注意*性描写があります。








何時もなら、直ぐに土方に愚痴る。
銀八に聞いてみる。山崎に八つ当たる。
そのどれも出来ない事がこんなに苦しいとは知らなかった。
―――――つか、アイツ。二度もキスしやがって。
全くソノ気もないくせに。散々人をおちょくって馬鹿にして偉そうに説教までしていきやがった。
一晩中考えて、翌日教室で問題のその顔を見た時、心臓が激しく脈打った。
そうだ。復讐だ。
沖田は思った。
こんなに悩ませた罰だ。サボりを邪魔してやる。
が、そのチャンスは中々訪れなかった。
こんなに教室に居る事自体ないくせに、何で今日に限ってそんなに居るのか。
我慢が出来なくなった沖田は放課、自分から高杉の席まで行った。
顔を上げた高杉は面倒臭そうに沖田を見る。
「何か用か?」
「何で今日はサボらねぇんだよ!?煙草吸いたくねぇのか!?」
「・・・吸いてぇよ」
「よぉし。覚えてろィ!今日は徹底的にお前の邪魔してやるからな!今日のお前にまったりはねェ!」
高杉はしばらく黙った後、大袈裟に息を吐き出すと立ち上がり沖田の襟ぐりを掴んだ。
「ガキ、ちょっと来い」
「・・・っ、またガキって言いやがったなァ!!」
騒ぐ沖田を引き摺って、高杉が向かった先は体育倉庫だった。
「・・・お前、今日の伊東見たか?」
「・・・ん?いや、見てねェ。ああ、そっか。悔しそうな顔してたかィ?」
高杉は再び溜息を吐いた。
「豪胆なんだか、無神経なんだか。狙われてんの自分だって自覚あるか?」
「―――――何、そんなマジな話なのか・・・?」
「・・・・忠告はしたからな。自分の身は自分で守れよ」
高杉はそう言うと、話は終わりだとでも言うように煙草に火を点けた。
――――――何だ、それ?
言いたい事だけ言って、自分のペースに戻ってしまった高杉を、沖田は呆然と見つめた。
復讐の事など頭から消えていた。
「・・・何・・・、それ。まさか、今日お前サボってなかったのって・・・」
―――――――伊東を見張る為・・・?
それはつまり、沖田の事を守る為。
「余計に刺激したのは俺だからな」
呟いた高杉に、沖田の鼓動が早くなる。
「・・・お前は俺を、好きじゃないよな・・・?」
「・・・・・」
高杉は横を向いたまま、視線だけこちらに向けた。
「俺が誰かの物になっちまったら、アイツ諦めるかな・・・?」
「―――――まぁ、価値は下がるだろうな」
「・・・・だったら・・・、」
嫌な汗が一気に吹き出てくる。身体は熱いのに冷たいそれ。
「だったら、お前がいい」
「――――――」
「俺に二回もキスしたんだ。男相手でも構わねぇよな?できるんだろ?」
捲くし立てるように話す沖田を、高杉は冷静に見ている。
「お前、言ってる意味解ってんのか?」
「解ってるに決まってんだろィ!?女だったら付き合うフリとかしてもらうだろうけど、そんなの通用しねぇし、それこそ女じゃねぇから大事にとっとくモンでもねぇし。・・・・それに・・・、それにお前だったら何があっても変わらないだろ・・・?」
沈黙がその場を支配したのは数秒。
「――――誘われてやる」
高杉はそう言うと、煙草を揉み消した。
「来い」
差し出された手に、沖田は恐る恐る近付いた。
大丈夫。―――――平気だ。
傍に寄った途端、有無を言わせず腕を引かれ、唇を塞がれる。
二度のキスなど比較にならない程深く合わさり、口内に侵入してきた高杉の舌が思考までも掻き乱す。
強い煙草の香りに眩暈がした。
「―――――はっ、・・・ぁ・・・、」
苦しくて、知らず声が漏れる。
「ここまでしても、アイツが諦めなかったらどうする?」
「・・・・・、・・・・」
意地悪く聞いてくる声に、最早返事も出来ない状態に陥っていた。
引き千切るように外された制服のボタン。
性感帯を探すように肌を弄る手、指。
こんなに簡単に翻弄されるなど、沖田は思ってもいなかった。正直少しだけ目を瞑っていれば終わるなどと考えていた。
「・・・もしかしたら、更に上がるんじゃねぇか・・・?」
首筋に囁かれ、身体が激しく震える。
「・・・な、にが・・・」
「お前の価値だよ」
「――――――あっ、」
胸の突起に軽く歯を立て、更に舌で転がされると押さえ切れなくて声が上がった。
「――――高・・・、や・・・っ、ソコ、やだ・・・っ」
拒否すればするほど、執拗に責められる。
外に聞こえるとか、見つかるとかいう概念すら薄れ、声を上げ続ける自分に恐怖を覚える。
まだ下半身に触れられてもいないのに、激しい疲労感が沖田を襲った。
「・・・すげぇ、敏感な身体・・・。男に襲われるのも当たり前だ」
「・・・・・っ」
羞恥に顔が赤くなったのも束の間、我を取り戻す前に高杉の手がズボンに伸びる。
「・・・・やめっ・・・!見るな・・・っ!」
「無茶言うな」
容赦なく剥かれた下半身に、高杉は躊躇する事なく顔を寄せ、形を変えた沖田自身を口に含んだ。
「――――――っ」
悲鳴が洩れそうになるのを、必死に手で塞いで堪えた。
足の内側と外側を辿る指の動きだけで達しそうになる。
「も・・・、限界・・・」
「遠慮すんな。・・・達け」
それが合図の様に、沖田は身体を激しく震わせた。
「・・・は、――――――、」
どくん、どくんと精が迸る度震え、頭の中が真っ白になる。
「お前、自分でもあんま弄った事ねぇだろ?」
「・・・・・」
沖田は薄く瞼を開けて高杉を見上げた。
必死に目を閉じていたので、彼がどんな顔をしていたのかもまるで分かってはいなかった。
欲に駆られた男の目をまともに見て、本当の恐怖を感じる。
「――――――あ、やだ・・・、」
高杉がふ、と笑う。
それが嘲笑に見えて、怖い、と思った。
自分の浅はかさを呪い、本当に彼の言う通り自分は子供なのだと理解する。
足の間で蠢く指の動きに身体を固くして、遅すぎる抵抗をした。
水音が聞こえてくるのが信じられない。自分の身体から発される音だとは思えない。
「・・・怖く、ねぇから・・・、目ぇ閉じてろ」
「・・・―――――」
ふと、恐怖と共に力が抜ける。
それを狙っていたかのように、彼が身体の内部に侵入してくる。
「――――――っ、・・・っ」
ぎゅっと瞼を閉じ、唇を噛み締めた。
揺さ振られる感覚に、随分耐えたかのように思えた。
沖田が目をそっと開いたのは、高杉の唇が頬に触れたからだった。
「・・・お、終わった・・・?」
まだ震えている唇で訊ねると、高杉はまた笑った。
「そんなに怖かったのか?気持ち良かっただろ?」
「・・・・・」
それは両方半々の感情で。複雑な表情を浮かべたまま、沖田は身体を起こした。
「イッ・・・って」
身体のあちこちが。特に繋がった部分が痛んで顔を顰める。
「あんま手加減できなくて悪かったな」
「ん。・・・いいよ。・・・何か少し、すっきりした」
「少し?あんだけ出しといてか」
「・・・っ!ちげー。気持ちがだよ!」
これがやりたくて男達は必死になるのか。
自分もその部類の筈なのに、それが哀れで滑稽に思える。
「俺、あんま性欲ねぇみてぇだ」
「そんな面してるよ」
「・・・・・」
子供、という事だろうか?
「まぁ、お互い一生に一度の経験だ。割りに俺も良かったぜ」
「・・・・・・」
煙草に火を点けて言う高杉に、何故か胸がずきりと痛んだ。
何も変わらない態度なのに。それを望んだのは自分なのに。
「・・・悪かったな、こんなんに付き合せて」
急にその場から逃げ出したくて仕方ない衝動に駆られる。
「沖田?」
「悪いけど、ホモの汚名被ってもらうぜィ」
「ああ。・・・って、お前怒ってんのか?」
怒ってなどいない。むしろ怒っていいのは彼の方だろう。
沖田は立ち上がると、足早に体育倉庫を後にした。







