長い夜
真司は自分の部屋の前で立ち止まったまま、中に入るのを躊躇っていた。
先程の、真司にとっては災難意外の何物でもない晩餐の後、蓮は優衣を連れて先に帰ってしまっていた。北岡と真司は島田と令子を送る為、雑踏を四人並んで歩いた。
異様なまでに無口な真司に、三人は「 ごめんね」とか「
城戸くん好きだよv」とか「 ちゃんと認めてるから」などの言葉を掛け続けていたが、当の真司は別れ際に耳元で囁かれた蓮の一言で頭の中が一杯だった。
“ お仕置き ”
・・・ って、何だろう・・・。
おやつ禁止、とか。イヤ、子供じゃないんだし。
夕飯・・・、は今食べたから抜かれても平気だ。朝食抜かれたってコンビニで何か買えばいいし。よし、怖くないぞ。・・・でも、あの蓮の事だからきっともっと何か怖い事考えてるだろうな。「髭伸ばせ
」なんて言われたらどうしよう。俺、髭似合わないんだよな・・・。
あ、でもそれは罰ゲ−ムか。お仕置き。お仕置き・・・。
一通り百面相をした後、再び腕を組んで考え込む真司を三人は離れた所で見守っていた。
「 ・・・ 島田さんのせいだからね ・・・ 」
「 ふふ。壊れた真司くん・・・。楽しい 」
「 あのねぇ・・・ 」
呆れた声を出す令子に北岡は耳打ちした。
「 僕、秘書に車回してもらうからお二人とも送りますよ。これ以上城戸くんと一緒にいたら僕達も周りに同種だと思われかねない」
「 ・・・一人にして大丈夫かしら。城戸くん」
「 大丈夫ですよ。成人した大人だってさっき彼が自分で言っていたでしょう?」
「 それもそうね 」
そんな会話が背後でなされていたとはまるで気付いていない真司は、
(お、おしりぺんぺんだ!お仕置きの定番!い、嫌だそれは!!)
という結論に達し、
「 北岡さん!いやセンセイ!!今晩泊め・・・」
振り向き様叫んだが、そこには既に見知った顔はなかった。
そんな訳で花鶏に戻ったはいいが、どうしても部屋に入る勇気が持てずにドアの前で立ち止まっていた。
あれからも真司は色々と考えながら歩いていた。
先程は錯乱のあまり変な結論に達してしまったが、落ち着いて考えれば蓮がそんな事をする筈がない。きっといつもの脅しだろう。
「 うん。それだよ 」
真司は大きく頷くと部屋のノブを回した。
「 ・・・ あれ? 」
あれ程悩んだというのに、原因である蓮の姿がそこにはなかった。
少々拍子抜けしつつ、安堵の溜息と共に真司は自分のベッドにどさり、と腰を下ろした。
暗い天上を見上げながら、ふと蓮の怒りの理由がまだ解っていない事に気が付いた。
「 ・・・ 俺が、令子さんと北岡の仲は認めないって言って・・・?」
違う。
真司は口の中で呟いた。
「 俺が、令子さんを心配したから・・・?え?」
真司はぎょっとした。
不意に、蓮の唇の感触が蘇る。あの熱い腕に抱きしめられるといつも真司は何も考えられなくなってしまう。そして、後で騙されたような感覚に陥るのだ。
「 ちょ、ちょっと待って。じゃあ、まさか ・・・」
お仕置きの意味って・・・ 。
呟いた直後、部屋のドアが開いた。
「 ・・・ まさか、何だ? 」
驚いて顔を上げると、風呂上がりらしい蓮がタオルを肩にかけたまま真司を見下ろしている。
「 何でもない! 」
慌てて首を横に振ると、真司は頭から布団を被ってベッドに横になった。
「 風呂は?入らないのか?」
「 入らない!今日は疲れたからいい 」
少しの間を置いて蓮の声が聞こえた。
「 不潔な人間との同居に苦痛を覚える。借金に・・・」
「 そう!俺不潔なんだ!きったないって!だからお仕置きは・・・」
がばっと起き上がって言った真司はとにかく必死で、自分の失言にさえ気付いていない。
