夢のおわり







「一回でいいから、ヤらせてくだせェ」
土方の部屋、布団の中。
裸の沖田は土方の隣で唇を尖らせた。
「・・・・まだ言ってんのか、手前は」
土方は呆れた溜息と共に煙を吐き出した。
「どんなもんか気になるんでさァ。・・・やっぱ、俺も男だし」
「しつけー。どんだけ夢良かったんだよ?男になりてぇなら花街行ってこいや」
「・・・・商売女抱けってのか?」
「筆下ろしはそっちのがぜってぇいいって」
沖田はむっと口を閉じて、僅かに顔を赤くした。
童貞だと断定されて気に触ったらしいが、事実なのだから仕方ない。
「俺ァ、アンタを喘がせてぇんです」
土方はぶっ、と煙草を吹き出した。
「止めろ!マジでヤメテ!!想像するのもおぞましいわ!つかもう、そんな俺お前の記憶から消して!!」
「あんなにカワイかったのに・・・」
「テメー!気絶させるぞ、この野郎!」
勿論、冗談ではない。時々本当に気を失うほど責められる沖田は黙って首を竦めた。
一度関係を持ってしまえば、二度目三度目は簡単だった。
視線を合わせてそういう空気が流れれば、どちらからともなく部屋を訪れ、自然の様に抱き合った。
でもやはり、最初の体勢は崩れない。土方が上で沖田が下。
経験が物を言っているせいもある。
「あ・・・、山崎。山崎にしよう」
沖田は不意にいい事を思いついたかの様に呟いた。
「・・・何がザキだ?」
「あいつなら俺にもヤれる気がしやせんかィ?」
「――――――」
土方は思わず言葉を失った。
「つか・・・、何で男限定?」
「だって、多分俺男の方がいい人種だと思うんでさァ。じゃなきゃ、男とヤる夢なんか見ねぇでしょう?」
それを言うなら土方もそうだ。
でも決して男なら誰でも良くはない。
「山崎は駄目だ」
はっきりそう言うと、沖田は少しだけ目を見開いた。
「・・・じゃ・・・、近藤さん」
「無理だろ。あの人は絶対お前抱かねぇ」
「じゃ、原田」
「駄目だ」
「じゃ、旦那」
「お前、絶対逆にヤられる。無理。お前に男は無理」
沖田ががばっと身体を起こすと、土方に馬乗りになった。
「何で女は良くって男は駄目なんでィ!?」
「・・・・俺は、商売女ならいいって言ったんだ」
「違いが分かんねェ」
全く違う。
土方はこっそりと溜息を吐いた。
本気になったりなられたり。そんな相手は駄目だ。
けれど、相手が商売でも間違えて本気になり得る場合もある。
やっぱり、相手が誰でも駄目だ。
「―――――分かったよ。ただし、一回だけ」
「・・・マジで?」
しぶしぶ頷いた土方に、沖田は目を瞠った。
「初めてだからっていい加減にすんなよ?ちゃんと俺がしてやってるよーにやれよ?」
「―――――・・・うん・・・」
急に沖田の顔が緊張したように引き締まる。
上からそっと唇を被せてくる表情に、土方は思わず見惚れた。
長い睫毛。色素の薄い髪、産毛、そして瞳。
最初はそんな気などなかったのに、今では独占欲さえ生まれる始末だ。
土方の真似をして舌を絡めてくる沖田に、思わず笑いたくなった。
自分との行為を思い出しながらされてると思うと感じる所ではなく、むしろ身体は冷めてしまう。しかし、心の方は反比例する様に昂ぶっている。
首筋を這う舌が胸に移動した所で、土方は溜まらず声を上げた。
「くすぐってぇ!我慢してんのに笑っちまうじゃねぇか!」
沖田は顔を上げて土方を見た。
「・・・えー。だって・・・、ココ、気持ちいいじゃねぇか」
それはお前だからだろ。つか、拙いんだろ。
「も、ここはいいから。下やれ、下」
沖田は不満げに顔を顰めた。
「何か面倒臭ぇな、男って」
「だろ?お前は黙って俺にヤられてりゃいいんだよ」
土方の言葉に、沖田は再び気を取り直して土方の下半身に顔を近付けた。
萎えたままの茎に手を添え、そっと舌で辿る。
「・・・なぁ総悟、そんなに女役嫌か?」
「・・・・・」
答えず、沖田は懸命に舌を動かしている。
割れ目に、筋に沿って濡れた感触が与えられると、土方は小さくうめいた。
同時に沖田に操られている部分が形を変える。
それにようやく安心したのか、沖田は土方自身を口に含んだ。
――――――つか、ヤられてるってより、ご奉仕されてる気分なんですけど・・・。
土方は沖田を眺めながらそう思った。
やっぱり、どう考えてもこの体勢は沖田には無理だ。似合わない。
性癖だと言うなら、そうなのだろう。
沖田は男しか相手に出来ない性なのかもしれない。
しかし、
「・・・・そんなの、どーでもいいか・・・」
彼の中身が本当はどうだろうと、関係ない。
この先女に目覚めようと知るものか。そんな隙など作らせない。
「総悟、もういい。充分だ」
上半身を起こした土方に、沖田はえ?と顔を上げた。
乱れた息、上気した頬。そこ等の女より余程色気がある。
「―――――え・・・、ちょ、土方さ・・・」
肩に手を掛け、反対に押し倒すと沖田は驚いた声を上げた。
「悪ぃ。やっぱ我慢出来ねぇ」
片足を持ち上げ、沖田の蕾に触れる。
先程一度繋がったせいで、そこはまだ濡れていた。
一気に貫くと、沖田は声を上げた。
紛れもない嬌声だった。
「・・・やっぱ、こっちのがイイんじゃねぇか・・・」
「―――――だ・・・、て・・・」
「何だ?・・・言ってみろ」
腰を打ちつけながら、その首筋に囁く。
「・・・った・・・」
「何?」
「言ったんだ・・・」
―――――――好きだって。
耳を疑った。
「夢の中のアンタは・・・、俺に好きだって・・・・」
本当はしっかり覚えちゃいない。快感の記憶すら曖昧で。
けれど、沖田に抱きついた土方はその言葉をくれた。
ただ、それが欲しかった。
切れ切れに告白した沖田に、その声に、その内容に土方は達った。
「―――――、・・・・んだよ、それ・・・・」
激しい到達感に、どっと疲労が襲う。
心臓が激しく鳴っているのは運動のせいか、動揺のせいか。
沖田の上に倒れ込んだ土方の背に、その手が触れた。
「悪ィ・・・。こんなん言ったら引かれると思って言わなかった」
“ヤらせろ”よりは引かないと思うが。
「馬鹿か、お前」
「・・・・ん、自覚あるよ」
「馬鹿だろ。・・・そんなん、上とか下とか関係ねぇだろ」
「・・・・・」
顔見ながらはまだ少し気恥ずかしい。
けれど、こっちこそ許されるなら言いたいくらいだった。

ようやく、夢から開放される。
互いの願望が現実になる。




「――――――すげ・・・、ほんとに聞けた」


耳元に小さく囁いた土方に、沖田は笑った。
























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「続きが読みたい」と呟いて下さったkanta様のお言葉に、妄想してみました!
んが、・・・何だコレ(汗)
恥の上塗りの上に嫌がらせかと思われそうだ・・・。
もし、もしよろしかったらお受け取り下さいませ〜。kanta様〜(涙)
嫌がらせではないです〜。愛してます〜。



うちの土方、我慢出来ない子ね・・・(こっそりツッコミ)