花宵人


深夜遅く、薄ぼんやりとした月明かりが差し込む部屋の中、人の動き出す気配を感じて俺は眼を覚ました。
どうも隣で寝ているはずの同居人が起き出したらしい。その者はこれから出かけるのか、ごそごそと服を着替えている衣擦れの音がする。
-----こんな時間にいったい何処へ行こうとしてるんだ、此奴は
このところ城戸は深夜遅くに出かける事が多くなった。それも決まって1,2時間で帰ってくるのであまり気にはとめないようにしてはいたが……しかし、こう頻繁に奇妙な行動を繰り返されるのも妙な感じがして、俺は今夜こそそれを突き止めてやろうと考えていた。
まぁ、あいつはあいつで色々何か訳があっての事だとは思うが、それにしても深夜の散歩とはやぶさかではない。憶測で物を考えるのはよくない事だが、まさかあいつが何か良からぬ事に巻き込まれてはいやしないかといらぬ心配をしているのも確かだ。が、それよりも城戸の行い全てに眼が行き届かない自分に対するジレンマというか、俺の独占欲というのか……
そうこう思っている内に支度が整ったらしい、城戸は俺が寝ている事を確認するかのように一瞬足を止め、そしてそーっと部屋から出ていった。
俺は城戸のバイクの音が小さくなるのを聞き届けてから、ようやく部屋を後にしてあいつの後を追いかけた。

案の定、走っている城戸の姿は直ぐに見つかった。だが、どこか様子がおかしい……
この時間帯だ、俺達以外に走っている車など滅多にいない。これが昼間なら少し離れている俺のバイクに気付かないのも解るが……今は夜だ、当然ライトで俺が付いてきている事が解りそうなものなのに、一向に城戸が俺に気付いている感がしない。おまけにどういうわけだかしらないが、どんなにスピードを上げても俺が城戸に追いつかないのだ。あいつのバイクが俺のよりスピードを出せるはずがないのに、走っても走っても城戸に追いつけない。
-----何なんだ、まったく
理不尽な怒りがこみ上げてくる。あいつに何が起こっているのか不安になる。俺に理解不能な事があいつの身に起きているのか……摩訶不思議な出来事に思考はどんどん悪い方へと傾いてくる。しかしあいつに付いていけばそれを解き明かせるだろうと、俺は城戸が目指す所に着くまで、あいつを見失わないようにただ後を追い続けた。

「こんな所とは……」
バイクのエンジンを止め時計に目をやると、花鶏を出てから30分ほど過ぎているだけだったが、かなり遠くまで来たような感じがした。裏寂れた神社だろうか、第一鳥居らしき所に城戸の姿は見えず、あいつのバイクだけが乗り捨ててある。俺は辺りに気を配り城戸の姿を探すが、此処は木々だけが鬱そうと生い茂り、おぼろ月とはいえあるべき光も射し込まず、ただ深い闇だけが俺の周りを取り囲んでいた。
「ったく、何処にいるんだ!」
だんだんいらついてくるのが自分自身手に取るように解る。そのいらつきの正体が城戸に対する不安な気持ちからくるのも……いやこの状況に対して俺が恐怖を抱いてるのかもしれないが……俺はその気持ちを払拭するかのように辺り一帯をくまなく歩き始める。そう闇雲に探しても意味がないのは解ってはいるが今はそうするしか為すすべもなく、なるだけ何も考えないように、とにかく城戸を見つける、それだけを念頭に置いて歩き続けた。

しばらくすると木立の間から薄ぼんやりとだが灯りらしき物が見えてきた。その灯りを見た途端、俺は何故か薄ら寒いものを感じた。普通なら人は暗闇から灯りを見つけた時、安堵こそすれ恐怖は覚えないものなのに、この時ばかりはどうしてだがそう思えなかったのだ。
だがその半面、俺は直感的にその場所に城戸がいると思えた。城戸とその灯りが何故結びついたのかは解明できないが、そう感じてしまった事は仕方ない。俺はらしくもなく弱気になっている自分を叱咤し、その場所へと向かった。

