い月と重なる。
同じ色だ。
そう思った。
「―――――どうした?沖田」
裸の身体に夜風が当たる。
掛けられた声に返事をせず、沖田は布団に仰向けに寝たまま窓から見える月を眺めた。
願いを掛けていた。
何度目になるか解らない、願いを。
銀色に光る細い月が、何故か昔から焦燥感を募らせる。
消え入りそうに儚いそれが、自分の願いと似ているからなのか。
「・・・もう、帰りやす」
むくりと身体を起こすと、相手は頷いた。
「また来週、おいで」
「―――――どうして・・・。まだ、飽きねぇんですか?」
着物を着る手を止めて、沖田は下卑た笑みを浮かべる男を見た。
「飽きる所か・・・。まだまだ客を紹介したいくらいだよ。真撰組を止めても君は充分やっていける」
男娼として。
ぐらり、と目の前が揺れた。
相手をしたのはこの男一人ではない。
やっている事は充分それに値する。
悔しくて、情けなくて涙も言葉も出て来ない。
暖簾をくぐった沖田は、店の前に居る二人に目を見開いた。
土方が迎えに来るのは何時もの事だ。
だが、何故銀時まで居るのか―――――
銀時は何も言わずにこちらを見ていた。何時もと同じ目で。
思わず視線を逸らしたのは沖田だった。
「総悟」
呼ばれて、土方の隣に並んだ。
このまま何時ものように帰り、そしてまた自分は土方に―――――
消えてしまいたい。
そう思った時だった。
「沖田」
優しい声にそっと顔を上げてその主を見上げると、彼は真っ直ぐに沖田を見つめていた。
「ウチ、来る?」
「―――――――・・・」
「おいで」
思わず駆け寄っていた。
隣で土方がどんな表情をしているか分かったが、確かめたくなかった。
「死にそうな顔してんじゃねーか、お前」
くしゃり、と髪を撫でる大きな手。
土方の前でなかったら縋り付いていたかもしれない。
二人の間でどんな会話が交わされていたか知らないが、土方は何も言わない。
「んじゃ、そー言う事で。連れてくから」
銀時の言葉に何の返答も無い。
振り返ると、土方は背を向けていた。
「何時もどおり、明日はオフだ」
「・・・・ああ」
沖田が返事をすると、土方は一度も沖田を見る事無く歩き出した。
続
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また週末来れないので短いけどUPしちゃいました!
続きで頭一杯だ。久々に楽しい。駄文だけど(汗汗)
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