fragrance of jealousyU



部屋のドアを開けると、そこは足の踏み場もない程散らかっていた。
「 ・・・・・ 」
衣服、雑誌、正体の分からないガラクタ、おもちゃ。
それらは全部、言わずと知れた同居人が撒き散らした物だ。
良く見ると、部屋の奥でごそごそと動く影は、その同居人である城戸真司本人である。
「 ・・・ 何をしている? 」
蓮は今にも爆発しそうな怒りをかろうじて押え込み、静かに問い掛けた。
「 ――― あ、お帰り蓮。今ちょっと部屋の片付けを・・・ 」
「 ・・・ 片付けをしていてどうしてこんなに汚くなるんだ? 」
「 いや、とりあえず全部出して一つずつ片付けてかないと、何が何だかワケわかんなくなるし・・・ 」
「 訳が分からないのはお前だ 」
溜息を吐くと、蓮は足元に散らばる衣服を拾い始めた。
「 え?手伝ってくれんの? 」
にっこりと嬉しそうに笑う真司に、これ以上文句を言う気にもなれない。
蓮は夏服と冬服を分け、綺麗にたたんでベッドの上に置こうとして、そこにも写真やらメモやらが散らばっているのに気付き、仕方なく自分のベッドの上へ乗せた。
「 やれやれ・・・ 」
真司のベッドに腰をかけて、写真を手に取る。
取材の写真に、OREジャ−ナルの宴会の写真などもごちゃまぜになっている。
それらを一枚一枚仕分けしてまとめていく。自分の手際の良さに、蓮は満足気に頷いた。
その時ふと、一枚の写真に気が付いた。
女の写真だった。
制服を着ていて、髪はセミロング。なかなか可愛い顔立ちをしている。
「 城戸 」
「 ん?何? 」
「 これは誰だ? 」
ひらりと指に挟んだそれを真司に見せ付けると、
「 ――― あっ!それは・・・っ 」
顔を赤くしながら、慌てて取り上げようと手を伸ばしてくる。
蓮はそれを軽く躱して、口端に笑みを浮かべた。
「 大事なものらしいな 」
「 ・・・ そんなんじゃ、ないけど・・・。とっくになくしたと思ってた 」
「 好きだった女の写真か? 」
ひらひらと写真を揺らしながら問い掛ける。
「 彼女だよ。――― 一応、付き合ってた 」
真司の言葉に蓮の手の動きが止まる。
「 ・・・ お前にもそんな上等なのがいたとはな・・・ 」
「 別に・・・。告られて、嬉しかったから何となくオッケ−しただけだし・・・ 」
せっせと手元の片付けをしながら、真司は聞いてもいない事まで喋り始めた。
「 卒業してから自然消滅ってやつ。・・・でも、可愛かったけど 」
「 ・・・ 」
蓮は写真を眺めた。
「 ・・・ 終わったか? 」
「 え?ああ、一応 」
最後の写真をまとめて引き出しにしまうと、真司はふう、と息を吐いた。
「 埃臭いな。窓くらい開けて掃除しろ 」
「 あ、ごめん 」
慌てて窓を開けて、真司は新しい空気が入って来た事に嬉しそうに顔を綻ばせた。
「 ・・・ 何も知らないような顔をして・・・ 」
ぼそりと呟いた蓮に、真司は振り返る。
「 ?何だよ? 」
「 別に 」
何だかすっきりしなかった。もやもやとした何かが胸につかえる。
蓮は、非道く了見の狭い感情が自分の中に湧き上がるのを感じた。
「 ・・・ お前も埃と汗で臭い。あっち行け 」
とりあえず、原因である筈のこの男を目の前から消す事を試みた。
「 うん。ついでに風呂洗ってくる 」
蓮は、素直に頷いてドアへと向かう真司の腕を掴んだ。
その行動は、ほとんど無意識だった。
「 何だよ。・・・ あ、お礼言ってなかったっけ 」
気が付いたようにぽりぽりと頬をかき、ありがとうと笑う真司に、蓮は更に戸惑いを覚える。
「 ・・・ 俺をこき使っておいて、それで済ますつもりか? 」
「 こき使って・・・ ないだろ!?勝手にお前が手伝ったんだろ? 」
「 いい度胸だ 」
「 ありがとよ! 」
蓮は、手を振り払い舌を出して部屋を出て行く真司の後ろ姿を、複雑な思いで見送った。