「城戸っ、そこか………」

俺はそう言い放ったっきり次の言葉が出せなかった。
灯りを目指してやって来たその場所はこれまであった鬱陶しいくらいに植えられていた木々が一切無く、荒涼とした地が広がっていた。そしてその中央には此処には恐ろしく不似合いな満開の大きな桜の木が一本立っていた。
俺が灯りだと思ったのはどうやら空から降り注ぐ月明かりに照らされたこの樹が正体だった。月の光を遮る他の梢が無いため、桜の花全てがまるで自ら発光しているかのように薄白い光を帯びている。何とも形容しがたい光景だが、ただ美しいだけでなく一種の神秘性を伴っているようにも思える。惜しむらくはその樹を囲う柵さえなければ……そしてその樹の根本に探し求めていた城戸がいた。
けれども先ほど呼んだ俺の声が聞こえなかったのか、城戸はぼんやりと桜の樹を見上げている。いつもなら呼べば必ず振り向くあいつなのに……俺はそんな城戸に訝しながら側に近寄ってみた。
「城戸、ここで何をしている?」
樹を囲む柵まで歩み寄り俺はもう一度声を掛ける。するとやっと俺に気付いたのか城戸が気怠そうに俺の方に視線を寄越した。しかしその表情は俺の知るあいつの物とは違った。俺に呼ばれて返すあいつの屈託のない笑顔とは違う、強いて言うなら、そう時折夜にだけ見せるそんなあだめいた艶のある微笑み……何処かおかしい……そんな城戸に一瞬躊躇していると向こうから俺に向かってやんわりと手を差し伸べてきた。
『来てくださったのですね』
姿形は確かに城戸のはずなのに、顔つきだけでなく話口調そして明らかに声のトーンまでもが違う……
『あなたが約束を違えるとは思ってもおりませんでした。だからこうしてずっとあなただけをお待ち申しておりました』
-----こいつは誰なんだ?
戸惑う俺に城戸の姿をした者は哀しみと欺瞞の無い混じった視線を投げつけ、更に俺に問いかけてくる。
『やっとお会いできたのに、私のことをお忘れになされてしまったのですか?私です寿々若です』
「………すずわか?」
忘れるも何も聞いたことのない名前だ。しかも俺のことを待っていただと?こいつは俺を誰かと勘違いしているのか?それよりも此処にいるのは本当に城戸なのか?ますます解らなくなってきた。
そうこうしてる間に城戸の姿をしたそれは柵越しに俺を捉え、首元に腕を絡ませ尚も強請るように俺の耳元に甘言を吐く。
『嬉しい、ようやく名前を呼んでいただけるのですね』
身震いを起こすような声音、そして仕草。それだけでも流されそうなのに、ましてやこれは城戸の姿をしている……だが断じてこれは城戸ではない。俺はその身体を押しやりその反動で一歩退き、そいつに向かって言い放つ。
「俺はお前なんか知らん、間違えるな!」
『私を知らないと言うのですか……』
「そうだ」
『違う、そんなはずはありません。私があの方を間違えるなんて……』
俺の言ってる事を断固と認めたくないのか、そいつは両耳を手で押さえ、先ほどの妖艶な面もちとは打って変わって今度は幼い子供のように嫌々と小さく頭を振りながら泣き崩れている。
声を噛み殺し泣くその様は俺がかつて見たことがある城戸の姿そのままで……俺が原因で泣くあいつの姿を彷彿とさせる。
-----これは、危うい
今、俺の目の前にいるこいつもそうだが、それよりも姿だけを残している城戸の事の方が心配だ。俺は柵を乗り越えそいつに近寄り項垂れた肩を揺さぶった。
「おいっ、どういう事だ。お前は城戸を何処にやった?」
『……解りません』
「解らないだと?なら何でお前は城戸の中にいる?」
『それも…解りません』
「解らないで済む問題か!さっさと城戸を返せ!」
じれてきつく睨み付ける俺に、そいつは表情を堅くしながらもそっと俺の身体に触れ胸元に顔を預けてくる。
「よせっ」
引き離そうとする俺を反対に征するかのように縋るような目線を寄越し、尚もそいつはしなだれてくる。
『この身体の者が羨ましい……これほど強くあなたに想われて……この者がこうして私を呼んだというのに……』
「城戸が、お前を呼んだだと?」
『はい、この者の想っても想っても得られないあなたの心に対する想いと、私の待っても待っても表れないあの方に対する想いが重なって、このような事に……』
「だったらこの事態は俺が原因だと?」
『いえ、そうでは……いいえ、そうなのかもしれません……』
「どっちだ!」
『おそらくこの者の中にいるあなたがあまりにも私の待つあの方に似ていらしたから……現にこうしてあなたを拝見して益々似ておられると……」
「それは俺のせいじゃない!」
『ええ、それは…それは解っているつもりです。でもそれでも……』
俺の胸に未だ名残惜しそうにもたれ、そう呟いたそいつの言葉は、頭では理解できても心がそれについて来ない……そんな想いがひしひしと俺にも伝わってくる。
-----その気持ちも、解らんでもないが
常日頃から俺が抱えている気持ちがまさにそうだから、どう足掻いても足掻いきれない感情を持て余しているから……しかしこいつに同情こそすれ、城戸は返してもらわねばならない。仕方なく俺はこいつに譲歩する事にした。
「で、俺はどうすれば良いんだ?」
俺のこの返事が突拍子もない物だったのか、そいつは驚いた顔をして俺を見上げた。
『……どう…って……』
「とにかく俺が似ているんだろ?お前のその待ってる奴とかに、だったらお前は俺にどうして欲しんだ?どうしてやれば気が済んで城戸の中から出て行くんだ?」
『それは……』
「お前が答えを出さないとどうしょうもないじゃないか!俺は生憎坊主でも無ければ拝み屋でも無い、それにあまり気の長い方でも無いしな」
そいつは何か考え込むように眼を伏せ、しばらくしてぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
『……だったら……私を、寿々若として……一度で良いですから、あなたの声で、私の名前を呼んで頂けませんか……』
「名前を呼ぶだけで良いのか?」
『はい、あなたは声までも似てらっしゃいますから……きっと……』
「本当にそうすれば城戸を返してくれるんだな」
『はい』

