色の魔法






何時の間にかハウルの髪が金色に戻っていた。
ほんの少し前のことなのに何故かソフィ−は懐かしくて堪らない気持ちになった。
最初に会った時、多分あの時一目で恋に落ちていた。
一緒に五月祭りの上を、空を歩いたあの時。
夢のようなあの一時。
「 似会う? 」
ソフィ−の視線に気付いたハウルがにっこりと微笑んで訊ねた。
「 どうして戻したの? 」
「 別に 」
本当に特に理由があるわけでもなさそうなハウルの様子にソフィ−はいつものことだとそれ以上追及するのを止めた。
“ 美しくなければ生きていたって意味がない ”
そう言い切った彼を思い出す。
再びあの傾向に戻ったのかしら。
それだけ平和になったって事ね。
思いなおしてソフィ−は途中だった縫い物の手を動かし始めた。
ふいにハウルの手がソフィ−の髪に触れた。
びくっとハウルを振りかえるソフィ−。
「 ソフィ−はこのままでいいの? 」
星色の髪も素敵だけどさ、と彼は続けた。
「 赤い髪の仔ねずみちゃんも懐かしいよね 」
そう言って短くなったソフィ−の髪先をくるくると玩ぶハウルの細く、先まで整った綺麗な指。
それに見とれながら、ソフィ−は小さく頷いた。
「 懐かしくはないけど・・・、そうね。生まれつきの色だもの 」
嫌いではなかったわ、と呟いた。
「 だろう?じゃあ早速 」
ひょいとソフィ−を抱え上げるとハウルは実に楽しげに階段を上り始めた。
「 ちょ、ちょっと!まさか・・・! 」
ソフィ−の予感は的中のようで、行き先は浴室だった。
「 ハウル、もしかして暇なの!? 」
叫ぶように言った言葉に、やはりあっさりと彼は頷いた。
「 うん。頼まれてた毛生え薬も出来あがっちゃったし 」
数日前お忍びでやってきた王様の使者に何を頼まれているのかと思ったら・・・。
「 綺麗にしてあげるよ 」
嬉しそうにソフィ−の髪を洗うハウルに文句を言う気にもなれず、黙ってされるがままにした。
それがまずかったのだ。
ソフィ−は今度ばかりはそれを思い知った。
鏡を覗いたソフィ−は自分が老婆になったあの時よりも驚いた。
髪の色がハウルとおそろいになっている。
「 月の色だよ 」
すごく良く似合う。とハウルは実に嬉しそうに微笑んだ。
冗談じゃないわ!
叫んだつもりが声にならなかった。
何が自分に似合うかは自分が一番良く知っている。こんなのは私じゃない!
「 怒ったの? 」
怒っている。・・・筈だった。が、ソフィ−の瞳からは大粒の涙がぽろぽろと零れ出した。ハウルはぎょっとしたようにその微笑を凍らせた。
「 ハウルはこういうのが好きなの?レティ―のような金色の髪が? 」
男達に人気者の妹のレティ―。姉の目から見ても彼女は魅力的だと思う。
きっとハウルが彼女に会ったら同じ事を思うだろう。
みんな赤毛や銀髪の堅苦しい女の子より、そっちの方がいいに決まっている。
「 そんなつもりじゃないよ! 」
ハウルは慌てて言った。
「 ほら、見て 」
ハウルは鏡を指差した。
「 君はレティ―よりも、他のどんな女の子よりも魅力的じゃない?宮廷に出ても恥ずかしくないよ? 」
自分ではとてもそうは思えない。
でも・・・、とハウルは続けた。
「 そうなったら困るから。僕はただあの時の仔ねずみちゃんにもう一度会いたいと思っただけなんだ 」
ハウルがそう言っている内に、みるみるソフィ−の髪は赤毛に変わっていった。
「 強くなったみたいだけど、まだ君はふとするとあの時のようにびくびくするんだね 」
そして軽くソフィ−の髪に口付けると、赤い色はすっかりと抜けて元の銀の色に戻った。
「 ・・・意地悪!! 」
ソフィ−が顔を真っ赤にして怒ると、ハウルは声を立てて笑った。
「 本気で変えるわけないだろう?・・・見てみたかっただけ 」
その時一瞬、ハウルの瞳が揺れた。
ソフィ−はどきっと心臓が音を立てるのを聞いた気がした。
・・・見てみたかったのはどっち?
自分では似合うとは思わなかった。思わなかったけど・・・。
もしかして、美しくなりたいと願うのは嫌な事でも悪い事でもないのかもしれない。
ただ一人の為に綺麗になりたいと願うのなら・・・。
「 色って不思議ね 」
「 ようやく気付いたのかい? 」
得意げにハウルは言う。
「 どんな色でも僕は僕。でも僕であるなら何でもいいのとは違うだろ? 」
「 そうね 」
ソフィ−は素直に頷いた。
確かにどんなハウルも好きだけどピンクの髪は嫌かもしれない。
今度色を変えてもいいかもしれない。ハウルのように、好きな時に好きな色に。
好きな服を着るように。
まあ、気が向いたら、だけど。
ソフィ−はハウルの金色の髪を見て一人こっそり笑った。


END




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ハウルは金髪が!ソフィ−は赤毛が好きな私。
確かにどっちでもいいけど。意味があるんだと分るけどっ!