構造改革
「 何があったんだ!? 」
浅倉威の隠れ家から逃げ出した後、城戸真司はずっと同じ事を口にしていた。
うんざりとそれを聞く秋山蓮は、本日何度目になるか分からない溜息を吐いた。
普段誰とも行動を共にする事を望まない蓮が、はじめて会った男を助けた。
その事が余程不思議らしい。
「 弱みを握られたんだろ? 」
「 借金でもしたのか? 」
・・・ お前じゃあるまいし・・・ 。大体脱走犯である浅倉に何を借りると言うのか。
だが、それはまだマシだった。
言うに事欠いて、
「 口には出せないすんごぉいコトされたのか!?」
城戸のその言葉にはさすがに手が出た。
傷む頭をさすりながら、上目遣いにこちらを見る城戸から目を逸らし、蓮は再び溜息を吐いた。
言える筈がない。
浅倉の冷徹な強さを望んだ自分がいた事など。
城戸を殺せない自分に業を煮やし、浅倉に殺させようとした事など。
その考えが全て間違いだったと気付き、城戸に恩を感じてしまった事など、絶対に、口には出せない。
「 ・・・ いい加減その口を閉じないと、無理にでも閉じさせるぞ」
脅しを掛けるように声を低めたが、城戸には全く通じない。
「 やれるもんならやってみろよ 」
ふん、と鼻を鳴らす仕種が憎らしい。
「 あ、解かった。一目ボレだろ!? 」
蓮は無言で立ち上がると、その首に手を掛けた。
「 う・・・、まった、待った 」
遠慮なく力を込めると、城戸は苦しそうに蓮の手を引き剥がし、ぜえぜえと肩で息をする。
“ 口は災いの元 ”そんな誰でも知っている諺も、この男の頭にはとても入っているとは思えない。
「 俺さあ、本当に蓮が浅倉の味方になったんだと思って焦ったんだ」
「 ・・・・・ 」
これだけされてもまだ、にこにこと笑いかけてくる。
「 でも結局俺の事助けてくれたし。信じてて良かったよ〜、本当」
嬉しそうに、恥ずかしい言葉を並べる彼に頭を抱えたくなる。
「 お前、馬鹿か? 」
「 何だよ、疑ってなんかないって。マジで 」
「 ・・・ 馬鹿だな? 」
「 違うって!信じてても疑っちゃう、ってのは人間誰でも・・・、じゃなくて、心配だって!心配!信じてたから心配なんだ、うん、それだ」
正真正銘の馬鹿だ・・・ 。
「 最初から知ってたが・・・ 」
「 え?何か言ったか? 」
きょとん、とする城戸の瞳をちらりと見て、蓮は思った。
――――― だが、この男が一番強いのかもしれない・・・。
戦いを止める事は出来ないと言った蓮を、城戸は全身で受け止めようとした。
命を懸けて。
その重みも、何もかもを・・・ 。
「 ・・・ 浅倉の強さは、本当の強さじゃない」
ぽつり、と漏らした蓮の言葉に城戸は一瞬目を大きくしたが、直ぐにそう、と人差し指を立てた。
「 そうだって!本当に強いっていうのは・・・、ほら、俺みたいな?」
「 お前のは怖いもの知らずと言うんだ 」
「 まあ・・・、そうとも言うけどさ− 」
頭を掻きながら言う城戸に、蓮は苛立ちを込めた視線を向けた。
「 簡単に命を懸けるな。時間切れがなかったらお前は死んでいた」
「 ・・・ でも、生きてるよ 」
真っ直ぐに見返す瞳にはっとする。
「 蓮がいたから 」
そしてまた、城戸は笑った。
「 ・・・ 借金返してもらうまで、お前に死なれちゃ困るからな」
この男の前ではどんな表情をしていいのか解からなくなる。
蓮は肘を付いて顔を隠すと、少し黙れ、と呟いた。
「 借金はいいけどさ、いや、よくないけど。そんで浅倉にナニされたの?」
再び話しが始めに戻っている。
蓮は前言撤回とばかりに声を荒げた。
「 お前はやっぱりただの馬鹿だ! 」
「 やっぱり、言えないナニかをされたんだ!!」
「 黙れ! 」
怒鳴りながら、蓮は城戸の脇腹をくすぐった。
「 ぶ、わははは、やめろって、蓮!」
身を捩って蓮の手から逃れながら、更に続ける。
「 大丈夫、俺、誰にも、言わないから 」
「 黙らせる 」
蓮は低く宣言すると、城戸の口をおもむろに塞いだ。自分のそれで。
文字どおり、塞ぐ為だけが目的であるその行いは見事に城戸を黙らせた。
片手で硬直する彼の背を抱きながら、蓮の視線は腕時計に落とされる。
3、 2、1・・・
「 3分、黙らせたぞ 」
そう言って蓮は、ぽいと、城戸を放した。
「 俺の勝ちだな。五万だ 」
「 か、賭けてね−だろ!? 」
勝ち誇った表情を浮かべて背を向ける蓮を、口をぱくぱくとさせながら呆然と見送る。
そんな城戸をちらりと振り返り、蓮は笑いを堪えた。
何時まで持つだろうか、と考える。
きっと数分後には再び苛々させられるだろう。
だがそれを何故か待ち遠しく感じている自分に、蓮は少しばかりの戸惑いを覚えるのだった・・・。
(終)
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軽いノリで書いてみました。こういうカンジの方が書きやすいです。
Hシ−ンは・・・疲れます。ヘタだし・・・。
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