「寿々若」

その名を口にした途端、得も知れぬ感情が溢れてきた……俺が城戸に抱えている激しい想いとは違う、もっと深く暖かな穏やかな想い……俺は思わず知れずそいつを抱えていた腕に力を込め、強く抱きしめていた。と同時に頭上の桜が風もないのにザザーッと枝も揺らさず花吹雪を舞い散らす。

-----待たせたな、寿々若
-----青之介様、やはりあなたでしたのですね
-----遅くなってしまって済まなかったな
-----いいえ、きっと来て下さると信じておりましたから
-----なら、行くか
-----はい

二人が去った後も花は惜しみもなく次から次へと舞い落ちていた……この場に残された俺達を現から覆い隠すかのように。

「おいっ城戸、しっかりしろ!」
俺の腕の中で未だぼんやりとしている城戸にまさかと思いつつも頬を数度軽く叩く、するとだんだん城戸の眼に正気が取り戻ってきた。
「……蓮?」
「よかった、戻ったんだな」
そう言って抱きしめる俺に、何事かときょとんとした顔で城戸が尋ねてくる。
「蓮、俺何でこんなとこにいる訳?…それにお前もこんなとこで何してるんだよ?」
「お前、城戸……だよな?」
「何言ってんだよ、蓮!俺が俺じゃなきゃ誰だって言うんだよ!」
-----本当に城戸だ
訳も解らずぎゃーぎゃー騒ぐ城戸に俺は心底安堵し、顔までも綻んでくる。
「何笑ってんだよ!……ったく訳解んねー」
「お前は何も知らなくて良い」
-----それにこの事をこいつに説得するのも面倒だしな
ぶつぶつとまだ何か言い足り気な城戸を黙らせるために、俺は城戸の顎を捉え文句を言う口を封じ込める……と、こいつの甘い吐息に振れた瞬間今まで堪えていた物が一気に弾け飛んだ。そして上手い具合に半開きだった城戸の口に舌を滑り込ませ思う存分口内を荒らす。歯列の裏を舐め取り、泳ぐ舌を絡め、唾液も何もかもぬぐい取り、角度を変え何度も何度も……それこそ城戸に息をする暇も与えず俺が飽くまでその唇を貪った。
「…ふっ…はぁ………おま…いきなり過ぎ……」
ようやく解放した城戸が息を荒げながら悪態を付く。しかし俺が与えた激しい口付けにその眼は潤み、唇は誘うかのように濡れ、頬は高揚している。その表情は先ほどまでこいつの中にいた者も見せた……そう俺だけに与えられる為だけにある、俺だけが見て良い城戸の顔……その顔に見惚れつつも俺はさっきの奴の言葉がふと気にかかった。
-----俺の心が得られていないだと?相変わらずこいつは解ってない奴だ
どれだけ俺がお前に心乱され、悩まされ、そして惹かれているのか……俺の行動を見れば直ぐに解りそうなものを、それが解らないとは……しかもその事で変な物に取り憑かれるほど思い詰めているとは……しかし、あの時俺の中に振って湧いた妙な感情は、もしかして俺の中にも何かがいたという事なのか?
-----ふん、くだらん!
これ以上考えても解らないものは解らない、それにもう済んだ事だ。今はその事よりも目の前の城戸に良く解らせないと……俺は城戸の顔を捉え治しもう一度唇を合わせてから、ぼんやりしているこいつをきつく睨め付け、捨て台詞を吐く。
「お前が悪いんだからな」
「れん?…何……急に………」
「俺をさんざん困らせた罰だ」
「こま…ら…すって……おいっ、れ……や…め……つっ………」
