抗い





「 ライダ−同士の戦いなんて無意味だろ!?」
そう言って北岡の考えを否定した男。
真っ直ぐな瞳を持つその男を、北岡秀一は苦々しく思い出していた。
引き摺られそうになっているのは自分だけではないだろう。彼の側にいた暗い瞳をした男も多分同じなのだ。
全てに満たされ、永遠の命を欲しいと思った。
ライダ−になったのはそんな軽い気持ちからだった。
鏡の中に現われた男は北岡に、“ どんな願いも叶う ”そう言った。
他人を蹴落とすのは昔から慣れている。
悪を助け、善を踏みにじってきた。
自分の力で善と悪が簡単に入れ替わるのが面白かった。世間なんていうものはあっけなく手に入る。富も地位も。
「 手始めに、あの男から消してやろうか ・・・」
永遠の命を手に入れる為には勝ち残る必要がある。ライダ−であるあの男はもちろん、殺さなければならない。
何より目障りだった。
「 何て言ったっけ。あの男・・・ 城戸・・・、真司」
北岡は小さく呟き、口の端に笑みを浮かべた。




殺そうと思った。
何度も彼らに銃を向けた。
しかし、今日こそは本当に殺そうと思った。
ほとんど、衝動のように。
城戸真司が北岡の事務所に訪れ、俯き放った言葉に衝撃を受けた。
「 病気、だったんだな。どうしてあんたがライダ−同士の戦いに勝ち残りたいか、解かったよ」
解かった、だって?
「 皆、色んな事情があって戦ってるんだって解かった。・・・でも、それは人殺しをしてまで手に入れるべきものなのか?それで本当に満足して生きられるのか?」
顔を上げて真っ直ぐにこちらを見つめる城戸に、北岡は血の気が引くほどの怒りを覚えていた。
「 知ったような事、言うじゃない? 」
震える唇をかろうじて城戸には悟られないよう動かし、北岡は言葉を発した。
「 じゃあ、あんたは誰かを殺したい程の望みはないんだ?殺したい程憎んだ事も?」
「 ないよ 」
きっぱりと言い切った純真な瞳を、北岡は冷たく見下ろした。
――― じゃあ、憎ませてやろうか?
声に出さず、呟く。
「 ・・・ え?何か言ったか? 」
首を傾げ、無防備に近づいた城戸を力任せに蹴り上げた。
「 !? 」
華奢な身体は簡単に壁に叩き付けられた。
暴力は苦手ではあったが、相手は自分より背丈も身体付きも一回りほど小さい。
捻じ伏せるのは容易かった。
「 ・・・ っ、何、す ・・・ 」
ごほごほと咳き込みながら見上げる瞳に浮かぶ戸惑い。
「 中途半端な同情は鬱陶しいだけなんだよねぇ。正義感だか何だか知らないけど目障りなんだよ」
その戸惑いを更に深いものにしてやろうと思ったのだが、意外にも彼は睨み返してきた。
「 そんな事、言われ慣れてるよっ!俺だって放っときたいけど、気になんだよ!」
「 ・・・ へぇ? 」
「 蓮にも言われた。俺はお節介なんだ。自覚してる」
開き直った、というよりは、素直に自分を認めている、という風に見える城戸の態度に北岡は嫌な予感に捕らわれた。
「 でもライダ−同士の戦いはおかしい。絶対、間違ってる。これだけは俺、何があっても言い続けてやる」
殴られたくらいでは引かない、と続ける唇を塞いだ。これ以上喋らせる訳にはいかなかった。
根底にあったものが音を立てて崩れ落ちる音が聞こえる。
それから耳を塞ぐ為、北岡は息も奪う程の口付けを繰り返した。
目を見開き苦しそうにもがく城戸の身体を押さえ付け、北岡はふと、台所にいる筈の秘書を思い出した。
彼は北岡のする事に何も言わない。
戦いに行く自分の姿を見送る苦しそうな視線が脳裏を過り、北岡は漸く城戸を解放した。
「 ・・・ 、いきなり、何、すんだよ っ ・・・」
肩で荒い呼吸を繰り返す彼からは先程の威勢の良さは消えていた。
「 五月蝿いからさ ・・・ 」
「 う、うるさいからって、キ、キスすんのかっ!?」
余程苦しかったのか、目尻には涙が浮かんでいる。
「 五月蝿いなあ。初めてでもないんでしょう?騒がないでよ」
顔を顰めて城戸をちらりと見ると、彼は顔を赤く染めてこちらを睨んでいる。
その様子に北岡は驚いた。
「 何、本当に・・・ 」
「 お、男とは初めてだよ。当たり前だろ!?」
動揺したまま、今だ荒い呼吸を繰り返す城戸に北岡は思わず口元を押さえた。
( 退屈させない・・・ )
その言葉を飲み込んで、北岡は秘書に声を掛けた。
「 吾郎ちゃ−ん、お客様がお帰りだよ 」
北岡の言葉に直ちに反応する彼の秘書は、台所から姿を見せると城戸の襟元を掴み、強引に玄関まで引き摺っていく。
「 おい、話しはまだ終わってないだろ!?さっきのは一体何の意味が・・・、じゃなくて、俺は戦いに反対だからな!」
徐々に小さくなる城戸の叫びを背に、北岡は苦い思いを味わっていた。
唇を噛み締め、最後の最後で冷酷になりきれない己を呪う。
あの時、衝動に襲われたあの瞬間に迷わず手を下していれば、こんな想いに苦しむ事もなかったのだろう。
良心など消し去りたいのに。
死への恐怖と戦うのと、ライダ−達と戦うのと、後悔と戦う事、どれを選べば楽になれるのか・・・ 。
永遠に苦しみ続けなければならないのかという恐怖。
土足で踏み込んできて、北岡の迷いを見透かした男。
「 彼だけは、許せないよね ・・・? 」
何時の間にか北岡の背後に戻ってきている秘書に向かって呟いたが、彼は何も言わなかった。
どうやって、彼を苦しめよう?
どうやって、自分も汚い人間の一人だと解らせようか・・・ 。
「 手始めに、僕が彼に殺されてみようか? 」
北岡の言葉に由良吾郎は僅かに目を見開いたが、やはり何も言わず、彼を見つめていた・・・。






END









はぅ〜。勢いだけで書いちゃいましたが。
本編は真司、センセの病気も、ゾルダの正体も知らないじゃないですかっ!
もう少し勉強しましょう・・・。(言い聞かせ)

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