※表「3Z」18訓の続きとなります。


第十九訓 人の話は最後まで聞きましょう。




顔に笑みを張り付けたたまま、どうしてもその背を追い駆けずにはいられなかった。
初めから分かっているのに諦め切れないのは、感情だから。
そして、その感情がどうしようもないものではなく、奥底に沈めようとすればそうできる事も分かっていた。
恋だけが全てだと思っていた周りが見えない子供ではなくて、それなりに理性と言うものも培われていたから。
「土方を選んだ」
そう彼の口から聞くだけでいい。
ようやく気付いたんだろ?
そして自分は、最初から土方を好きな沖田に横恋慕した。
そういうことだ。
こんなにハマらなければ後悔も少なかったけれど、生まれてしまった感情はどうしようもない。
今、土方にも自分にも必要なのは、彼の決裁だ。期待をここで断ち切って欲しい。
銀八は沖田の肩を引き寄せてその顔を覗き込んだ。
沖田は驚いた瞳で銀八を見上げた。
「・・・何でィ・・・、先生か・・・」
「悲しいの?寂しいの?」
その問い掛けに、沖田は唇を結んで真っ直ぐに銀八を見つめた。
「――――・・・何か先生、笑顔が気持ち悪ィ」
ん?と銀八は自分の頬に手を当てた。
「んぁー・・・。おかしいな、俺」
もしかしたら悲しいのも寂しいのも自分かもしれなかった。
「俺も、おかしい顔してんのかィ?」
銀八を真似て自分の頬に手を当ててみる沖田を見て、笑いが込み上げた。
「してるよ」
「――――じゃあ、そうなんだ、きっと」
「・・・・そうか・・・」
「土方さんに恋人が出来るのは・・・、悲しくて寂しいんだ」
「―――そっか」
銀八は心が急激に冷えていくのを感じた。
あれ?失恋ってこんなに辛いものだったか?
問い掛けてみるが記憶は何も答えてはくれない。
そんな銀八の様子に気付いたのか、沖田は眉を顰めた。
「・・・先生も・・・、悲しくて寂しいのかィ?」
「・・・・・・」
「俺の、せいか・・・?」
「・・・・・・」
沖田は不意に銀八の白衣を両手で掴んだ。
「――――ごめん・・・」
「―――――」
抱き締めずにはいられなかった。
ここで、そんな風に謝られるのは反則だ。許すも許さないも、彼は何も悪い事などしていない。
悪いのは、そんな彼をどうしても離せない自分なのだ。
「先生・・・」
そこで沖田が黙っていてくれたら、僅かでも抵抗を見せてくれたら直ぐにこの手を離せた。
けれど彼は、その細い腕を銀八の背に回した。
体温が上がるのが分かった。
銀八は沖田の腕を掴むと、すぐ傍の教室に連れ込んだ。



そこは科学準備室だった。鍵を閉める音が静まり返った室内に響く。
ガキの様な恋をしているのは立派な大人の自分で、そして相手は正真正銘のガキだった。
ようやく自分の気持ちに気付き始めた沖田に、銀八は薄暗いその教室で口付けた。
それは鬼畜で、野性的な行動だった。
彼は瞼を強く瞑ったまま、しかしおずおずと銀八に応える。
一頻り唇を貪った後、銀八はその瞳を見つめて問い掛けた。
「・・・俺がしようとしてる事、分かる?」
「――――・・・」
沖田は小さく頷いた。
本当に分かってるのか?
銀八は呟いた。その真意までを確かめはしない。
学生服を脱がしTシャツを捲り上げると、沖田は顔を強張らせた。
「・・・・その、マジでここでやんの?」
「うん」
気にしなくてはいけない様々な事も、今の銀八には頭を掠める程度で過ぎていく。
ただ、ゆっくりしている余裕だけはなかった。
「絶対、痛くしねぇから」
そう言うと、沖田は目を閉じて銀八にしがみ付いてきた。




彼はまだ、本当に人を好きになることを分かってはいない。
きっと、この事実はこの先もずっと彼を苦しめる結果となるのだろう。
そして、力ずくで沖田を奪った銀八を、土方もこの先ずっと許す事はないだろう。
夜の闇が迫る室内、銀八は胡座をかいて沖田に背を向けていた。
既に二人とも身支度を整え、行為の跡も綺麗にした後。
次にする事は沖田に口止めして帰す。それがどうしても出来ないでいた。
「――――先生、何考えこんでんの?」
「や・・・」
「後悔すんなら最初から止めとけよ」
「・・・・・」
沖田の言う事は正論だった。反論出来ずに、銀八はがりがりと頭を掻いた。
「・・・で、何をそんなに悩むコトあんですか?」
思った以上にけろっとしている沖田を、銀八は恐る恐る振り返った。
つか、何でお前はそんなに平気そうなんですか?
土方が好きだって気付いたんじゃないんですか?
「―――お前、ガキだし。未成年にこんなコトしちゃったら、大人は後悔するもんです」
「・・・バカにしてんのかィ?」
少しだけ怒ったような表情を浮かべる沖田に、銀八は腹を決める決断をした。
「バカなのは俺だ。ガキだろうが、お前が土方を好きだろうが、俺はお前が好きなんだ。悪いけど譲らねぇ」
「――――やっぱ、バカにしてる」
「してねぇって」
「俺が誰が好きかも分かんねぇでアンタと寝ると思うかィ?」
「・・・・ん・・・・?」
銀八は眉を寄せた。
「この気持ちは誰でもねぇ、アンタが俺に教えてくれたモンなんだよ」
「・・・・・」
沖田の言葉が理解出来ず、銀八は黙ってその顔を見つめた。
「土方さんと一緒に居られなくなるのは寂しい。多分、それは本当だ。・・・でも、アンタに会わなきゃそれにすら気付かず、俺は生きてた。きっと、高杉の事も素通りしてたと思う」
「・・・・・」
「俺ァ、アンタの見てるモンをもっと見たい。もっと色んな事を教えて欲しい。・・・アンタとこうなって、俺は後悔なんて微塵も感じちゃいねぇよ」
黙ったまま、呆然と沖田を見つめ続ける銀八に、沖田は不安そうにその顔を曇らせた。
「おかしいかィ?・・・これを好きって言うんじゃ、ねぇのかィ?」
何も分からない子供などではなかった。自分なりに考え、自分なりの答えをちゃんと彼は出していた。
「――――や。・・・俺、やっぱお前の事、バカにしてたみてぇだな・・・」
それは銀八の予想を見事に裏切ったもので、銀八は自分の早とちりを激しく恥じた。
「でもよ、お前さっき謝ってたじゃん!」
「あれは、俺がアンタを悲しませたからだろ?」
「・・・・紛らわしいんだよ・・・」
呟きながら、安心なのか喜びからなのか、銀八の頬はすっかり緩んだ。
見っとも無いほど、恋の成就に浮かれる自分。それは、大人になった今でも心地良いものだった。
ねえ、ねえ、と沖田に擦り寄る。
「―――もっかいヤっていい?」
「調子に乗んじゃねェ」
抱き付いた銀八に、沖田は拳で応えた。













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“乞うご期待”とか言ってたの誰?アリエナイから。
こんなん・・・、なってしまいました・・・。
地下室なんだからもう少しH頑張ろうかと思ったけど・・・、今の状態では書けない・・・。
スミマセン。