夏祭り






祭りだ。
町を上げての大掛かりな祭りで、人手もすごい。
「暑いのによくやるよ」
賑やかな商店街を歩きながら、土方は呟いた。
警備、という事で駆り出された真撰組は隊服を着込んでの出動だ。
通り過ぎる人々は皆浴衣姿や薄着で、この暑さの中でも楽しげなのが更に土方の神経を逆撫でする。
それだけではない。先程から探してるのに見つからない沖田にも、土方は苛々していた。
「鬼副長」
不意に後ろから声を掛けられ、土方は振り向いた。
「手前、今まで何してやがった!?」
怒気を込めて睨む土方の前には沖田がしょんぼりとした様子で立っていた。
「ちゃんと警備してやしたよ」
「・・・ほう」
確かに、お面もわたあめもイカ焼きも持っていない。
「金忘れたんで仕方なく」
「ほう」
ぴくりと土方のこめかみが動いた。それでもまあ、真面目に仕事をしていたのなら許そうかと思う。
「褒美に金、くだせェ」
「お前よぉ、前から一度聞こうと思ってたんだが、仕事を何だと思ってんだ?」
「仕事は仕事だろィ?いいから、金出せよ」
「警察がたかりかよ」
「出さねぇなら、権力行使か副長のツケで・・・」
「めちゃめちゃタチ悪ぃな。両方却下だ。つか、手前もう俺から離れんな」
言った途端、目の前から沖田の姿が消えていた。
「うっわ。怒った。俺は怒ったぞ、総悟ぉっ!!」
土方は目を吊り上げると、沖田の姿を探して走り出した。最早警備どころではない。
どれだけ走り回っただろう。
日が落ちて、一つ二つ、花火が上がり始めていた。
怒り心頭のテンションのまま、汗だくで辿り着いた広場に、沖田は居た。
土方の姿を認めた沖田は「げ。」と呟き、けれど逃げ出さず、土方が近くに来るのを待っていた。
「いい度胸だ。覚悟は出来てるらしぃな」
「まぁまぁ、土方さん。堅気のみなさんのまったりを邪魔しちゃいけねぇよ。どうですかィ?一つ」
差し出した沖田の手にはたこ焼き。よく見ると、ウルトラマンのお面とりんごあめも装着済みだ。
「とうとうやったか。恐喝罪でマジぶち込むぞ!?」
「やだなァ、俺ァ真撰組隊長ですぜ?そんなこたァしやせん。物欲しそうに立ってるだけで色んな人が勝手にくれたんでさァ。土方さんもやってみなせェ」
「アホかぁぁぁっ!!」
土方は力の限りに叫び、そのまま脱力した。
頼む、誰かこいつ更正させてくれ。誰にともなしに真剣に祈る。
「食っちまったもんはしかたねぇ。返して来い。金なら貸すから」
「やでィ。アンタに借り作るなんて」
「じゃあ、屯所帰って金取って来い!」
「面倒くせェ。身体で返してきまさァ」
本気なのか何なのか、踵を返す沖田の襟ぐりを掴む。
「安いな、お前の身体。安過ぎるよ、閉店セール並みだよ」
「くれるってモンもらって何が悪いんでィ?」
沖田の道徳観念のなさは自分の責任によるものでもあるのだろう。
土方は大きく息を吐き出すと、沖田を見た。
「・・・分かった。金出すから俺に身体で払え」
沖田はしばらく考えると、「仕方ねぇな」と呟いた。
そもそも、“身体で払う”の意味をちゃんと理解しているのだろうか?
この顔で物欲しそうな顔で見つめられたら、もしかしたら土方でさえ何でも買い与えてしまうかもしれない。
そんな考えがふと頭を過ぎり、その底にある浅ましい下心に自分で驚いた。
そして、実際沖田に買い与えた奴等の事を思うと胸の辺りがむかむかとする。多分、今の土方が思った下心を持ったであろう奴等に。
そんな土方の心中など知る由もなく、沖田は気付いたように口を開いた。
「でもよォ、土方さん。もう何処の誰に何を買ってもらったか忘れちまったよ」
「だろうな・・・」
「て、こたァ、無罪放免かィ?」
にやりと笑みを浮かべる沖田の顔を見ると、本当に知らないでやっているのか?という疑問符が浮かんでくる。
「・・・・買ってやったヤツが悪ぃな」
開き直って言いながら、沖田をこんな風にしたのは間違いなく自分の責任だと、この時土方は思った。
何故か、自分は沖田に甘い。
「もうすぐ、祭りもお開きですぜィ」
沖田の言葉に頷く。
惜しむように、花火が夜空でその花を開かせていた。
「土方さん、わたあめ買ってくだせェ」
「まだ食うか。あんなクソ甘ぇもん・・・」
言った土方の唇に、甘いものが触れた。りんごあめの味だ。
・・・りんごあめ?違う、今のは・・・。
「先払いでさァ。・・・たまには甘いモンも、いいでしょう?」
目を見開く土方に微笑む沖田。
何故自分が沖田を許してしまうのか、なんとなく分かった気がした。
















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夏が終わる前に〜。
ちなみに私はりんごあめとチョコバナナは苦手です〜。(関係ない)




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