城戸の戯れ言など初めから聞くつもりなんてはなっからこれっぽっちももなかった。こいつは普段の事は馬鹿が付くくらい脳天気で前向きなくせして、こと恋愛に……いや、俺に関してはだろう……これだけは、これも馬鹿が付くくらい直ぐに落ち込んで後ろ向きになる。むしろ俺はそんな俺の一喜一憂で振り回されているこいつを見るのを内心楽しんではいるが、あまり度を過ぎた城戸の落ち込む様を見るのは面白くない。今夜のことにしても、俺の気持ちはどうのと、とやかく口で話してもこいつが納得するはずもない……言ったところでこいつは自分に不利な方に解釈するに決まってる。それにこういうことは態度で示す方がてっとり早いと世間の相場にもある。
そう思ってはいても実際は城戸に解らすという理由はあくまでおまけで、本当は今、俺自身がこいつが欲しくて堪らない……
先ほど抱きしめた時から俺の胸の中にすっぽりと収まってる城戸の身体を立てた膝にもたれさせるように片腕でつなぎ止め、そして空いたもう一方の手で首もとまできちんと閉まっていたジャケットのファスナーを下ろし、そのままシャツを中に手を滑り込ませる。脇腹から鳩尾に向かってつーっと指を沿わせればそれだけでびくんと跳ね上がるのが抱え込んだ身体越しからよく解る。
「ふ…っ……う…っん……っ………」
俺は一方的に城戸の口に舌を差し込みそれこそ縦横無尽に走らせた。互いに飲み込みきれない唾液が零れて俺のそして城戸の顎にもつたわってゆく。時折発せられるのは声にならない吐息だけ、城戸は息が苦しいのか、それとも俺から逃れようとしているのか、嫌々と頭を振り、俺の肩に押し当てられた両の掌で強く俺を退けようとしてくる。しかしそんな些細な抵抗も次の刺激の前には脆くも崩れ落ちた……唇を解放して直ぐさま奴の喉元の柔らかい部分に強く吸い付き、そして同時に探り当てた胸の一番敏感な所をを捻り上げるという行為に……
「やっ!……はぁ…ぅ………ん…」
その刺激に城戸の身体はひときわ大きくしなり、その後ぐたぁっともたれ掛かってくる。その反動で押しのけようとしていた腕から力が抜け、俺の身体に添える程度になり、はぁはぁと荒い息を継ぐ城戸に俺はしてやったりとばかりに耳元に向かって囁きかけた。
「どうした?」
「卑、きょ…者……」
俺の言葉尻にある含みが解ったのか、潤みながらもきっとした眼でにらみ返してくる。
「何も、こんっ……所で…し…な……て…もぉ……」
城戸の言葉が続かないのは耳を舐りながら胸に這わされた指で刺激を与え続けているせいだろう……城戸が何を言おうと俺はこの行為を止めるつもりはない。それをこいつにちゃんと伝えたい、それだけは口に出して言わねばならないから……
「どんな所だろうとそんなもの関係ない。俺はいつも何処でだってお前だけを感じたいんだから」
-----だからお前も俺だけを感じて信じていれば良いんだ
「れ……ん……?」
俺の意図が解ったのか城戸は嬉しそうに微笑むとこくんと小さく頷いてぎゅっと俺にしがみついてきた。その仕草がとても愛らしくついつい虐めたくなる気分が湧いてくる。
「それに此処なら誰もいないからどんな声を出しても平気だぞ?」
「ばっかや……」
真っ赤になって顔を上げた城戸にチュッと音が出るようなキスと、出来るだけ優しい眼をしてやり宥め尽かせる。そんな俺に戸惑うようにして大人しくなった城戸は黙って俺に身体を預けた。