「 蓮、風呂空いたよ 」
真司が部屋のドアを開けると、蓮はベッドに横になって目を閉じていた。
「 ・・・ めずらしいな 」
濡れた髪を拭きながら、寝ているらしい彼を覗き込むと、急にその手が、がしっと真司の腕を捕らえた。
「 うわっ・・・ びっくりした 」
蓮は驚く真司の腕を引き寄せるとその身体をベッドに押し付けた。
「 ・・・ 何?どうかしたのか? 」
どうしてそんな状態になっているのか理解出来ないらしく、真司は目を見開いて蓮をただ見つめている。
「 お前から・・・ したのか? 」
「 え・・・? 」
「 お前から ・・・ 」
―――― あの、女と ・・・ 。
呟いて、蓮はふと気が付いた。
この子供じみた感情が・・・、 嫉妬、だという事に。
「 寝惚けてんのか? 」
笑いながら蓮の肩を押して起き上がろうとする真司を、強い力でベッドに押しもどす。
――― 俺が・・・ 写真を見ただけのあの女に一目惚れしたという事か?
「 いや ・・・ 」
蓮は呆然と、真司を見つめた。
「 まさか、こいつに ・・・ ?」
「 どうしたんだよ?蓮 」
確かめる為に、蓮は真司に顔を近付けた。
何が起こっているのか分からないままの真司は、抵抗もなく蓮の唇を受け止める。
蓮は、軽く触れたそれをすぐさま引き離すと口元を押さえた。
「 ・・・ えっ!?何!?今の、ナニ!?蓮! 」
真司はがばっと起き上がると、引き攣った表情のまま蓮に問い掛ける。
―――― こいつだ。俺は、どうやらこいつを特別に思っているらしい。
しかも、それは恋愛感情に近いもので・・・。
理解してしまうと、もう真司の顔をまともに見る事ができない。
「 ・・・ 蓮、お前疲れてんだろ?寝た方がいいって 」
本気で心配している様子で、真司は蓮の肩をぽんぽんと叩いた。
蓮は覗き込んでくる真司を恨みがましく睨み付けた。
「 ・・・ お前に心配されるなんて心外だ 」
「 どういう言い草だよ。可愛くないヤツだなぁ 」
「 俺に可愛げがあってたまるか 」
――― お前じゃあるまいし。
あからさまにむっとする真司の、その表情すら今の蓮には可愛く見える。
どうしようもなかった。
今までの真司に対しての態度全てが、この感情の裏返しかと思うと頭を抱えたくなる。
小学生じゃあるまいし・・・。
「 まあ・・・ 今のはなかった事にするから ・・・ 」
超人的に鈍いこの男には何を言っても無駄だろう。告げる気もない。
「 五月蝿い!早く寝ろ! 」
今更態度を改める事も出来なくて、蓮はこの先も付きまとうであろうこの感情と共存する事を心に決めた。


窓から差し込む月明かりの中、蓮は高らかに鼾をかいて熟睡する真司を見下ろしていた。
―――― いつか、同じ想いを味合わせてやりたい。
ただ、そう思った。
この、苦く熱い、嫉妬の香りを・・・ 。




end・・・?



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なんなんでしょお…。プラトニックバ−ジョン蓮真…?(ギャグタイプ)
妄想ではイロんなコトをシてたんですが…?短くなってしまいました。
はて? 最近妄想がすっかり止まってしまって…。全てはシリアスすぎる本編のせい…。