そして未来は閉ざされて
目が覚めて、見慣れない天井が目に映った。
―――― また、あの時の夢を見ていた…。
リゼルグはゆっくりと身を起こすと、隣のベッドで眠るホロホロを伺い見た。
ぐっすりと眠るその姿にほっと息を吐き出し、汗で全身に張り付いたパジャマを無造作に脱ぎ捨てた。あまりの気持ちの悪さに顔を顰める。
シャワ−を浴びて身体の不快感は消えたものの、先程の悪夢の余韻はなかなか消えてくれない。
その悪夢は現実だったから。
目の前で炎に包まれる両親。成す術もなく泣く事しかできなかった幼い自分。
そして、あの男。
その姿を思い浮かべるだけで、激しい憎悪が全身を駆け巡る。
怒りで目の前が紅く染まり、リゼルグは目眩を感じて壁に寄り掛かった。
もう一度ベッドに入る気にもなれず、部屋を出た。
ロビ−を抜けてテラスに続くガラス戸をそっと開けると、思いがけない人物がそこに佇んでいた。
「 ・・・蓮くん 」
呼びかけると、蓮はちらりとリゼルグに視線を向けて、再び暗闇の方へ戻した。
「 ・・・夢を見て、眠れなくて・・・。蓮くんはどうしたの?」
それには答えず、蓮は前を見据えたまま口を開いた。
「 酷い顔色だな 。足手纏いになるから、さっさと寝ろ」
言って、黙り込んだ。
冷たい言葉だがリゼルグの身体を気遣う思いが伝わってくる。
だが、それを素直に聞き入れる余裕が今のリゼルグにはなかった。
「 君は、悪夢を見たことが、ある? 」
リゼルグが部屋に戻る気がないと悟ったのか、蓮は諦めの溜息とともにこちらに顔を向けた。
「 ある。嫌って程な 」
「 だったら、僕の気持ち解ってくれるよね?」
にっこりと微笑むリゼルグに、蓮は眉を顰めた。
「 ・・・貴様は、葉から離れないほうがいい」
それはたぶん、数日前に会ったX−LAWSにリゼルグが惹かれつつある事を危惧しての言葉だろう。
「 だめだよ。僕の目の前は暗闇に閉ざされている。その先に、唯一見えるのがハオなんだ。彼が消えてしまったら暗闇しか残らない」
「 闇は、いずれ消える 」
噛み締めるように言うその言葉に、リゼルグは口の端で笑った。
「 君の闇は消えたの?それは葉くんのせいで?
でも、僕のは消えちゃ駄目なんだよ。葉くんとこれ以上一緒に居ちゃ、駄目なんだ」
何故?と目だけで問い掛けられて、リゼルグは続けた。
「 君たちと一緒に居ると心が穏やかになる。過ぎ去った、懐かしい過去の中に居るように。・・・このまま君たちと過ごしたら、何時かハオを許してしまう日が来そうで、怖いんだ」
その言葉に蓮ははっとした。
「 それだけは、認めたくないんだ 」
―――― 悔しいが、リゼルグの気持ちを理解出来る自分が居た。
「 ・・・ 認めてしまえば、そんな顔をしなくても済むのではないか?」
過去の柵から解放される時、確かに蓮も戸惑った。しかし、憎しみでは何も解決しない事を、本当の強さは受け入れる心の中にある事を、葉から教えてもらった。
それを、リゼルグにも解らせたいと、思った。
「 僕は楽になっちゃだめんだよ! 」
突然叫んだ声に、蓮は驚いた。
「 本当に貴様がハオを憎み続ける事で、死んだ者が浮かばれると思っているのか?」
我ながら陳腐な科白だと思うが、それしか語り掛ける言葉が浮かんでこなかった。
( 葉なら、もっと上手く言えるのだろうな…
)
そう思って、こんな時にやはり葉を頼りにしている自分に気付き、苦い笑みを浮かべた。
リゼルグは蓮の瞳をじっと見つめた。
「 ・・・君が、それを言うの? 」
意味が分らず、蓮は向けられる瞳を見つめ返した。
「 君の手にかかった人達は、憎しみをなくした君を、どういう風に見るんだろうね?」
瞬間、リゼルグの白い頬が引きつった。
自らの言葉に傷ついたように眉が寄せられ、俯いて視線を逸らした彼に、蓮は自分が今どんな表情をしているのか、悟った。
「 ・・・ 謝らないよ。こんな事、言うつもりじゃなかったけど。自分だけ綺麗な場所で生きようとは思わない。僕も、君と一緒だから」
一気に続けるとリゼルグは長く息を吐き出して、
「 汚ければ汚いほど、いい。悪魔と一緒に、僕は生きるよ」
その告白に、もう言うべき言葉は蓮にはなかった。
全てを覚悟した人間にどんな言葉も通じない事など、分りきっていた。
でも、必ず彼は後悔する。
その推測は確信に近かった。
それが現実になることで周りの人間がどれだけ心を痛めることになるのか、彼はそれにすら、気付かない振りを続けるのだろう。
「 ・・・そろそろ、部屋に戻るね。付き合わせてごめん」
今までの会話が嘘のように、リゼルグはふわりと微笑って蓮に背を向けた。
「 ・・・ 君だけは、理解してくれるよね 」
最後に呟いた言葉は聞き逃しそうな程小さなものだったが、蓮には届いていた。
「 したくもないがな・・・ 」
リゼルグの姿が完全に消えた後、蓮は暗闇に向かって呟いた。
――――― やがて夜が明ければ、暗闇に閉ざされたこの町にも光りが射すだろう。
それを見る為に、蓮は一人その場所に居た。
背を向けさえしなければ、誰にも平等に訪れるその光景を、リゼルグも見る日が来るだろうか。
一筋の光が建物の間から真っ直ぐに蓮の居るテラスに伸びて、その眩しさに目を細めた。
( 未来を閉ざすのは自分自身だ )
いつか彼にも光が注がれる日が来る事を、知らず、蓮は望んでいた
―――――――― 。
end
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え〜っと・・・。リゼ・・・×・・・じゃなくて、あんど?蓮?みたいな。
所詮リゼルグファンの書くものだと思って諦めて頂きたい(偉そう)(っつ−か、開き直り・・・)
瑞ちゃんのとシュチュエ−ションがかなりかぶってますが、気分転換に書き出したら止まらなくなっちゃいましたv
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