「くっ…………ふ………ぅん……っ…」
城戸の反応が本格的なものになってきた。俺もだんだん城戸の着ている物をうっとおしく感じ、ジャケットをむしり取りシャツをめくり上げ、そこから表れた……さっきまでさんざん指で嬲っていた……小さくても堅く尖った胸の突起にむしゃぶりつく。
「あっ……やぁー………」
そこを舌で転がし舐り上げ、時々思いついたように軽く甘噛みをしてやる。そしてもう片方は指の腹で押さえ込んだり、こね回したり、城戸が感じて弾み上がる時に合わせて摘み上げ爪の先で先端を弄る。そうすることで面白いくらいに城戸は身体をひくつかせ、霰もない声を張り上げる。それがますます俺を煽り、必要以上にこの動作を繰り返してるとも知らずに……
「もう……いゃ…………だ……ぁ…」
胸ばかり弄ばれて肝心なとこになかなか刺激が与えられないのにじれてか、俺の脚の間で横抱きになっていた身体の向きを変え、腰を燻らせながら摺ついてくる。上目遣いに城戸の様子を見上げると、頬は熱にうなされるように上気し、堅く閉じた瞳の端に涙を溜め、半開きの口元からは可愛らしい舌がちらちら見え隠れ、ただただ甘い喘ぎだけを断続的にはき続けている。
そんな城戸の表情もさることながら、小刻みに震える身体、悩ましく揺らめかす肢枝、摺寄せてくる腰……どれを取っても扇情的でついこの姿を永遠に留めておきたくなる。
しかし何時までもこのままという訳にもいかない。名残惜しいが俺はチュバとわざと音を立てて胸の突起から口を離し、城戸を抱え直してから耳元に向かって、これもわざとだがいつもより低い声で囁いた。
「何だ、もう我慢できないのか?」
耳元に囁く声も敏感に感じ取り「はぁ」と吐息とも喘ぎとも取れる物を俺に返して寄越す。もとより今の状態の城戸にまともな返事は期待していなかったが、俺はそれを肯定の意と勝手に解釈して次に進むべく城戸自身をジーンズの上からそっと撫で上げた。
「…ンッ!」
途端に城戸が強くしがみついて来た。触れたそこはもう厚い布越しでもはっきり解るくらいに形を変えどくどくと脈打っている。そのまま掌を押し当て、やわやわと揉んでやると城戸はもっと強い刺激が欲しいらしくふるふると頭を振って髪を乱れさす。
俺は城戸に即されるまま、ベルトを外し、ジーンズのフロントのボタンを抜きファスナーを下ろしてやる。ここに来て城戸は押さえ込まれていたものが少し楽になったのか「ほおっ」と息を吐く。
「城戸、少し腰を浮かせろ」
気怠そうに俺に体重を掛け、城戸が腰を捻った隙に下着ごとジーンズをぐいっと引き下ろす。するといくら熱を持ってるとは言えいきなり腹部を外気に晒された城戸の肌がさぁーと泡立つが、そんなこともお構いなしに限界を訴えている城戸のそこは俺から与えられる何かを期待して雫を垂らし待っている。それをおもむろに握り締め、人差し指で甘密を掻き出すように出口を引っ掻く。
「あっ……やぁ…ッ………ぇ……んっ!」
もう堪らないという風情で痴態を演じる城戸の姿に俺までもが熱くなる。これでは焦らされているのがどちらだか解くなってきた。取りあえず今は此奴をいかせる方が先だとばかりに数度強く扱いてやると微かな悲鳴を上げ城戸はあっけなく俺の手の中に欲望を吐き出した。

