「――――――や・・・、だ・・・っ」

「何が嫌?・・・センセーと離れるコト?」

「・・・あっ、ちょっ・・・」

唇を割って侵入してくる、ぬるりとした感触。

しっかりと腰を支えていた手は次第に服の中に。上へと這い上がってくる。

「やっ・・・、セン、セ・・・っ」

「やっ、て言われたら、傷つくなぁ。・・・俺の事そんなに嫌?」

沖田は力の抜けた腕を上げて銀八の後頭部に振り下ろした。

「―――――痛っ!」

「何考えてんでィ!?場所だよ、場所!!時と場所弁えてサカれよ!!」

「・・・場所って・・・」

放課後の教室。

「どこがダメ?」

首を傾げる銀八に、もう一発くらわせようかと腕を上げる。今度は力を込めて。

「―――――待った。だって、大丈夫じゃん。誰もいないし、こないだもしたじゃん」

「明らかに今のはアレ以上する気満々じゃねーか!?こんなトコで脱がされんの真っ平でィ!」

「大丈夫、だいじょーぶ。全部脱がさないから」

空で止まっていた腕を思い切り脳天目掛けて降り下ろした。

「イテ――――って!!」

「すッげー早まった気がする。このエロ先公」

「だってー。らぶらぶん時はしょーがねーじゃん。授業中でもちゅーしたいくらいだよ?」

「―――――誰と誰が・・・っ!気色悪ぃコト言ってんじゃねぇよ!」

「往生際悪いねぇ。素直に今の状況受け入れなさい」

「・・・・・・」

沖田は大袈裟に溜息を吐き出した。

認めたくないワケではない。

銀八の様に照れの一つもなく、男同士の関係を受け入れられないだけだ。

既にそういう関係で、銀八がいない生活は考えられないくらいで、今更なのは充分承知だ。

「・・・もう部屋、決まった?」

不意に銀八が聞いてきた。今までの雰囲気などお構いナシの発言。沖田があまり触れられたくない話題。

来月ぎりぎりで受かった大学に入る為、いや、それでなくても寮を出なくてはならない。

寮の人間一人一人、着実に行き先を決めている中、沖田はどうしても踏ん切りが付かないままでいる。

「・・・一人暮らしって金掛かんだよなァ」

「ん・・・」

「やっぱ、アンタの言う事聞いて受験なんかしねぇで働けば良かった」

「だからー。お前の為だって言ってんでしょーが。楽して金もらうには学歴よ」

「何その教育ママ的発言。ウザ」

どくん、と心臓が音を立てる。

ずっと言いたくて。でも怖くて口に出来ないでいた。

でも今を逃すと更に言えなくなる。

「・・・先生・・・、俺・・・」

かーっと顔が熱くなる。心臓が口から飛び出そうとは正にこの状態。

「・・・その・・・、俺・・・」

「おヨメに来る?」

「――――――」

見透かされたようで、一瞬呼吸を忘れた。

「いーよ。金の為でも何でも。ホントは俺も言おうか迷ってたんだけど・・・」

「―――――や、違・・・っ!」

「違うの?」

「違・・・、くない・・・、けど・・・」

ヨメじゃない。

じゃなくて。金の為じゃない。つか、そんな切り出し方をした自分が悪いのだけど。

みっともなくうろたえる自分が情けなくなる。

気持ちを素直に口に出すなんて事は生まれてこの方した事がないので、途端にどうしていいか解らなくなった。

「沖田君ー?どしたぁ?」

「――――も、いいです。何でもないです」

「何でもないワケないでしょ?ルームシェアする?って聞いてんの」

顔を上げると真面目な顔で銀八が見つめ返してくる。

ふざけないできちんと話し合おうとする時の顔だ。

「ま、真剣な話。相手が俺じゃなくてもそうした方が利口だって思うワケよ」

「・・・・・」

「でも相手が俺じゃなきゃ嫌だけどね。沖田君がそんな同棲みたいの嫌だって言えばそれまでだけど」

「・・・・・・」

再び、顔が赤くなるのが分かった。

どうしてこの人は臆面もなくそういう事が言えるのだろうか?

自分は何も言えないのに。

ごめん。も。

好きだ。も。

ありがとう。も。

こくり、と頷いて銀八の白衣の裾を掴むだけしか出来なかった。

「――――・・・一緒に住む?」

もう一度頷いた沖田はまともに銀八の顔を見る事も出来ない。

そんな沖田を、銀八は思い切り抱き締めてきた。

「―――――ああ!もう!ムラムラさせやがって!言っとくけど、俺をこんな節操ない奴にしてんのお前だからな!」

自分が男である事に抵抗を感じるクセに。

男らしくなく、銀八に全て任せている。

言いたい事を口にしなくても、この人だけは全部解ってくれるから――――・・・。

沖田は手を伸ばすと銀八の頬に触れ、その唇に口付けた。

「・・・も、暗いから・・・」

「沖田・・・?」

「誰にも見えないから・・・」

そう言って制服のボタンを自分から外す。

「沖田―――――」

最早人の気配のしない校内。

教室の中、暗闇の中で銀八と繋がった。








「学校でできんの後少しじゃん?明日は階段の踊り場とか――――・・・」

早速沖田は再び後悔の念が襲ってくるのを感じていた。






















*****
久々の一気書き・・・。