蓮は驚いたように僅かに目を見開いたが、
「 ほう。そんなに期待していたのか 」
にやりと口の端に笑みを浮かべた。
真司は無言で首を横に振る。
蓮はぎしりと音を立ててベッドに乗ると、真司の肩に手をかけた。
「 ち、違う。違うって・・・ 」
「 お前から誘うのは始めてだな 」
「 だ、だから、違う・・・ 」
期待からか恐怖からか、真司の瞳は潤みはじめていた。
当然後者だと本人は言うだろうが、蓮にとってそれは誘い意外の何でもない。
唇を合わせると簡単に大人しくなる真司を、蓮は知り尽くしていた。
震える唇に舌を這わせ、徐々に重ねる。角度を変えて口付けた後、ゆっくりと舌を差し入れた。身体を固くしたまま何の反応もしない真司の口内を解きほぐすように、時間をかけて舐る。
ゆっくりと固く瞑った目を開き、真司は蓮の優しい愛撫にほっとしたように息を吐き出した。
一旦吐き出した息は直ぐに熱い吐息に変る。
真司の変化を確認すると、蓮は彼の両腕を後ろに回してタオルで固定してしまった。
「 ・・・えっ?何すんだよ!?」
我に帰った真司は蓮を見上げた。
「 教えてやる。お仕置きの基本は縛りにある」
真司は一気に血の気が引くのを感じた。騙されたのだ。またもや。
蓮は呆然とする真司の肩に手を掛け押し倒すと、おもむろにシャツをめくり上げ、胸に舌を這わせた。
「 ・・・ 蓮、俺、やっぱ、風呂入ってくる」
「 もう遅い 」
快感に耐えるように途切れ途切れに言う真司に、蓮は冷たく答える。
小さな突起を弄ると、真司の身体はぴくりと跳ねた。
あっという間に下半身をむき出しにされ、蓮の手が内股から身体の線にそって移動して行く。
二人分の体重をうけて真司の後ろに回された手の感覚がなくなっているが、それよりも強い刺激を何度も与えられ、気にする余裕も失われていた。
ただ、蓮の手は先程のキスから形を持ちはじめている真司自身にだけは決して触れない。
焦らされている、と解っていても我慢が出来なかった。
「 蓮・・・ 」
「 何だ 」
蓮が身体を少し動かした拍子に微かに腕がそれを掠める。
「 あっ・・・ 」
思わず声が漏れ、真司は縋るように蓮を見上げた。
「 ・・・ 何だ? 」
「 ・・・・・ 」
僅かに笑みさえ浮かべる蓮を真司は信じられない、という表情で見返す。
「 どうして欲しい?言ってみろ 」
「 ・・・・っ 」
顔を真っ赤に染めて、真司は目の前にある黒い瞳を睨み付けた。
「 蓮の・・・っ、あほっ! 」
「 お前はおねだりの仕方も知らないのか? 」
「 お・・・っ!?」
「 ・・・ 少し、待ってろ 」
絶句する真司をその場に残して蓮は起き上がると部屋を出て行ってしまった。
「 ・・・・・ 蓮? 」
中途半端な状態で暗闇の中取り残された真司はのろのろと上半身を起こした。
こんな事は初めてでどうしたらいいのか解からない。
腕は痺れていうことを利かないが、懸命に動かしてタオルを外そうともがく。
――― また、怒らせたのだろうか・・・ 。
そう思うと涙が出そうになったが、それでもどうにかして熱を持った身体を静めたくて堪らなかった。
もう一度手首を動かすと、戒めはするりと解けた。
真司は恐る恐る右手を伸ばして自分のそれに触る。
充分に高まっているその先からは先走りの液が流れ出ていた。
「 ・・・・ っ 」
解放を求めて、触れた手をゆっくりと動かす。
その時、ばたんとドアが開いて蓮が戻ってきた。
「 ・・・ あ 」
蓮はちらりと真司を見ると、口を開いた。
「 どうした?続けろ 」
居た堪れなくなって俯く真司の側に蓮はゆっくりと近付いた。
「 飲むか? 」
その手には、琥珀の液体と氷の入ったグラスがある。