「今日は何だ、いつもより感じてるようだな?」
排出したばかりで荒い息を吐く城戸を少し休ませるため、そして俺自身このままだと此奴をめちゃくちゃにしてしまいそうなので少し平静を取り戻すため、一旦行為を中断させる……と言っても感じるか感じない程度に愛撫は施しながら……
「だって……蓮が……」
「ん、俺がどうした?」
「う…ん……蓮が…変な事……言うから……」
「何か言ったか?」
「俺だけを…感じたぃ…って……だから俺も……」
「だからお返しにお前も俺だけを感じてくれてるのか」
「そ…いう……けだけ…じゃ………な……アン……」
熱の冷めきっていない身体はほんの少しの動きにも敏感に反応してしまうらしい。緩やかな愛撫でさえ言葉を詰まらせ意味を無くしていく。
-----しかも俺を感じるから乱れるだと?
はっきりと告げられた訳ではなかったが、そう言う意味だろう。その言葉に俺の熱は下がるどころか激しさを増すばかりになる……もっと此奴を嬲りたい、早く此奴を貪りたい、此奴の身体を俺だけで満たしたい、その為には……
俺は城戸の後ろに手を這わせやすくするために、城戸を俺の前に膝建ちにさせ、その身体を肩で支えるようにして片手で双丘を割り、唾液で湿らせておいたもう一方の指を秘孔の入り口に押し当てる。その瞬間、城戸は身体を堅くしきゅっとそこを閉じる。俺はその緊張を解す為、肩口に唇を落とし、さっきの話を続けた。
「城戸、理由は他にもまだあるんだろ?」
「あっ……そ………にぃ………」
「ん?」
「さく……に…見…ら………るぅ…みた……い」
「それなら見せつけてやれ。お前がどれほど感じてるかを」
「-------やっ--------」
宥めるように周りを揉み解していた指を俺はその中に突き入れた。飛び上がる城戸の腰を制し、様子を見ながら入れる指を2本から3本と数を増やす。俺は熱い内壁を押し広げながら微妙にリズムをつけ掻き回していく。
「はぁ……あっ…………ぁ………」
それに合わせて城戸の腰もリズムを刻み出す。俺の腹で自分自身を擦り上げ、指を銜え込んだそこはもっともっとと強請って絡みついてくる。そんな城戸を更に追いやるように俺は探り当てたある一点を重点的に刺激してやる。
「あーーーっ!」
そこがよほど良いのだろう。やわやわと絡みつくだけだったものがぎゅっと締め上げてくる。それと同時に前の物も一段と大きくなってこのまま触らずとも後ろの刺激だけでいきそうなほどだ。
「城戸、指だけでいくか?」
むろんそうさせるつもりはない。俺だってこれ以上は限界だ。しかし聞きたいのだ、城戸の口から紡ぎだされる媚薬のようにしびれる甘い言葉を……
「や……れ…ん………」
「どうする?言わないのならこのままだぞ」
城戸の欲しい所にはもう触れず、入り口の浅い部分だけで抜き差ししてやる。すっかり解れたそこは逆にそうする事でちゅぷんちゅぷんといやらしい音を立て、俺の言葉と共に城戸の耳を犯すには十分な効果を上げる。
「こんなの…やだぁ………」
深い刺激を欲して城戸が泣きを入れてくる。ともすると俺の腕を掴んで自ら腰を落としてきそうな勢いの城戸を押さえ込み、もう一度問いかける。
「だったらちゃんと言え」
「うっ……れ…ん………蓮の……入れ…てっ!」
思い通りの答えに俺は満足し指を引き抜くと途端に城戸の身体が崩れ落ちた。俺は軽く褒美のキスをやり、城戸の身体を反転させる。そして取りだした俺の上に乗せる形に跨らせ、思い切り後ろから抱きすくめる。
「やぁあっ………ぅ……んっ…………はぁ……ぁ…」
待ちこがれていた物を与えられ、全てを飲み込んだ城戸は満足そうに息を吐くが、その部分はそれだけでは飽きたらずもっと奥へと俺を誘うようにひくつき、蠢く。今夜の城戸は珍しく積極的だ、これではこっちが先に持ってかれてしまう。俺は苦笑を洩らしたが、気を取り直し、その動きに誘われるまま城戸の脚を抱え上げ、大きく開かせて、身体ごと上下に房ぶり落とし律動させる。
「れ…ん………もっ…と…ぉ………」
打ち据える度に身体を引き落とされて自分の体重がかかる分かなり奥まで到達しているはずなのに、城戸は尚も貪欲に俺を欲してやまない。自分の今ある姿も気に止めず、あまつさえほっておかれている前に手を伸ばし自分で慰めようとさえしている。
「あっ、ぃ…っ………いいっ……あん……」
片手で根本をきつく握り締め、もう一方で先端の割れ目を爪を使って引っ掻き、弾き弄ぶ。その所作は早くいきたいからではなくもっと強い快楽を得、止めどなく持続させるもの……俺も今夜はかなり興奮しているが、城戸のその様子は異常としか言い様がない……その時、ふっと俺の鼻を何かが掠めた。
-----花の匂い?
桜の花にしてはひどく甘ったるい匂いだ。ひょっとしてこれが?……目前にあるその樹を見上げてみるとそれは先ほどの清涼とした白い光とは打って変わって、ぼんやりと薄赤い色に染まっている。欲情を色に例えればこんな色になるのかもしれない。それが俺達の周りに花びらをひらひらと舞い落とし、そして振るごとにその匂いも強くなる。
-----お前これは、さっきの礼のつもりか?そんなもの俺には無用だ!
俺が桜に向かって一喝すると今度はくすくすと笑うかのように枝を震わせ、ひときわ花を舞い踊らせる。するとむせかえるほど俺達を包んでいた匂いは消え、桜も眠ったように押し黙り、その色もごく普通の花の色に戻った。
後に残ったのは頭上から降りてくる朧月の穏やかな灯りと春特有の滑らかな大気、それに何処にでもある一本の古い桜の樹……そして絡み合う俺と城戸……

