*おまけ*
「 う・・・、ん・・・ 」
信じられないことに、今俺の口を塞いでいるのは北岡さんだった。
重なった唇の間から侵入した彼の舌に、容赦なく口内を侵される。こんな感覚は過去、女性相手にも覚えたことがない。嫌な筈なのに嫌悪は感じない。これが上手いキス、というやつなのだろうか?
からかうだけなんじゃなかったのか?それとも、これも彼なりの冗談なんだろうか?
ここは笑い飛ばすべきなのか。・・・色々と考えている内に泣きたくなってきた。
蓮が後ろから羽交い締めにしている所為で身動きもとれない。
「 き、た・・・か、さん・・・、苦し・・・ 」
やっとの事で声を漏らすと、蓮の力が少し緩んだ。
「 ―――― おい 」
北岡さんに、蓮が低く声をかける。
「 あ、ごめん。結構イイ表情するからさあ、思わず・・・ 」
「 あの・・・、どこからどこまでが冗談? 」
息を整えた後、俺は思いきって聞いてみた。
「 う〜ん。とりあえず、ここからは冗談 」
北岡さんは笑顔でそう答えると、俺の顎に手をかけ、再び顔を近づけてくる。
「 うわああっ! 」
俺は思いきり顔を背けたが、彼は構わず、剥き出しになった首筋に唇を這わせてきた。
「 わっ・・・ 」
生暖かいその感触にぞくりと身体が震えた。
「 ―――― おい 」
不機嫌そうな声がまた後ろから聞こえる。
「 何?交代しようか? 」
「 ・・・・・ 」
へ?と思う間もなく、俺を拘束していた力が消えた。
慌てて我を取り戻し、逃げようとした俺の腕を今度は違う力が掴む。足がもつれて床に倒れこんだところを上からしっかりと押さえつけられた。
「 ちょっと!これは冗談じゃないって!笑えないし!! 」
「 笑え 」
仰向けに倒れた俺の上に蓮が馬乗りになった。
「 あのなあ・・・っ 」
俺の肩を床に縫い付ける手は北岡さん。同じ男なのにどうしてこうも簡単に動きを封じられてしまうのだろうか。我ながら情けない。
「 大体こんな時にお客が来たらどうするんだ!?もうやめろよっ!! 」
駄目だ。これ以上何かされたら本当に泣きそうだ。
「 ・・・ 城戸君、それってさあ、わざと? 」
「 それ?・・・って・・・? 」
俺は北岡さんの質問の意味が解らなくて聞き返した。先程から二人の話す言葉は意味不明な事ばかりだ。
「 その目、その口、声。ソノ気がない奴でもぐらっとくるよ? 」
・・・ 俺のことなのだろうか?
「 ・・・ それって、俺が誘ってる、っていう意味? 」
「 そういう事だ 」
まるで全てがお前のせいだと言わんばかりに蓮は答えると、徐に俺のシャツを捲り上げた。
「 やっ・・・! 」
やめろ、と言おうとした口を今度は蓮のそれが塞ぐ。
先刻の北岡さんの時よりもそれは信じ難いことだった。
蓮が。俺に興味なんか全くなさそうな蓮が。
これって・・・、キス、だよな・・・。
ごつごつとした大きな手のひらが自分の平らな胸を弄る。それを不思議に思いながら俺は目の前にある黒い瞳を見つめた。
黒く濡れたような睫は長く、白い肌に影を落としている。近くで見ると驚くほど綺麗な肌だ。
ぼんやりと、何時の間にか俺は蓮に見とれていた。
少し厚めの彼の唇の感触が心地よく、自然と息が熱く上がっていく。
「 なんかムカつくなぁ。俺の時そんなに感じてた? 」
頭上から聞こえた北岡さんの声に俺ははっと自分を取り戻した。
「 違う!そんなんじゃない!蓮がおかしいから・・・ 」
「 おかしいのは自分だろう? 」
言いながら蓮は唇を胸へと移動させた。
「 っあ・・・っ 」
小さな飾りを啄ばむ様に口付けられ、俺は思わず声を上げてしまった。その声の甘さに自分で赤面する。
どうかしてる。蓮も、北岡さんも、そして自分も。
「 キスは俺の方が上手いと思うんだけど・・・ 」
開いたままの俺の唇に、上から覗きこむようなかたちで北岡さんが唇を重ねてきた。
「 どう? 」
・・・ どう?って聞かれても ・・・。
やめろ、やだ。もう、そう言うのも疲れてきた。
観念したように目を閉じた時、北岡さんの上着のポケットで携帯の着信音が鳴った。
「 なによ?これからって時に 」
面倒くさそうに携帯を取りだして、相手も確認せずに電話に出る。
「 もしもし?・・・あ、ゴロちゃん。何?終わったの? 」
その声がほんの少し嬉しそうに聞こえたのは気のせいだろうか?
「 あ、そういうワケで俺帰るから。城戸君、楽しかったよ。また今度ゆっくりね 」
北岡さんはあっさりと身を引くと、さっさと店を後にする。
・・・ 嬉しそうだと思ったのはどうやら気のせいではなかったらしい。
結局紅茶も飲まずに店を出て行く彼に呆れた。
"また今度ゆっくり"してたまるか。俺はそう思いながら身体を起こそうとした。
が、その身体がまた床に引き戻される。
「 ・・・ 蓮? 」
「 まだ終わってない 」
――― 何がっ!?
「 あのなあ、あのヘンタイ弁護士がいなくなったのに俺が大人しくお前のいいなりになると思ってんのか? 」
一対一なら負ける気がしない俺はふん、と鼻を鳴らした。
力をこめて蓮を押しのけようとしたが、肩に置かれた手がびくともしない。
あれ?
もう一度手に力を込めようとした時、
「 しっかり反応してたくせに 」
そう言った蓮の目が悪戯っぽく細められた。
・・・ バレてたのか ・・・。
一瞬にして顔が熱くなった。
「 手伝ってやる 」
「 いい!自分でやる! 」
俺は蓮の手を思い切り振り払った。