「 ・・・・・ 」
真司は俯いたまま首を振った。
蓮はその液体を口に含むと真司に口付けた。
「 !? 」
冷たい液体が真司の喉を通った途端、かっと焼け付くような衝撃を受ける。
ブランデ−特有の辛みが口の中に残って気持ちが悪い。
咳き込みそうになったが、何とか耐えた。
「 足を広げろ 」
突然の蓮の言葉に真司はびくりとした。
「 イかせてやるから、言う事聞け 」
「 ・・・・・ 」
抵抗はあったが、大人しく言う通りにする。
蓮は真司の足首を掴むと、大きく広げた。
反動で上半身がベッドに逆戻りする。
からん、と氷がグラスにあたる音がして、真司は頭を上げた。
「 ・・・ 蓮?何、して・・・ あっ 」
冷たい感触が後ろにあたった。
「 や、やめろよ!」
蓮が何をしようとしているかを悟った真司はずりずりと上へ逃げるが、強い力で引き戻される。
「 や、嫌だ、嫌だ! 」
必死の抵抗も空しく、真司は冷たい固まりをすっぽりと呑み込んだらしい。
声にならない悲鳴が漏れる。
それと同時に新しい感覚が涌き上がり、真司は目を見開いた。
「 ・・・ あ? 」
ひりひりと疼くようなその感覚に、真司は腰を揺らした。
「 何、したんだよ・・・ 」
「 多分、アルコ−ルのせいだろう 」
蓮は何でもない事のように言い放つ。
真司は疼きと満たされない欲求のせいで意識が朦朧としてきた。
「 もう、やだ。何で・・・ 」
ぼろぼろと真司の両目から涙が零れた。
「 解かったか?どうしてだか 」
「 ・・・ 俺が、しんぱ、い、した、から・・・」
泣きながら言う真司に、蓮は細めた。
「 今日だけじゃないだろう? 」
「 もう、わかっ・・・から・・・ 」
もうしない、と繰り返す真司にようやく納得したらしい。蓮は熱く熱を持った真司のソレにそっと触れてきた。
「 解ればいい 」
囁きながら、蓮は自分の衣服を脱ぎ捨てる。
体温で溶け出した氷の雫で濡れそぼったところに、蓮はゆっくりと押し入った。
後はもう、目茶苦茶だった。
散々犯され、散々イかされて、真司は涙でぐちゃぐちゃになりながら「ごめんなさい」とか「許して欲しい」とか「蓮だけだから・・・」とか・・・他にも色々と・・・、言わされた。
目が覚めるとそれはもう最悪で、頭は痛いし、身体中痛いし、下半身などはひりひりと痺れたように疼くしで、真司はふてくされてベッドから出ようとしなかった。
なのに本人は至って真面目な顔で聞いてくる。
「 どうした?遅刻するぞ 」
殴ってやりたかったが、仕返しが怖くて真司は布団を頭から被った。
「 ・・・ 今日は有給取る 」
「 見習いにそんなモノあるのか? 」
勿論、ない。
「 ・・・ 俺が日給出してやろうか 」
蓮の言葉に真司は布団から顔だけを出した。
「 ホント? 」
「 お仕置き中級者コ−スに行く気があるならな」
「 ・・・ ごめんなさい! 」
真司は即座に謝り、再び布団を被った。
蓮の押さえた笑い声が聞こえる。普段滅多に笑わないクセに。
とりあえず、悪夢のような長い夜は終わったのだ。
真司は再び目を瞑った。
この後編集長からの電話で叩き起こされる事を覚悟しながら・・・。
(終)
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ほほほ。メロエロになってました?ってゆ−か、もしかして最低?
ごめんなさい、頭麻痺してて自分では分りませんのvエロがやりたかっただけ。
でも読み返すと何だか物足りないのは私の知識不足のせいでしょう・・・。
これを書くにあたり、師匠である滝上珠里様に“お仕置き”のご講義して頂きましたv
ありがとうございますv…ごめんなさい、こんなんで…。