「…………ぇん………れん、蓮?」
気がつくと心配そうに俺の顔をのぞき込む城戸の顔がそこにあった。まだ行為の最中であるため多少虚ろな眼をしてはいるが、先程のような怪しい感じはしない。しかもいつの間にか体勢が変わり俺と城戸はお互い向かい合い重なっていた。
「城戸……?」
「酷いよ蓮、俺にあんな恥ずかしい格好させてさ……それに俺はこうして蓮に掴まっていたいの……」
そう言って城戸は俺にぎゅっと抱きついてきた……自分の言った事がよっぽど照れくさかったのだろう、赤く染まった顔を見られまいと俺の肩に頭を乗っけて項垂れる。
そんな城戸の可愛らしい告白にこっちまで照れくさくなってきて、俺はそれを悟られまいとついついからかうように憎まれ口をたたいてしまう。
「城戸、顔を上げろ。それじゃあお前の大好きなキスも出来ないぞ」
こめかみを両手で挟んで顔を上げさせ意地悪そうに笑ってやる。しかし城戸はそれには乗ってこず、何処か余裕あり気に返してくる。
「んーーっ、キスもして欲しいけど……それより、蓮」
「何だ?」
「俺このまんまでも……良いんだけど……」
「ん?」
「やっぱ…ねぇ…………蓮…ここ動かして……」
城戸は悪戯っぽく笑ったかと思うとすぅっと俺にしなだれ掛かり、繋がったままの腰を燻らして、早くと言わんばかりに身体を使ってお強請りしてくる。それは決して艶めかしくはない至極幼稚で稚拙な媚態、だが俺を煽るには十分すぎる程の効果を持っているもの。
やっぱりこの方がお前らしい……甘えん坊で自分に正直なくせに恥ずかしがり屋で、そしてほんの少し淫らな……俺は城戸の髪をくしゃくしゃと頭を撫でるように掻き回し、おそらく満面の笑みを浮かべているだろう、城戸の期待に応えるべく初めはゆっくりと次第に激しく抜き差しする。
「ふぁ…っん……あっ…あっ………」
動きに合わせて零れるのはお互いの熱い吐息だけ。城戸は揺さぶる振動に耐えるようにして腕を更に俺に絡みつけてくる。それにも増して俺を包み込む内部も熱く熱く絡みついて離そうとしない。
「…れぇ……んっ……あっ…ま………もぉ…っ…」
間に挟まれしとどに濡れそぼったそれも熱く息づき、限界を訴え俺を求めている。
「城戸、こうか?」
俺の声もかなり上擦っている……城戸のものに手を当てた途端、内壁が引き締まり銜え込んだ俺を引き締める。
「そこ……あ…っ………もっと……も…ン…」
「……っく、」
感じるまま髪を振り乱し、身体をしならせる城戸を押さえ込み、求められる都度握った手を上下に動かす。それを扱ってやればやるほど内部の収縮もきつくなり、背筋から頭の裏まで痺れる感覚が俺の中を駆けめぐる。これ以上は俺も限界だ。
「…も…いく…っ……れん…いき……た…ぁい……」
「き、ど……いく…ぞ…っ!」
抱えた腰を引き寄せ、ひときわ強く、深く、城戸の中へと俺を打ち込む。
「れんっ……れ…ん……やぁ……ぁぁ…っ…」
城戸が甲高く鳴くと俺の手に勢い良く白濁が散る。俺もまた痙攣にも似た締め上げに誘われるまま己の欲望を解き放った。