高杉とやった。
そう告げた時の伊東の顔は呆気に取られたものだった。
好きなのか?
訊ねられ、頷いた時にまた胸が痛んだ。
馬鹿馬鹿しい、と伊東は顔を顰めたまま沖田に背を向けた。
悔しいと言うよりも興味を削がれた風な伊東の態度にほっとしつつ、これの為に自分はあんな事をしたのか。と、悲しくなる。
そのまま、沖田は銀八のいる教室に向かった。
「先生、俺、こないだ嘘言いやした」
「え・・・?」
銀八は目を見開いて沖田を見た。
「・・・俺、好きな人いやす」
「―――――・・・そうなんだ」
「高杉です。・・・これで、合格点もらえやすかねィ?」
「・・・そっか。・・・そんで、片思いなワケ?」
「――――――・・・」
銀八の顔が痛々しいものを見るように歪むのを見た。
自分は今どんな表情をしているのだろう?
「ごめんね。沖田君が今の自分の立場を理解出来るように難題押し付けたんだよ」
「・・・・何で、謝るんだよ・・・」
「・・・ごめん」
「―――――別に・・・!片思いなんかじゃねぇよ。元々誰かを好きになる位で変わる奴は嫌だったし、変わんねぇからアイツを選んだんだし・・・!」
一生に一度。
高杉の言った言葉を思い出した。
二度と沖田とそういう事をするつもりはない、という言葉。
それに傷付く自分はああする事で彼に何を期待したのだろう。
――――――何かが変わったのは自分かもしれない。
それはあまりに衝撃で。
銀八の手が伸びて、呆然とする沖田の頭を撫でた。
「よしよし」
同じ事を高杉にされたのを思い出した。
「知らなかった・・・。俺って女々しい奴だったんだ・・・」
「誰かを好きになるってそういう事なんじゃないの?」
何時の間にだろう・・・。
「悪かったな、センセ。情けないとかウザいとか死ねとか思ってよ」
「・・・そんなコト思ってたワケね」
笑う銀八に、沖田はほっと息を吐き出した。





