途切れた声



君に初めて逢った時何故気付かなかったんだろう。
遥か昔出会ったあの人と同じ人だったなんて。
再会した時も僕には分からなかった。でも、その時は仕方がない。僕は五月祭りで出会った女の子の事で頭が一杯だったから。目の前にいる君が同一人物とは気付かなかった。
僕は何度も同じ君に恋をしていた。


「ハウルは何時から私にかけられた呪いに気付いてたの?」
今日もソフィーは掃除に忙しい。走りまわっている彼女を僕は椅子に座って眺めていた。
前に手伝おうとしてバケツをひっくり返し、怒られた事があったから手は出さないようにしてる。
魔法を使うのもソフィーはあまり好きじゃないらしい。家は人の手で磨くからいいのだ、と教えられた。
不意に振られた話題に、僕は内心どきりとした。
こんな時、最初から知っていたと答えられない自分が少々情けないと思うからだ。
少しの間考えたが、彼女に嘘は吐けない。僕は正直に言うことにした。
「君のポケットに荒地の魔女の手紙が入っているのに気付いた時からだよ」
「・・・・そんなに最初から!?」
「そうかい?本当ならカルシファーが君を家に入れたと知った時点で気付くべきだった。そして、君を兵隊から助けた時に思い出すべきだった」
幼い時に出会った銀の髪の少女をずっと想っていた。彼女は「ソフィー」と名乗ったのに。そして「待ってて」と。「きっと行くから待ってて」と、孤独な子供の僕に言ったのだ。
それが、一筋の光だった。
一瞬でもその光を忘れて他の少女に心を奪われた自分が嫌になる。結果的には同じ人なのだけれど。
ソフィーに言うと、彼女は笑った。
「そんなの、大した問題じゃないじゃない。気付いて、思い出してくれただけで私は嬉しいわ。それより私はハウルに全て知られていたんだって事が恥ずかしいわ。すっかり90歳になり切っていたもの!」
「それこそ、あれはそういう魔法だもの」
僕も笑った。
弱くて、とても強いソフィー。
僕をここまで導いてくれたのは彼女。
彼女がいなければ、荒地の魔女の二の舞だっただろうと、本気で思う。
闇に消える瞬間の彼女の途切れた声が、今も僕の心の中に生きている。
僕を見つけてくれる人がいる。待っていることができる。
一人ではないのだ。

君が教えてくれた。






END



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久々のはうる更新です〜。すみません・・・。短くって・・・。