疲れ果てた城戸の衣類を整えてやった後、俺達は寄り添ってぼんやりと桜の樹を見上げていた。
「蓮……桜、綺麗だね」
「あぁ、そうだな」
----- 化けてなければな
「そういやー、桜の樹の下って死体が埋まってるんだろ?」
「お前、突然何を急に物騒な事を……」
「んー、何かさっ、そう思っただけだけど……蓮、もしさ俺が先に死んだら桜の樹の下に埋めてくんない」
「お前をか?」
「うん、だってこんなに綺麗な花の下なら、俺も綺麗な気持ちのまま蓮のこと待っててられるだろ。それに桜って長生きなんだろ?だったらもしも蓮が別の道を歩んでても俺は変わらず、ずーっと同じ気持ちのまま、何時までも同じ花を咲かしてられるじゃん」
へへっと笑いながら城戸は鼻をぐずっとさせる。
-----この馬鹿が、泣きながら言う話か。それにそんな酔狂な事考えてるから変なのにつけ込まれるんだ
城戸の馬鹿さ加減にはほとほと呆れ返る。しかしそれはかなり飛躍した考え方だが、城戸は城戸なりにいろんな想いを抱えているんだと俺は改めて此奴に感心した。と同時にそんな此奴に俺はやはり振り回されるのかと自分の運命をも呪ってもしまう。
「れん?」
知らず知らず俺は笑っていたんだろう。返事も返さず笑う俺を城戸が怪訝そうに眺めている。
「何だよー、どうせ馬鹿にしてるんだろ」
怒って俺から離れようとする城戸を引き戻し、もう一度俺の胸の中に抱き込んだ。
「桜、好きなんだろ?だったらもう少し見ていけば良い」
「………ふん………」
そのまま大人しく城戸は俺にもたれ掛かり散り行く花の行方を眼で追っている。俺はその花に乗って城戸が何処かに行ってしまわないように抱き留める腕に力を込め、城戸の温もりと香りを感じながら俺達の行く末に想いをはせる。

この先何があろうとお前を包むこの手を離す事はないだろう
それが俺達に吉と出ようと凶と出ようとそんな事は関係はない
どんな道でもお前と共に行けるならそれで俺は満足だから
例えその道の行く先が死あるのみだとしても
俺はお前を待たせる事だけはしない
その時を迎えれば城戸、お前にも解るだろう

俺はお前を置いて逝く事も、お前だけを逝かせる事も決してしないから





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夜崎沙夢様より頂きました!!
Mっすんらぶvな彼女のとてもレアな小説です!ありがとうございますvvvv
なんと初の蓮真だそうです。この月と桜の雰囲気が堪りませんv(や○いもvv)
鈴華、不祥ながらイラストをつけさせて頂こうと思ったのですが、完成が遅くなりそうなので先に飾らせていただいちゃいましたvv
ああ、すごく嬉しいですvvまたどうぞよろしくです〜〜vvv(え)(←でも本気v)