校門の手前で土方の背を見つけた沖田は駆け寄った。
彼にも謝らなければならない。
「―――――土方さん!」
振り向いた土方は沖田を見て顔を強張らせた。
「・・・総悟・・・」
「俺、アンタに嘘吐いた。謝るよ」
「・・・高杉・・・、か・・・?」
驚いた沖田は次の瞬間納得した。
伊東だ。
腹いせに言い触らすくらいはしかねない。
「うん・・・。散々アンタを傷付けてたって、今頃解ったよ」
「―――――気持ち悪ぃな」
僅かに目を見開き、土方は笑った。
久し振りに見る、彼らしい笑いだった。
それにつられて、沖田も笑った。
「ようやく俺もせーしゅんってヤツでさァ」
「遅ぇよ」
肩を並べて歩くのも久し振りだった。元には戻れなくても、こうして笑い合う事は出来る。
校門を出た所で、不意に誰かが沖田の肩を掴んだ。
「―――――高杉・・・!」
「話がある。来い」
強引に腕を引っ張られ、沖田は焦った。彼が向かう先は――――
「やめろよ!今日はもう、アソコ行きたくねェ!」
あまりに生々しい記憶が蘇る。高杉の顔を見るだけで煩い心臓が、あの場所で二人きりになったら耐えられないかもしれない。
「・・・何だ、もう思い出したくもねぇのか」
「・・・・・」
「どんなもんか試したから解ったっつーのか?それで今度は誰とヤるつもりなんだ?土方か?」
「・・・何、言ってんでィ・・・?」
明らかに、余裕のある何時もの高杉ではない。
「吹っ切れたみてぇに誰にでも愛想振り撒きやがって。アイツら皆お前狙ってるっての忘れたのか?」
「・・・ちげーよ。あの人達はもう、んな事しねぇよ。・・・ちゃんと、解ってくれた」
「馬鹿か。騙されやがって。何の成長もしてねぇじゃねぇか」
怒りよりも、戸惑いの方が大きい。
彼が心配してくれているのは解るのだが。
「つか、どーしたの?やっぱホモだって広められて怒ってんのかィ?」
「怒ってねぇ」
「・・・そうかィ」
これ以上彼の神経を逆撫でしないよう、沖田は黙った。
そう。高杉は困っている沖田を放っておけないのだ。それだけだ。
「変わるなって言ったのはお前だろう?・・・どうして、お前は変わる?」
沖田は目を瞠った。
「―――――俺?か、変わったか?」
確かに、銀八と話してから気持ちは驚くほど軽くなった。
でも、違う事で悩んでいるのに変わりはない。
変わったといえば悩みの種類だろう。
「俺ァ、偏見だらけのガキだったって、ようやく解ったんでさァ。・・・情けねぇけど、高杉の言う通りだ」
「・・・何が解ったって言うんだ。お前は何も解っちゃいねぇよ」
「あのさァ、だから何怒ってんでィ?喧嘩売っても今の俺ァ、買わねぇよ?」
「男追っ払うつもりが、逆に厄介なの引っ掛けたって知ってるのか?」
沖田はぎくりと、高杉を見た。
「何それ・・・。マジで?誰?」
「俺だよ」
「―――――――」
「厄介だろ?」
にやりと笑う高杉に、沖田は何も言えずにその場に立ち尽くした。
―――――また、冗談だとか。
有り得そうで怖くて二の句が告げない。
「諦めろ。どっちみちお前はそういう運命だ」
「―――――や・・・、うん・・・」
昼間の事を思い出したり、今の高杉の科白を思い返したりで。
心臓は煩いし、顔は熱いし、でも思考は何も動かず。
「・・・沖田?」
何をどう言葉にしていいのか解らず。
そんな沖田の様子を見て、高杉は視線を逸らした。
「後悔したって遅ぇからな」
「・・・・・てない」
彼の視線がもう一度戻ってくる。
「後悔、・・・・してねェ」
今なら解る。
自分の事を見ているのかいないのか解らない彼を、はっきりと振り向かせたかったのだ。
それを、身体を投げ出して確かめたのだ。
後悔はたった今消えた。
「一生に一度じゃねぇよな・・・?卒業しても・・・、会えるよな・・・?」
「・・・お前が嫌だっつっても」
そう言って高杉は以前と変わらない笑みを見せた。




















******

全てを消してしまいたい衝動に駆られたが、鈴華は思い切って上げる事にした。
後悔がこの先に待っているのを十分知っているのに・・・。

・・・・はい!引き続き別人でお送り致しましたぁ!!(ヤケ)

戻る