雪の降る日に 2




寒い、静かな夜には必ず居る。
分かっていて、土方は其処へ向かう。
今夜も殊更に寒さが身に染みて、風に乗って白い物が空を舞う。
再び訪れようとしている静寂に、自然と溜息が出た。
けれど、行かなければいけない。
邪魔者が居る沖田の部屋に。



「ほらね、また来た」
土方の顔を見た途端、山崎は顔を顰めた。
「―――そりゃ、こっちのセリフだっ!!」
負けずに土方は怒鳴り返し、何時もと同じ様にコタツに足を入れた。
沖田はそんな二人に特に興味もないのか、「狭ェ」と呟きながらテレビを眺めている。
当の本人が何時もこんな風なので、土方もあれ以来手が出せないでいた。勿論、山崎という邪魔者のせいもあったが・・・。
寒い日は続くが、ちらりと、春が近付いている気配もする。
土方はそれに焦りを感じていた。
暖かくなって、この静けさも過ぎ去ったら、沖田は平気で土方と山崎をこの部屋から追い出すのだろう。
また、一人で平気な顔をして次の季節を迎えるのだろう。
それを想像すると、憤りが湧き上がる。けれどそれも、どこまでも自分勝手な言い分。
自分はただ、彼の弱味に付け込もうとしているだけかもしれない。
土方はそう思うと、急に自分を情けなく感じた。
コタツの下から手を差し入れて、触れた沖田の手を握る。
ぴくりと、その手は小さく動いて、後はそのまま。握り返すでも、振り解くわけでもない。
生殺しだな・・・。
そう思う。
山崎は一体どう思っているのか。
幸せそうにお茶を飲むその姿は何も考えていないとしか思えないが。
「やっぱ、どう考えても邪魔だよ、お前」
土方は八つ当たり気味に山崎を睨んだ。
「それは土方さんですよ」
しれっと山崎はそれをかわす。
「なあ、総悟もそう思うだろ?」
「うるせェアンタが一番邪魔に決まってんじゃねぇか」
「・・・・・」
土方は項垂れた。
癪だが正直ヘコんで、土方は自分の部屋に戻ろうと腰を上げようとした。
その時、僅かに沖田の手が土方の手を握り返してきた。
「何処行くんでィ?」
「――――・・・」
本当に、沖田が何を考えているのか分からない。
再び腰を落ち着けると、土方は沖田に用意された湯呑みに手を伸ばした。
傍に居て欲しいけど、恋人にはならない。
そんな所だろうか。
冷めかけのお茶を飲みながら、土方は小さく息を吐き出した。
「いっそよぉ、どっか遠くにでも行けば諦めもつくとか思わねぇか?」
「それはいい考えですね。いっそ蝦夷とか、宇宙辺りに出張なんていかがです?副長」
山崎が食いついてくる。
「行くの俺かよ。・・・つか、そんでもいいかもな」
半ば本気で呟いた時、沖田がテレビから目を離し、土方を睨んできた。
「――――何言ってんでィ」
「何かもう、実はこういうの疲れんだよな」
「そんなもんは年のせいだろ。行きてぇならどこでも行けよ。あの世とかあの世とかあの世とか!」
めずらしくムキになって言う沖田に土方は目を見開いた。
握っていた手が上下に動いて、土方の手を離そうとしている。
思わず強く握り返し、引っ張ると、コタツががたん、と揺れた。湯呑みが音を立てて転がる。
「――――何、してんすか?二人とも・・・」
山崎がようやく、二人の手が見えない所で繋がれていた事実に気付いた。
「・・・沖田さん、どうしてそんな事許すんですか?・・・・土方さんの事が、好きなんですか・・・?」
「――――・・・」
沖田は黙って、顔色の変わった山崎を見返した。
土方も、そんな山崎を見つめる。すると、不意に笑いが込み上げてきた。
「・・・なんだ、綺麗事ばかり言いやがって。手前もやっぱり俺と一緒じゃねぇか」
「――――何が・・・」
険しい瞳が土方を捕らえた。
「誤解すんな、責めてるわけじゃねぇよ。それが普通だっつってんだ」
「・・・そうですよ・・・。傍に居るだけでいいけど、でもやっぱり沖田さんが他の人と一緒に居る所は見たくない!」
いいんじゃねぇか?
土方は呟いた。
これでようやく、一人だけ感じていた後ろめたい気持ちも消える。
「・・・で?結局お前はどうなんだ?」
今度は、この状況でも表情を変えない沖田を見た。
「俺ぁ、お前がこいつがいいってのに、迫ったりしねぇよ」
「・・・・・」
「その程度には、お前の事を考えてる」
「嘘くせぇ」
沖田は僅かに頬を染めて顔を背けた。
「・・・やだ。どっちを選んでもどっちかはこっからいなくなるんだろ?・・・そんなのは、嫌だ」
「・・・総悟・・・」
「沖田さん・・・」
沖田は驚いた表情の二人から顔を背けたまま、がらりと障子を開けた。
途端、冷たい風と雪が舞い込んでくる。
「二人ともここで凍え死ねっ!」
捨てゼリフを残して、沖田は徐に部屋を出て行った。
「・・・何アレ?照れてんのか?」
「・・・・・・」
山崎はふぅ、と息を吐き出した。その暗い様子に、土方は口を開いた。
「まあ、なんつーか、どっちも大事?みたいな?そんなに落ち込むな。てか、何で俺が慰めなきゃなんねぇんだよ」
「・・・でも、俺、知ってるんです」
沖田の足音が聞こえなくなったのを見計らい、山崎はぽつりと言った。
「・・・俺が触れようとすると、沖田さんは何時も上手く逃げるんです」
「・・・・・・」
その言葉に、心臓が音を立てるのを感じた。
けれど、何故か素直に喜べない。
「でも、傍に居れればいいっていうの、本当なんですよ・・・」
「――――ああ、解ってる。・・・悪かった」
綺麗事の何が悪いのか。そう思うことで守る恋心もあるのだ。
それはこの白い結晶の様に儚く、美しいものではないだろうか。

季節が変わっても、沖田は二人を追い出さない。
同じように大切に思われ、けれど立場の違ってしまった土方と山崎を。

――――でも、明日には・・・。
春が来る前には沖田を抱き締めよう。そして口付けを。
土方はそう心に決めて、舞い続ける雪を見つめた。
















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ほんっとに!!キャラが動いてくれないっ!!
ヘタしたら全員諦めて、はい、解散。的雰囲気になるのを懸命に堪えました。
くぅぅぅ。(泣)またしてもこんなんで・・・っ!!
「自信持って下さい」という、有り難いお言葉を頂いたのですが、何時になったら自信って付くのでしょう?
でも、すごく嬉しいお言葉でしたv

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