・・・ と、言いながら結局俺は蓮のいいなりになってしまった。しかも、店の中で。
流石に途中で蓮が看板を下ろしに外に出たが、その時にはもう俺は前後不覚になるほど朦朧としていた。
何時の間にか自分のベッドにいて、自分だけが醜態を晒したことを思い出しながら俺は頭まで布団を被っていた。
終始蓮は乱れず、ただ、キスだけは一杯された。気がついた時はまだ昼過ぎで蓮の姿は近くになかった。多分一人で店番をしているのだろうと思う。俺の、後片付けをして・・・。
恥ずかしさで顔も上げられない。蓮と顔を合わせるのが怖い。
「 結局 ・・・ 」
・・・ あれは一体何だったんだろう。
何度考えても解らない。途中までは、多分北岡さんがいた頃まではからかわれていたのだとは思う。二人になった後の蓮は明らかに何時もの蓮じゃなかった。
あのまま北岡さんがいたらどうなっていたか、想像すると恐ろしいが。
本当に自分が二人を誘ったのだろうか・・・。
ふとそう思って、俺は頭をぶんぶんと振った。
そんなつもりは欠片もない!全て冗談!二人の性質の悪い冗談だ!
「 ・・・ でも、あれは・・・、良かったかな・・・ 」
俺は蓮の唇の感触を思い出しながら呟いていた。





「 でさあ、今頃あの二人なにしてると思う? 」
「 二人きりなんでしょう? 」
「 真司君は絶対受けだと思うの 」
「 でも秋山君が簡単に押し倒すと思う? 」
「 あのタイプはむっつりよ。きっと 」

そんな会話が何処かで交わされていた事も、勿論俺は知らなかった。



(・・・終わってみる)

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リベンジ北×真、リタイア(爆)またしてもちう止まり。
駄目なのっ!やっぱりセンセはゴロちゃんなの〜・・・・・・・。
っていうか、コレナンなのっ!?ワタシはナニが書きたいのっ!?
愛のないHが書けなくて、やはし蓮真なのデス・・・。