戦慄の晩餐






真司と蓮、優衣に北岡。そしてOREジャ−ナルの桃井令子、島田奈々子が同席するという奇妙な晩餐が終わった直後だった。
「 シンジくん、令子さんの事好きなんでしょぉお?」
突然発された島田の一言にその場の誰もが固まった。
「 じゃなきゃ、そんなに心配しないもんね・・・」
それから島田は令子に視線を向けると、
「 悔し・・・ 」
一言呟き、恨みがましい目で見つめる。
「 そうなんだ?城戸くん 」
北岡が意外そうに固まったままの真司に問い掛ける。
それにはっと我に帰ると、
「 えぇっ!?ち、違いますって!」
ぶんぶんと首を横に振る真司に令子は少しむっとして、
「 そんなに力一杯否定する事ないんじゃない?」
「 え、いや・・・ だって・・・ 」
ごにょごにょと口篭もる真司を島田は容赦なく追い詰める。
「 シンジくん、ワタシが誰かに付きまとわれたら心配する?」
「 そ、そりゃあ、モチロン・・・ 」
「 万歳三唱して応援するんじゃナイ? 」
「 そ、そそそんな事は・・・ 」
上目遣いに真司を見つめる島田。
「 ちゃんと目を見るんだ。シンジ 」
ばか正直な真司はそこで思い切り目を逸らしてしまい、最初の島田の一言を肯定する形になってしまった。
「 ふ〜ん。じゃあ、君とは色んな意味で敵同士って事になるんだ」
にやりと笑う北岡のその目だけは、笑っていなかった。
「 意外とお似合いなんじゃない?」
優衣の言葉に、意外って何だよ、と突っ込む余裕さえない真司だった。
「 そ、それは、令子さんの事は好きですよ?尊敬してます。先輩として」
よし、我ながらいい科白を言えたと安心する間もなく、
「 ごめんなさい 」
令子にぺこりと頭を下げられた。
「 城戸君はどうしても弟かペットの犬くらいにしか思えないのよ」
「 ひ、ひどいじゃないですか!俺だってちゃんと成人した大人の男です!」
真司は令子の言葉に思わず立ち上がり、抗議の声を上げた。
「 何?じゃあ、本気なの?」
「 え? 」
優衣が興味津々という風に真司に問い掛ける。
「 だったら、考えなくもないわね 」
にっこりと微笑む令子。北岡と島田の冷たい視線。
真司は最後の頼みの綱とばかりに蓮を振り返った。
その縋り付くような眼差しに蓮は溜息を吐き、口を開いた。
「 こいつにそんな人並みな感情がある筈ないだろう」
真司はうんうんと嬉しそうに頷き、一秒後、何!?と顔を上げた。
「 大体こいつにはもう決まった相手がいる 」
「 は?」
ぽかんと口を開ける真司の後ろで皆が目を見開いた。
「 嘘!?」
「 誰?誰?」
口々に問い掛けられ、蓮は片手を上げて黙るように促す。
皆同様に黙ったのを確認すると、蓮はおもむろに口を開いた。
「 こいつの相手はお ―――― 」
「 わ 〜〜〜っ!!」
真司は慌てて蓮の口を両手で塞いだ。
「 お?」
「 おって何?蓮?」
身を乗り出してくる四人に、真司は蓮の口を塞いだままじりじりと後退る。
「 と、トイレっ!」
一言叫ぶと、真司は蓮を引き摺ってトイレへと逃げ込んだ。





「 おっ、前は、何を言い出すんだよ!?」
「 真実を言おうとしただけだ 」
しれっと答える蓮に真司は頭を抱えた。
「 蓮に助けを求めたのが間違いだったよ。大体何であんな話に・・・」
「 お前が、あの女記者をやたらと心配するからだ」
蓮の声が一段と低くなったのに気付いた真司は顔を上げた。
「 何?怒ってんの?」
「 怒ってる 」
言うなり蓮は真司を囲うようにして壁に手をついた。
真司は慌てて、言い訳しようと口を開いた。
「 ・・・ だってさ、令子さんを北岡に渡す訳にはいかないだろ?」
「 どうして 」
「 あんな悪徳弁護士じゃ、幸せになんかなれないし・・・。俺の、大事な・・・」
「 大事な、何だ?」
「 先輩、だから・・・ 」
最後はほとんど呟くように口の中でもごもごと言葉を呑み込む。
間近で見る蓮の険しい瞳に圧倒されて何時もの勢いが失われる。
蓮が先程言おうとした言葉は多分「 相手は俺だ」だと、真司は思った。
互いの気持ちを確認した訳ではないけれど、何時の間にか友達以上の関係になっていた。
いや、元々友達だったのかさえ、怪しいが。
それにしても蓮が人前で堂々とそんな事を口にするとは思ってもいなかった。
「 そんなに怒る事じゃ、ないだろ・・・ 」
「 そうか? 」
「 ・・・ 本当に、怒ってんの?」
真司は叱られた子供のように蓮を見上げた。情けないと自分でも思ったが、どうしても今の蓮には逆らえる気がしない。
その時、唐突にキスされた。
驚きで真司は目を見張った。
誰が訪れるかも解からない狭い個室の中で。
真司は今の状況に慌てて、必死に抵抗した。
それでも蓮はお構い無しに真司の唇を貪り、舌を絡める。
「 う・・・、んっ・・・ 」
腰ががくがくと震え出して立っていられなくなる。
真司は壁にもたれ、蓮のされるがままになっていた。
しばらくして、蓮の背後でトントンとノックの音がした。
「 城戸くん?大丈夫?」
令子の声だ。
真司は慌てて蓮を突き飛ばすとドアを開けようとした。
ノブに手をかけて振り返ると、蓮が真司を睨んでいる。
「 お前はまだよく解っていないらしいな 」
「 だ、って、呼んでるよ?出て行かないと・・・」
「 そういう問題じゃない 」
蓮はノブに手を置いたまま硬直している真司の横を通り過ぎると、
「 帰ったらお仕置きだな 」
ぼそりと呟いてドアを開けた。
顔面蒼白になっている真司をその場に残してさっさと出て行く。
真司は思わずその場にぺたりと座り込んだ。
「 ど、どうしたの!?城戸くん?悪かったわよ。ふざけ過ぎたって島田さんも私も反省してるから」
「 令子さん・・・ 」
半分泣きそうな目で見上げると、令子はにっこりと微笑んだ。
「 秋山君の言うとおり、城戸くんにそんな甲斐性あると思ってないから、安心して」
「 令子さん・・・ 」
真司は情けなさMAXで項垂れた。
それから真司は去り際の蓮の言葉を思い出して、再び顔を上げると、
「 令子さん、今晩泊めてっ! 」
と言って令子に殴られた。


戦慄の晩餐。真司にとってそれはまだまだ終わらない、長い夜の始まりだった。





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ああ〜〜、どんどん壊れていく〜〜〜。
誰がニセモノだとか、それ以前の問題?